第8話 「帰り道」

「ほんの少し歩けば着くわ・・・私の家はここから近いのよ」

何だか彼女は嬉しそうに話しながら歩いて行く。


少し離れて歩く僕を見た彼女は

「大きな声で話せないんだからせめて私の隣を歩いてくれませんか?」

ちょっとおどけた口調で言った。


「君には何故、僕が見えるんだい?」

彼女の横に並んで歩き出した僕は聞きたかった疑問を率直に聞いた。


「私にもそれはわからないの」

僕を見て言葉を続けた

「いつだったか突然!何かが頭の中にす~っと入って来て今まで考えてみたことも聞いたこともない様な知識をたくさん知ってた!」

今日、出会った彼の話した内容と似てるじゃないか!?


「それで何故、僕が見えたんだい?」

同じ質問を繰り返した。


「貴方を最初に見た時は普通の人かと思ってたんだけど・・・影が無いことに気付いてビックリしたわ!」

そう言って小首を傾げた笑顔はチャーミングだった。


「貴方はそれに気付いていなかったし危なかったから教えたのよ」

「何故?僕が危ないと・・・?」

意味がわからなかった僕は質問が途中で途切れてしまった。


「今朝、貴方は誰かとぶつかったでしょ!?」

「そう言えば自販機の前でぶつかられたなぁ・・・」

「強烈な一撃でした!」

そう答えた僕は両手を広げ体格のいいおばちゃんを真似ながらおどけて見せた。


彼女はクスクスと可笑しそうに笑いながら

「あの時の貴方は自分が死んでいることを知らなかったでしょ?」

「だから歩いてる人とぶつかってしまったりしたのよ!」 

彼女の解説に僕は思わず

「エッ!?」

驚いた表情で「知らなかったからぶつかった!?」


「無意識のうちに・・・?」


「だから教えたのよ!死んでいるんだって・・・」

「波長が合う人の車にでも轢かれたら危ないでしょ?」

彼女の言葉の最後は次第に小さくなっていた。


心配してくれたんだ・・・

「じゃあ思い込みさえすれば触れたりすり抜けたり出来るってこと?」

触れるって言葉に多少の恥ずかしさを感じながら僕は彼女に聞いてみた。


そんな気持ちを見抜いたかの様な口調で

「その気になれば空だって飛べるかも!?」

「念力やテレポートなんかも出来るんじゃない」

悪戯っぽく笑った後に

「貴方なら出来るかもね・・・?」

そう言った。


彼女は夕陽も西の空に落ちた頃、とある家の前で立ち止まり

「ここが私が家族と住んでる家です!」

「両親と3人暮らしだけど貴方は見えないから紹介はしないわ・・・」

「でもそれなりに気を遣ってね!」

玄関の表札には「藤沢・・・フジサワ」と書いてあった。


声に出して読むと彼女は文字を右手で指差し

「もう言ってたと思うけどこれが私の名前です!」

「これからも宜しくね」

ペコリと頭を下げた。


「未来・・・ミク」

僕が読むと

「私の呼び方は未来でいいよ!」

玄関先の門を開けて照れながらも呼び方をリクエストした。


「必ず私の後を着いて来てね!」

「ウロウロしちゃ気が散るからダメよ」

・・・と注意した後、


「ただいまぁ!」

玄関を開けて元気な声で言った。

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