第4話 彼が一番強い

『おまっ、ちょっと来い!』

デュマはローレライの手をとった。


『いきなりなにわけわかんねーこと提案してんだよ!?』

『だってそうしないと誰が一番優秀かわからないでしょ?』

『いいだろそんなことしなくて!俺は兵士に志願したいだけなんだから!』


『何をごそごそやってる。おい金髪。君が一番強いとこの少年は言っているが?』

太った男は言った。

『そうです!ぶっちぎりです。だからデュマが全員をのしたら来週の演習に参加させてください。』

ローレライが勝手に答えた。


『なぜ君が演習の日程をしってる?まあいい、誰ぞ漏らしたか。よろしい。デュマとやら、やれるか?』

太った男は腰から剣を抜き、デュマに差し出した。


『…これでやるんですか?』

デュマは聞いた。


『不都合が?』

太った男はニヒルに笑った。


『これでやったらどちらかが死にますね。』


『死なないように。お互いにな。さ、誰からだ。』

太った男はデュマ以外の面々を眺めた。


デュマ以外の五人のうち、ローレライの次に世の低い男が手を上げた。

ただし、彼はかなりの筋肉質だった。


『まずは自分が。彼が一番じゃないことを証明します。』


『よろしい。』

太った男は筋肉質の男にも剣を渡した。



『向かい合え。』


太った男は二人に言った。



筋肉質の男は剣を一度素振りすると左手に持ち、その手を後ろに控え鉞を担ぐように構えた。


一方デュマは剣の刃に触れてみたり柄を見てみたりと、構える様子はない。



『いいか?いくぞ………初め!!!』

太った男の号令。


筋肉質の男はタックルするように低空で一気に間合いを詰める。

後方に構えた剣を振るのが見えた。


デュマの右脇に入れようとしたように見えた。


えぐる!


と誰もが思った瞬間、デュマは腰の右側に剣を差し入れ防いだ。



『いい反射神経だ。』

太った男が呟いた。


筋肉質の男は手を止めなかった。

またも低空から剣をアッパースイングの様に振った。


デュマはバックステップでかわした。


と、その腹に筋肉質の男の前蹴りが入った。


『んおっ!』

デュマは苦悶した。


筋肉質の男は今度は大きく剣を振りかぶった。


『でぁぁあああ!!』


今度はデュマが素早く間を詰め、肘当てを見舞った。

筋肉質の男は転がる。


『待て!!』

太った男は声をあげ割って入った。


『貴様やる気があるのか?』

太った男はどこかから小刀ナイフを抜きデュマの喉元に突きつけた。


『やる気はありますよ!でもこんな剣でやったら死にますよね?彼、強いみたいだし、なにも…』


『なら殺さずに降参させろ。出来なきゃ殺せ。嫌なら殺されろ。それも無理なら帰るんだな。どうだ、選択肢は豊富だぞ?』


場は静まり返っている。


『んー………はいっ、わかりました!』


デュマは笑った。


太った男は怪訝そうにしたが合図を出した。

『再開!!』


筋肉質の男は明らかに緊張していた。

強張りが見てとれた。


先程とは異なるデュマの視線が射ぬいていたからだ。


『んぉぉお!』

咆哮。


振りかぶった剣。


デュマの鎖骨に食い込むように見えた。


が、デュマの体の捻りは素早く、

かわすと同時に額を筋肉質の男の顔面にめり込ませた。



『……ぶっ…!』


筋肉質の男は鼻から血を流し、前のめりに倒れた。


一同は「おぉー」と喝采を上げた。

見事な決着だった。


しかし太った男は一言も発しない。


デュマは太った男に視線を走らせた。


『…なんだね?早く終わらせてくれないか?まだ第一試合だよ?』


太った男は言う。


『いや、俺、勝ったと思うんですけど…』


『君は忘れっぽいのかな?私は降参させるか、殺すか、殺されるか、帰るか、と言う選択肢をあげたんだよ。この状況はどれに当たるかな?』

太った男は笑っている。


そして筋肉質の男は立ち上がろうとしていた。

『おい、あんたやめとけ…』


『参りました!!』

デュマがいい終える前に筋肉質の男は言った。


ローレライが拍手をした。

ギャラリーと化していた他の三名も。

『ふん、まあいいだろう。次は誰だ?』


手は上がらなかった。

皆、自信を喪失していた。



『つまらんな。小粒揃いか。と、言うことで合格者を発表する。』



ローレライ、デュマ、筋肉質の男を除く三名がざわついた。


なぜなら最終試験に参加すらしていないのだから。


『無論、に参加したこの三名だ。』


太った男は筋肉質の男、デュマ、そしてローレライを指した。


『ちょ、ちょっと待ってください!』

一人の男が手を挙げる。

『なんだね?ここは学校じゃないから一々手なんか挙げんでいいぞ。』


『ぼ、僕も志願してここに来たんです。僕が入隊出来ないと、家族が…』


『知らんよそんなこと。君、その割りにはこの金髪の彼とやろうとせんかったじゃないか。』

太った男は詰め寄った若者を手で押し退けた。


『それは、だって、こんな真剣で…』


『実戦では真剣もあれば実弾もあるし召喚獣は暴れまわるし召喚術も飛び交うぞ?』


『……な、なら彼だって闘ってないのになんで…』


男はローレライを指差した。


『おいおい、命の恩人になんてことを言うんだね君。』

太った男は笑った。


『彼はせっかく、誰も傷つかんように勝ち抜き戦を提案してくれたのに。総当たり戦になれば実力云々じゃなく負傷者が出る。しかし金髪の彼の勝ち抜き戦になれば、まあ彼の性格もあって誰も傷つかんで済む。君は、君らは一度彼に救われてるんだよ。』

太った男は不合格を言い渡された三人を見渡した。


彼らに返す言葉は無かった。











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