第21話 「伝言」

墓地へと続く緩やかな坂道を歩く未来。


もう何度も通うこの道を行き着いた先に彼女、如月樹里の姿があった。


人の気配に何となく振り向いた彼女に

「こんにちわ!」未来が挨拶をするとしばらく考えた後に

「あなたは確か・・・未来さんね?」

彼女はそう聞いた後に返答を待たず丁寧に頭を下げた。


「如月さん・・・お久し振りです」

曖昧な笑顔を浮かべながら未来は再び頭を下げる

彼女の長い髪が風になびく。


「今日は如月さんにお話があって来ました・・・

御参りはもう済まされたんですか?」

手に持ったままの花束を見て未来が彼女に尋ねると

「いいえ・・・これから行くところでした」

「未来さんも一緒に行きますか?」

2人は連れ添ってお墓参りを済ませると墓地に設置されたコンクリート製の長椅子に腰掛けた。


並んで座っているものの2人の距離は微妙な関係を含むかの様に開いていた。


「お葬式で会って以来でしたね」

気まずい空気を切る様に彼女から未来に話し掛ける

「あの時は取り乱して失礼なことばかりでごめんなさい!」

未来が謝ると

「いいのよ・・・」

「大切な人を失うというのは誰でも辛いことだもの」

まだご主人が亡くなられて日も浅い・・・まだ悲しみから立ち上がれないのだろう

彼女は手に持ったハンカチで目頭を押さえながら言った。


「私がこれから話すことを如月さんは信じてくれますか?」

未来は前置きなしで唐突に切り出した!

ちょっと驚いた表情を見せた彼女だったがすぐに頷いた。


「私には死んだ人が見えるんです!」未来が言うと

「えっ!?」

一瞬、時が止まったかの様な表情をした彼女が

「いつから見えているの?」

信じてくれたらしい・・・真剣な顔で聞かれた。


「ある日突然、私の目の前に現われました」

「最初は心臓が止まるかと思いました」

未来は胸に手を当てると言葉を続けた

「だけど彼には過去の記憶が全く残って無いのです!」

彼女の目は未来の話を全く疑っていなかった。


「もしかして・・・その彼は・・・」

彼女の言葉に深く頷きながら未来は言った

「彼は如月孝さんを知っています!」

「孝」という言葉に彼女は極端に反応し2人の距離はまたたく間にグッと近くなった!


「私には孝さんが見えないし声も聴こえません」

未来は先を急ぐ様な表情の彼女に続けて言った

「私は彼を介して孝さんの伝言を預かって来ました!」

その言葉を聴いた彼女の目から涙が溢れ出す・・・

「その伝言を・・・どうか聞かせて貰えますか?」

彼女の声は心の底からやっと絞り出した様にとても小さな声だった。


「孝さんはずっと如月さんのそばに居て伝える方法がないかと努力されてたみたいです」

「それでも何の方法もみつからなくて彼を頼って来られました」

「それで彼が介した伝言を如月さんに届けに来ました」

そこまで説明した未来はひと呼吸、間を置いた。


「わかりました・・・聞かせて頂けますか?」

彼女は姿勢を正しきちっと未来の方を向いた

「孝さんの記憶は亡くなった翌日から30日間で全て無くなり生まれ変わります」

「それまでは如月さんのすぐそばに居るそうです!」

「それと死んではいるけど元気だし痛みも無いので心配はしなくていいと言われました」

彼女の目に再び涙が滲んでくる・・・


「最後に出逢えて良かったと・・・」

「初めて声を掛けるまで何度も何度もあの道を

通られたそうで勇気を出して声を掛けて良かったと!」

「一緒に暮らせて幸福だったと言われました」

「これからも強く生きて欲しい!それだけが俺の・・・願い・・・だと・・・」

なるだけ事務的に伝えようとしていた未来だったが最後は感情に流され言葉も途切れてしまった。


「ありがとう・・・未来さん、本当にありがとう!」

彼女は未来の両手を握り何度もお礼を繰り返した

「さあ帰ってあげて下さい!孝さんが待ってます!」

未来が言うと彼女は立ち上がり

「帰ります・・・見えなくても話せなくても彼が居るのなら私の帰る場所は一つしか有りません」

何度も振り返っては頭を下げ彼女は帰って行った。


未来は何かを決意した様子で姿が見えなくなるまで手を振り続けた。

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