第12話 肉湯術 その①
『……ここが
デュマは麓から延びる階段の最上段から本尊を眺めた。
『うん。ようこそ綾光寺へ!それにしても君すごいね!2500段を登ってへっちゃらな素人さんは初めてだよ。…しかも人をおぶって。』
『へへへ、でしょお!』
ローレライはデュマの背におぶさりながら代わりに答えた。
『おめーはたまには体力使え!』
デュマはローレライを乱暴に下ろした。
『まずは本尊で茶でも。』
男は二人を中へ促した。
駄々広いがらんどう。
ちょっとした球技を行え、観客も詰め込めそうだ。
床は板張りで窓は壁から数メートルのところにあるだけ。
そして奥には巨大な仏が鎮座している。
そこで三人は座布団に胡座をかいている。
すると十代とおぼしきあどけなさが残った少年の僧が茶と羊羮を運んできた。
『失礼いたします。』
『お。ありがとう。気が利くね、昌尊。』
『…どちらにいらしたのですか梅尊様。お師様がご立腹です。』
昌尊と呼ばれた少年は小声で耳打ちした。
『爺には適当言っておきなさい。はっはっはっは!』
男は二人に向き直り、高笑いする。
どうやら男の名前は
『あのー』
『ところで君たち!』
梅尊がデュマの言葉尻を奪った。
『墓参りとか言っていたね!』
『はいっ。その通りです。お墓はどちらへ?』
ローレライは美味そうに茶をすすっている。
『はっはっはっは!そう急くな!墓参りか。うちに墓は…一つしかない。知っていたかね?』
『……そうなの?』
デュマはローレライに訊いた。
『そうだよ。』
ローレライは当然のように言った。
『君たちの出身が何処かは分からないが、日本は数年前の戦争の後処理の最中だ。戦争には勝ったが、ウチからも死者を出してしまった。』
『坊さんが戦争に行くんですか?』
デュマは驚いた表情で訊ねた。
『ああ、日本は島国でね。大国と戦うには兵力、頭数が足りない。徴兵さ。今回の戦争は西に勢力をのばすための侵攻ってわけさ。』
『…なるほど。』
デュマは今一理解していなさそうだ。
『今回侵攻した国では日本兵も相当血を流した。…相手国の民間人も巻き込んでね。召喚獣を多用しての大立周りさ。活躍してくれた召喚獣は英霊として祀っているが、このところその英霊の墓を狙った外国人の、賊の様な輩が多くてね。まあ、自分で撒いた種のようなものだが。』
『……はぁ…?』
デュマはいぶかしんだ。
『……うちにある唯一の墓。それがその英霊の墓なのさ。』
『はい!そのお墓にお参りを…』
『君らがその賊でない証拠がどこにあるかな?』
身を乗り出したデュマを、羊羹の皿に乗っていたフォークを突きだし制した。
身のこなしの素早さにデュマは冷や汗を流した。
『うちの寺をこれ以上汚させたくはない。どうしてもと言うなら私と立ち会いなさい。』
梅尊は言った。
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