第18話 「孝の誓い」

「へぇ~!?こんな所にあったんだ」

石段を登りながら孝が言った。


「私は小さい頃から来てるんだけど景色もいいわよ!」

樹里はそう言うと孝と手をつないだ。


今日は久し振りのデート・・・

孝も樹里も残業続きで仕事が忙しかったのだ。


つないだ右手の温もりが樹里にはとても嬉しい!

孝の優しさがその右手から伝わってくる様でときめきと幸福感が胸いっぱいに広がる。


彼と付き合い始めてもう3年になろうとしていた・・・

今日はこの階段を登りきった神社に2人でお参りに来た、階段と言ってもほんの30段ぐらいなのだが小高い丘に位置する為、神社からは街が見渡せて景観は綺麗だ。


神社と言っても小さな形ばかりの祭壇が有り、この近辺の人々が供えたのか供物が置いてある。


折角の休みなので遠くに出掛けても良かったのだが孝のリクエストにより樹里はこの場所を選んだのだった。


柵が設けてある南西側に立つと街の景観が一望出来る!

普段は参拝者も居らず静かな場所であった。


「なんか久し振りになっちゃってごめんな」

孝は樹里と肩を並べ景色を観ながらそう言った。


「どうしたの・・・?」

いつもと様子が違う孝に不安を感じながら彼女は言った

「えっ!?・・・どうして?」

意表を突かれた様に慌てて聞き返すと彼は景色を背に柵へと軽く飛び上がり腰掛けた。


「わからないけどいつもの孝と様子が違う・・・」

不安を隠せない彼女は柵を背に寄り掛かり彼と並ぶ

春はまだ遠く吹く風も冷たかった・・・


時折、ビューっと吹く風に2人が巻いたお揃いのマフラーが揺れている。


樹里の沈み込んだ様子に気付いた孝は柵を飛び降り

「違うんだよ・・・そんな意味じゃなくて・・・」

開きかけた口を閉じると黙ったまま彼女を抱き締めた。


何かを言いかけた彼女は突然、抱き締められた彼の胸に顔を埋め「あったかい・・・」

そう言ったまま身を任せ動かない。


「もう少し・・・もう少しだけこのままでいてくれ」

彼は彼女の髪を撫でながら呟く。


時が止まってしまったかの様な静寂の中で2人はしばらく抱き合ったまま動かない・・・

やがて樹里の両肩に手を置いた孝は彼女を自分の正面に見据えて静かな口調で言った。


「樹里・・・俺と結婚してくれないか?」

いつかは言ってくれるだろう・・・言って欲しい!

そう願い続けていた彼女だが彼の言葉はとても真剣で誠意に溢れていた。


彼女の唇はあまりの嬉しさに震えていた・・・

「はい」

やっとそれだけを言うと肩を震わせ泣きじゃくる。


「ありがとう」

孝は嬉しそうに顔をクシャクシャにしながらくちづけをすると彼女を抱き締めたまま回り始めた!

よほど嬉しかったのであろうが足元はもつれてそのまま地面に倒れ込む・・・

2人とも仰向けで空を見て笑い合ったが服はもう泥だらけである。


「きっと君を幸せにする!」

「今よりもっともっと幸せにするとこの空に誓うよ!」

言い放った彼は立ち上がり彼女を引き起こす。


幸せそうな彼女の顔が今の気持ちを物語っていた

2人は神社の祭壇に向かい合わせて柏手をし祈った。


「どうかこの幸せが永遠に続きます様に・・・」

2人の願いは全く同じものだった!


彼等は分割して憑依しここを基地としていた。


その日、留守番であったモアとピノは

「幸せって何!?」・・・2人同時に問い掛けた!

「オレ調べて来る」と言ったピノにモアは

「オレ達は留守番・・・勝手に離れたら懲罰だぞ!」

そう警告したがピノはもう居ない・・・


「オマエにも教えてやるから留守番を頼む!」

テレパシーを送ってきたピノに

「幸せにな!」

モアは意味もわからず返答した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る