第19話 「更なる試練」
樹里の祈る日々は続いた。
朝は病院に行き孝の様子を見てから会社に出勤し昼休みになるとまた病院へ・・・
仕事が終わると思い出の神社でお参りをし病院に行く。
夜になると自宅に帰り泣き崩れる・・・
そんな毎日の繰り返しだった。
「君にプロポーズした日の夢をみてた」
突然、孝はそう言うと
「あの日、誓った青空はどこに消えたんだろう?」
「君との誓いを守れなくてごめんな・・・」
苦しそうに言うと彼女の手を優しく握った。
「いいのよ!貴方は私をずっと守り続けた・・・だから私は幸せなの!今度は私が貴方を守るわ」
握られた手に頬を寄せ彼女は涙ぐむ。
彼の病状は日増しに悪化し今では話すことも辛いらしく弱々しい微笑みを浮かべるだけ・・・
それでも彼女は諦めたくなかった!
もしかしたら奇跡が起きて助かるかも・・・
そんな思いでひたすら祈り続ける。
「おい!樹里は毎日ここに来てないか?」
モアがそう言うと
「そうだな・・・昨日も見たな!?」
ピノがそう答えた。
「オレはちょっと彼女に憑いて行ってどんな事情があるのか?見てみたいんだ!」
ピノが言うと
「よせよせ!ジルやミラに知れたら面倒なことになるからやめとけ!オレ達の役目じゃない!」
モアは止めたが
「行って来る!」そう言い残したピノは樹里に憑依すると行ってしまった。
「懲罰を受けることになってもオレは知らないぞ」
樹里の背中に呼び掛けたがピノの返事は無かった。
数日後、ジルとミラに呼ばれたピノは罰として記録の管理を命じられた・・・退屈な仕事だがピノには受けるしか道は無い!
「オレならあんな病気など簡単に治せたのにな」
そう言いながら記録保管室へと向かった。
その日の深夜、孝の容態は急変した!
樹里は彼の手を握り懸命に祈り続けたが彼は苦しげな呻き声を洩らした後に絶命した。
樹里は彼の体を揺すりながら名前を呼び続けたが返事もなく笑顔も無かった・・・
彼女は孤独だったあの頃よりも更なる孤独になってしまった。
一人にしないで!私を一人にしないで・・・
心の底から絞り出す悲痛な願いは届かなかった。
あれから数日、孝の葬儀を終え埋葬しても樹里の心はまだ彼の死を受け入れられなかった。
彼は自分の全てだった・・・
彼の存在しない世界など彼女に興味はなく毎日、彼のお墓を訪れては話し掛ける。
いつもの花屋さんで買った花束を手に今日も彼が眠る丘の上の墓地へと歩いていた。
その時だった!嫌な予感に振り向いた彼女の目に飛び込んで来た白い車・・・彼女がいる歩道へと突っ込んで来る!
彼女は目を閉じて死を覚悟した。
「危ない!」声が聴こえた様な気がした・・・
歩道に突っ込んだ車は電柱にぶつかり止まった!
だが彼女は無事だった・・・
そばに倒れている青年から大量の血が流れている。
もしかして私を助ける為に轢かれた・・・?
彼女は青年を抱き必死に叫んだ!
「大丈夫!?お願い!誰か・・・誰か助けてぇ」
またしても彼女の願いは届かなかった。
彼女を助ける為、身代わりとなって死んだのだ
これが運命なら私が死ねば良かったのに・・・
何故?生きる力も失った私がこの世に生き残り、こんなに若い彼が死ななければならないの?
あの時、私が逃げていれば彼は死ななくて良かったかも知れない。
そんな思いが彼女を苦しめた
冷たい炎に焼かれる様な心の痛みが彼女を蝕む・・・生きているのが辛い!
でも助けてくれた彼の為に生きねばならない。
墓石に刻まれた彼の名前は「佐藤涼介」
あの日から2週間・・・
彼女の試練はまだ始まったばかりである。
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