第17話 「最初の試練」
樹里と孝の交際はその後も順調に続き結婚した。
2人は懸命に働き小さいが2人の城となるマイホームを建てた!
残念ながら子供には恵まれなかったが仲睦まじい2人はそれでも十分に幸福だった。
「えっ!?もう食べないの?」
箸を置いた孝に樹里は心配そうな顔で聞いた
「ごめん・・・最近ちょっと食欲がないんだ」
孝は申し訳なさそうな顔で答える。
「明日にでも病院に行ってみたら・・・?」
「仕事も大事でしょうけど体はもっと大事よ」
樹里は不安げな面持ちで立ち上がり孝の隣りに立つと肩に手を置き優しく言った。
「あぁ、そうしようかな」
自分の肩に置かれた樹里の手を優しく包み込みながら孝は言った。
出逢った時からずっとそうだった!
彼は樹里にいつも優しく、いつも素直であった。
そんな彼を自分よりも大切にして来た樹里は「大丈夫!すぐに治るわ」と自分に言い聞かせる様な気持ちで孝を抱き締めた。
翌日、病院の待合室で待つ樹里に
「先生がお呼びです、こちらにどうぞ」
看護師が歩み寄り声を掛けた・・・
胸いっぱいに広がる不安を抱えながら着いて行く。
診断の結果は樹里にとってあまりにも残酷な診断結果であった!
余命6ヶ月・・・治療不可能・・・樹里はその場に泣き崩れた。
「どうか・・・どうか助けて下さい!」
絞り出す様な声で医師にしがみつく!
「如月さん、落ち着いて下さい」
そう呼んで肩を抱く看護師に
「どうしたらいいの?孝がいなくちゃダメなの!」
「どうすれば・・・」
最後は言葉にならなかった。
看護師に連れられて診察室から出た樹里は外に設けられた長椅子に倒れる様に座ると放心状態になっていた・・・
何やら看護師から説明を受けているのだが彼女は何一つ聴こえていなかった。
それに気付いた看護師は
「落ち着いたら手続きして病室に行きましょうね」
そう言って彼女の隣りに腰掛けた。
無言の時間がしばらく続いた・・・
ようやく入院の手続きを済ませた樹里は看護師に案内されて孝の病室に向かう。
ノックして中に入ると意外と元気そうな笑顔の孝がベッドに座り「点滴中なんだ」と声を掛けた。
曖昧な笑顔を返す彼女の様子に気付き
「どうしたんだ?気分でも悪いのか・・・?」
優しい笑顔で気遣ってくれる。
その時、樹里は孝に病気のことを隠したまま彼に接することなど出来ない・・・
そう思った彼女はベッドに座る彼に抱きつき泣きながら診断結果を告げた。
彼はそんな彼女の頭を優しく撫でながら
「そうか・・・辛い思いをさせてしまったな」
静かな口調でそう言うと
「お前の為にも俺は1日でも長生きするから泣かなくていい、お前を置いて死にはしないさ!」
彼は力強く言った。
誰一人いない世界から樹里を救い出しこれまでたくさんの幸福を与えてくれた孝に何もしてやれない自分が哀しくて
「ごめんね!・・・ごめんね!」
そう言って泣き続けた・・・
「大丈夫だよ!」
彼はそう言って彼女を強く抱き寄せた。
「きっと大丈夫だ・・・」
次の言葉は自分に言い聞かせた。
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