第9話 「共同生活」

「お帰り!」

奥の方から女性の声が聴こえた。


彼女の・・・いや未来のお母さんだろうか?

僕は一体、どうすればいいのか!?

姿は見えなくても初対面であるから挨拶するか?

しかし声さえも相手に聴こえないのだ。


「聴こえなくても挨拶はしてもいいよね?」

僕が彼女に尋ねると

「どうせ聴こえないんだから挨拶してもしなくても同じでしょ!?」

「私は気にしないから勝手に喋っていいわよ!」

そう言うと僕に振り向いて

「でも私には家族の前では話し掛けないでね」

「うっかり応えてしまったら変だと思われるから・・・」

小声で言った。


靴を脱いで並べる彼女に続き僕は脱いだ靴を左手に持ち後ろを歩いてリビングへと入った。

「ただいま!」

彼女はそう言うと

「着替えて来るね」

と言った後、二階へと階段を上がり始める。


「ごはんはお父さんが帰ってからにするからねぇ!」

リビングからお母さんの声が聴こえた・・・

「ハーイ!」

元気良く返事をしながら階段を上りきると自分の部屋らしき場所に向かって歩く。


この行動は彼女の習慣らしい・・・

僕としては真っ直ぐ部屋に向かってくれた方が随分と助かったのだが相変わらず彼女の後ろを着いて歩きながらそんなことを考えていた。


ドアを開いた部屋の中に続いて入ると女の子らしい趣味の可愛い感じがする室内だった! 

「そう言えば着替えるってさっきお母さんに言ってなかった?」

僕が尋ねると

「着替えるわよ、だからしばらくこっちは見ないでいてね!」 

じゃあ何故?僕を部屋の中に入れたんだ!?・・・

そう反論したかったが

「わかりました」

と応えながら違う方向を向いた。


勉強机があり机の上には本が立て並べてある

本の前には写真立てが有り興味を持った僕は近付いて観てみた。


同世代らしき男性に肩を抱かれ笑顔で映っている写真だった・・・

その時にすぐ背後で押し殺した様な声で

「あんまり見ないでくれる?恥ずかしいでしょ!?」 

あまりに近くで声が聴こえたので驚いた僕は

「着替えるとこは絶対見てないよ!」


まるで僕は見てしまいましたと白状している様な答えを返してしまった!

「何を慌ててるの?」


「そうじゃなくて写真のことを言ったのよ」

「私の裸を見られたって生まれ変わる時に全部忘れてしまうんだし誰に話しても聞こえないんだから別に構わないわよ」  


えっ!?問題はそこなのか?


写真も裸も忘れることに変わりはないのだが・・・

裸は良くて写真はダメって、それ逆なんじゃないのか?

笑いを堪えながらも僕は気になったので聞いてみた。


「未来・・・さんの恋人ですか?」

呼び慣れてないので聞き方もしどろもどろである。


「そうよ!素敵でしょ!?今度、紹介してあげるわね」

と自慢した割りにはその表情に笑顔は無かった。


失恋したのか喧嘩でもしたのかここはこれ以上、聞かない方がいいだろうと思った僕は質問を変えた。


「それで僕はどの部屋に眠ればいいのかなぁ?」

彼女は僕の問い掛けにこう言った。


「決まってるじゃない!この部屋で私と共同生活よ」

こいつは何を言ってるんだ!? 

あ~頭がクラクラする・・・そんな気分だつた。

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