第9話 真実・茶番

中庭。遺体が転がるバルコニー。


階下を除くとリオの兵達は敵を城内には踏み入らせまいと門前を死守していた。

門前にはユアダの姿もあった。


『ユアダ!!』

デュマの声はユアダに届いた気配はない。

もう一度叫ぼうとした、その時、敵兵の長槍がユアダの腹を貫通したのが見えた。


『ユアダーー!!!』

デュマは片膝をつきへたりこむ。

『ライ!お前、こうなることも知ってたのか!?』


『うん、知ってた。ごめん。』


『なんで止めねえ!?』

デュマはローレライの胸ぐらを掴んだ。

『一緒にヘイルのとこに行って一緒に逃げる道はなかったのか!?』



『…なかった。未来は選択によっていくつかのビジョンが生まれる。けど、ユアダにとって戦死以外のビジョンはなかった。本当だよ。』 


『…………』


デュマはローレライの胸元から手を離し、項垂れた。



『おい貴様ら!!』


聞いた声だった。



『何をしている!居なくなったかと思えば。』太った兵士、最終面接官の男だった。


『下へ降りろ!手が足らん!』

太った男はローレライの手を引いた。

しかし、デュマがローレライのもう片方の手を掴み離さなかった。


『おい何をふざけている!貴様ら二人とも来るんだ!』


『…俺らみたいなガキの出番が回ってくるってことは…それはもう負けだろう?負けだよな?』

ローレライの手を離し、太った男の両肩を掴んだデュマは静かに言った。


『何を言う!ラシーンの兵なんかに負けるか!こっちにはヘイルドラゴンがいる!』

太った男は肩に乗ったデュマの手を払おうとした。


が、思ったよりデュマの腕力が圧倒していたのか振り払えない。


『ごめんなさい、ヘイルドラゴンはもう召喚出来ないよ。あなた方の封魔庫にいないし、今の契約者は僕なんだ。』

ローレライは言った。


『何をぅ!?ぬ?』

太った男はローレライの喉元の刻印に気づいた。

なんとかデュマの両手を振り払いローレライに寄った。

『このガキ…どうやって?!』


『ごめんなさい、そうゆうわけだからヘイルは貰います。そもそもこの戦い自体リオ王とラシーン王のですよね?ヘイルの前契約者であるリオ王はこの茶番において絶対にヘイル召喚の許可は出さない。自国の兵が何人死のうがね。事実としてリオ王は今ラシーンに逃げている。この茶番の目的は二ヶ国間に見せかけのを生むこと。ほんとは仲良しこよしのくせに仲違いを演じて、混乱に乗じてリオとラシーンを結ぶ線上にある国のある資源をリオとラシーンで山分けしようとしている。』



『な、貴様…作り話にせよ…もう少しまともな──』


『作り話か本当か知る頃には貴方も前線に派兵されてるよ。しばらくリオダールには帰れないかもね。いいですか?遅かれ早かれ僕の言ったは国民にも知れわたる。そうなった時、指揮官クラスの兵士の家族が国内でどんな扱いを受けるか。その時国内のレジスタンスを鎮圧し、貴方の家族を含む国民を守るのは貴方の部下たちなんだ。今のうちに人望を厚くしといた方がいいかもね?』


ローレライは言った。



『そ、それは…………だがしかしここで…ここで貴様らを逃がしては、ヘイルをみすみす盗まれたのでは私の立つ瀬がない……ッ!!』

太った男は剣を抜いた。


『馬鹿の俺でも分かるぜ、あんた「馬鹿」だ。』

デュマはポケットから食事用のナイフを取り出した。


『くっ、くははははははは!!貴様嘗めているのか!?』


『嘗めてねーよ。地下で俺の喉元に刃を突き付けたよな?あの動き、ちょっと見えなかったわ。あんたも元はやり手の「戦士」なんだろう?』

デュマは腰を落とした。


『ここで死ぬか、シャンティの乞食の子よ。』

太った男は冷や汗を拭い、笑った。


『デュマ、気をつけて。この人実力は確かだよ。』 

ローレライは言った。


『分かってる。それでもってことは…だろ?』 


『うん、そう。頑張って!』

ローレライがそう言い終わると太った男は剣を水平に突き出した。

一番が読めず避けにくい攻撃だったがデュマの天性の反射神経が勝り、サイドステップで避けた。


かに見えた。


デュマの左脇腹からは血が滴った。


太った男はニッと笑い、デュマの足を払う様に剣を振った。

デュマは跳び、同時にポケットから何かを取りだし投げつけた。


『うっ?!げほっ…ぅえほっ……!!』

太った男は噎せ込んでいる。


『胡椒は高く売れるからな。』

デュマは食堂で拝借していたのだった。


そしてナイフを太った男の右脇腹に突き刺した。

が、すんでのところでナイフを捕まれた。


太った男はナイフの刃を握りしめ、その手からは鮮血が滴る。


『青いわ!!』

太った男はデュマの鎖骨の辺りに斬りかかった。

ナイフを捕まれて呆気にとられたデュマは避けきれない。


右の鎖骨から左の腸骨にかけて一直線に斬撃を受けた。


『デュマ!』


『いっ……たっ……』

デュマは片膝を地についた。


『デュマ、平気?』


『平気に決まってんだろ。お前が一番知ってるだろ?』

デュマは血と脂汗にまみれ笑って見せた。


『終わりだ。』

太った男は大股を開きデュマの頭上に剣を振りかぶる。

そして下ろした。


その瞬間デュマは太った男の足元にタックルの様に潜り込み体を片足に絡み付かせる。


男の太鼓腹に隠れる様にして。

『腹出すぎだぜおっさん、日陰になってら。』


振り下ろした剣の角度的死角が生むデッドスペースだ。


そしてナイフを太った男の股間に突き付け言った。


『これでお仕舞いだ。お互いを倒そう。』


そのデュマの言葉に太った男は静かに剣を下ろした。


『………私の負けだ………。』


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