第20話 「再会」

「行って来まぁ~す!」

未来は元気な声で言うと玄関を出る

僕は彼女を見送る為に一緒に並んで外に出た。


「おはよう!久し振りだね」

男の声が聴こえてきたので彼はその方向を見た。


「あぁ、いつかの・・・」

そう言えば、まだ名前も聞いてなかったことに気付く。


「俺の名前は如月孝、あらためて宜しくな」

右手を差し出されて彼は握手に応えた。


「僕の名前はえ~っと・・・?」

僕が応答に行き詰まっていると孝が言った

「まだ思い出せないんだな!?」

「自己紹介はいいよ、君に頼みたいことがあるんだ」

そこまで孝が言うと

門を閉めた未来が近付き不思議そうな顔で

「そこに誰かがいるの・・・?」と尋ねた。


「えっ!?未来には・・・見えないのか?」

これは僕にとって意外だった!

僕のことが見えてるんだから他の霊体も見えると勝手に思い込んでいただけだったのか・・・


「誰かいるのね?初めまして、藤沢未来です!」

ぺこりと頭を下げて彼女が挨拶すると

「如月孝です、宜しく」と孝は挨拶を返したが彼女にその声も仕草もわからないらしい。


「それで僕に頼みがあるってどんなことでしょう?」

未来にも状況がわかる様に僕は彼に聞いた

「実は僕の妻に伝言を頼みたいんだ」

孝は沈痛な面持ちで僕に深く頭を下げた。


「如月さんの奥さんに伝言ですか・・・?」

僕は敢えて彼の言葉を復唱した

勿論、隣りにいる未来に伝える為にそうした。


「君がそこの未来さんと話しているのを今朝、偶然見かけたんだ・・・朝の散歩中にね」

「俺はいつも妻の側に居て色んなことを試してみたがどうしても伝える術がみつからなくて・・・」


涙声になりちょっと言葉を区切った彼は

「未来さんから俺の伝言を伝えてくれる様に君から頼んではもらえないだろうか?」

本当に困っているのだろう、真剣な眼差しだった。


彼の言葉を復唱した僕は未来に

「どうする・・・?」

「僕からも頼むから引き受けてはくれないか!?」

彼と僕は同時に頭を下げた。


「信じて貰えるかはわからないけどいいわよ!」

彼女は笑顔で快く承諾した

「ところでどうして僕がここだとわかったんですか?」

僕は素朴な疑問を彼に聞いてみた。


その質問の直後、彼女が激しく首を横に振り言わないでと彼に必死の合図を送ったことを僕はこの時、気付かずにいた。


「い・いや・・・この辺りを探していたら偶然、君が玄関から外に出て来るのに出会したんだよ」

彼は彼女の合図に微かに頷くとそう僕に答えた。


相変わらずこの人は何かを隠してる様な言動だけど困ってる人を助けるのは当り前のことだ!

だが「そうなんですか・・・」と僕も曖昧な応えしか彼に返せなかった。


「俺の妻は名前を樹里というんだが毎日、俺の墓参りに出掛けるからその時に会って伝えて欲しい」

その言葉を僕が未来に伝えると


「わかりました、でも伝言は私一人で行きます!」

何故そこまで1人にこだわるのか僕には不思議な気がしたが彼は何度も頷きながら理解した様で

「わかった!伝えてくれ・・・お願いします」

そう言ったが彼女には聴こえないので僕が伝えた。


それからしばし打ち合わせをすると未来は学校へ僕は家の中へ、そして孝は妻のもとに帰った。


そして次の日は土曜日

真っ青に広がった空は雲もなく気持ち良かった!


「じゃあ私は樹里さんに話して来るね」

僕にそう言って笑った未来は樹里に会いに出掛けた。

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