第11話 「樹里と孝」

空はどんよりと曇り雨でも降り出しそうな色をしていた。


学校はお昼休み 

時々、賑やかな声が校舎の壁に反射し響き渡る・・・

その音に怯えるかの様に少女は首をすくめ昼食の弁当箱を持つ手が小刻みに震えていた。


いつもの様に樹里は校舎の裏でたった1人ぼっち・・・弁当を食べていた。


そしていつもの様に箸を持つ手が動くことはなく目には涙を浮かべていた。


入学した頃は友達は何人も周りにいて学校に行くのが楽しかった・・・

真面目な彼女は成績も良く明るい少女だったのだがその真面目さが掃除当番の問題に端を発した争いに巻き込まれ疎まれ始めた。


その日を境に仲良しだった友達は1人、また1人と次第に減っていき彼女はやがて独りぼっちになってしまった。


別に嫌な顔をされるでもなく嫌がらせを受ける訳でもない、だが挨拶しても返事はなく話し掛けても視線さえ向けてはくれなかった・・・

同世代の女子が通う学校の中で彼女は孤立無援、存在さえも認めてはもらえず他人に怯える様になってしまった。


誰も係わる者が居なくなり笑顔で話していた友達が離れて無視されることに彼女の心は蝕まれいつの間にか信じる術を失ってしまう・・・

人を信じることが出来なくなった彼女は人に対し恐怖を抱く様になる。


負の連鎖反応であった・・・

いつも何かに怯え何事にも集中出来なくなった

彼女の性格は次第に暗くなり始めた・・・

両親は彼女の話を聴くことも一切なく一方的に叱りつけた!

そして彼女の居場所は学校にも家にもどこにも無くなってしまった。


孤独・・・ただ孤独に苦しむ彼女はいつも唇を噛み、涙を堪え毎日を耐え続けながら暮らしていたのだった。


やがて彼女は無口になり家に帰ると挨拶もそこそこに自分の部屋に閉じ込もり嗚咽が外に聴こえない様に両手で口を押さえながら泣いた・・・

口を押さえている為に拭うことも出来ない大粒の涙が瞬きする度にこぼれ落ちる・・・

彼女の頬をそして手を冷たく落ちた涙が濡らしていった。


その日もいつもの様に暗い気持ちで弁当箱を見ているだけの彼女に

「どうしたんだぁ!?弁当が不味くて泣いているのか!」

金網の向こう側で大きな声を出して問い掛けて来た人がいた。


その声に驚いて見てみると作業服らしきものを着た青年が自転車のハンドルに肘を付いた格好で小さく手を上げた。


彼にしてみれば挨拶のつもりだったのかも知れないが彼女にとっては度肝を抜かれる行為だった。


当然、彼女は何も答えない・・・


だが彼の屈託の無い笑顔は曇った空に光を浴びせるかの如く輝いて見えた!

何も反応が無い彼女に青年は

「どうでもいいけど早く食べて学校の中に入らないと

雨が降ってくるぞぉ!」と

性懲りもなく今度は小さく手を振っている。


バカバカしいぐらいのやり取りに彼女は思わず微かに笑ってしまった。


「いつもここを通る時に見てたんだけど今日は一段と寂しそうだったから声を掛けてみたんだ!」

「笑った顔の方がずっと可愛いよ・・・いつも昼休みにはここを通ってるからヨロシクね!」

一方的に話し終わると自転車を漕ぎながらさっさと行ってしまった。


何て軟派なヤツ!


でも彼女に差し込んだ優しい光だった!

微笑んだ彼女は初めて手に持った箸を動かした。

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