第15話 「樹里と未来」

よく晴れた日曜日・・・

水野樹里は着ていく服にずっと悩んでいた。


あの土砂降りの中でのキスは彼女にとって初めてのキスだった!

想い出すだけでも顔が紅くなる・・・

よくあんなことが出来たものだ。


ズブ濡れで教室に戻った彼女を見た皆んなは驚き騒めいたが彼女にそんなことは関係なく体操服に着替えると午後の授業を待たずに早退した。


誰も私を見てくれなくてもいい!

彼だけでいい・・・

そう孝だけが今の彼女にとって世界で唯一無二の存在になったのだ。


真っ暗だった彼女の世界は一変した!

理解なき両親にも笑顔で接する様になれたし、返事が無くても学校では明るく挨拶をする様になった。


相変わらず孤独だったが彼女の心には迷うことなく歩いて行ける北極星が輝いていた。


彼の存在は彼女にとってそれほど大きな存在になっていたのだ。


「行って来まぁ~す!」

明るい声で言った彼女の声に両親は顔を見合わせ嬉しそうに笑い合った。


彼との約束の場所は公園の時計台。


彼女の家から遠い距離ではない、歩いて10分足らずの距離だった。


10時の約束だったがあと30分ほどある・・・

先に行って待ちたいと思った彼女は足を早めた。


時計台に着いた彼女は周りを見て彼がまだ来ていないことを確認するとそばのベンチに腰掛けた。


見ると女の子が木の枝を持ち地面に何かを描いている、彼女は「お名前は?」と聞いてみた。


「フジサワミクです!」

手を挙げて元気に答える、しかもフルネームで・・・

興味を持った彼女は女の子の近くにしゃがみこみ

「ここで何をしてたの?」

地面に描いた絵を見ながら聞いた。


「リョウスケくんを待ってるの」

女の子は描く手を止めて彼女を見る。


つぶらな瞳が愛らしい女の子だった。


「リョウスケくん?どこに行ったの?」

周囲を見廻しながら尋ねると女の子は向こう側を指差した、見ると男の子がこちらをジーッと見てる。


「お姉ちゃんは誰を待ってるの?」

逆に女の子から質問された。


「友達を待ってるのよ」

彼女が笑顔で答えると

「好きな人・・・?」

勘のいい子なのか続けて聞かれる

「そうよ、大好きな人をここで待ってるの」

そう答えると女の子はうつ向いてしまった。


「ミクちゃん、どうしたの?」

寂しげな表情の女の子に聞いてみる。


「ミクもリョウスケくんが大好きなんだ」

ポツリと言った

「でもリョウスケくんに嫌いだって言われた」

救いを求める様な眼差しが可愛らしい。


「リョウスケくんに好きだと言ったの?」

彼女が聞くと

「うん、さっき言ったら嫌いだって走って行った」


彼女は吹き出しそうになるのを堪えて

「きっとリョウスケくんはミクちゃんのこと好きなんだよ!」

そう答えると女の子は

「ホント!?」

とても嬉しそうに彼女を見た。


「リョウスケくんは照れてそう言っただけ」

彼女はリョウスケくんを指差しながら

「恥ずかしいからあそこまで逃げちゃったんだよ」

そう言って何度も頷いた。


「ありがとう!お姉ちゃん!ミク頑張る」

ガッツポーズをするとリョウスケくんがいる方へ駆け出して行った!

地面には可愛い男の子の顔が描かれていた。


2人が追い駆けっこしてる向こうから彼の走って来る姿が見えた。


彼女は喜びに満ちた表情で手を振ると待ちきれない様子で走って行った。


2人は公園の中央付近で一緒になり互いに寄り添いながら歩いて行く。


手をつないだ幼き2人に見送られながら・・・

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る