はじまりはじまり

第1話 徴兵

『とっとと歩け!』

甲冑に身を包んだ男は、青年の背中を蹴った。

青年たちはぞろぞろと馬車に足を運ぶ。


十数人はいるだろうか、皆死んだ目をしている。


『いいか!お前らは誉高き魔法使い討伐の兵になれるんだ!親兄弟も一生安泰だ!有り難く思え!』


男は叫んだ。

『準備完了です。』

部下とおぼしき男はさきほどの男に敬礼した。

『よし、出せ!』

馬車は走りだした。


馬車を見送る大人や幼子は泣き崩れていた。



ここはリオダール城下でも一番離れた所にある村、シャンティ。


リオダールは魔法使い討伐を謳い各村から兵を募っていたがここ最近では志願してくる人間も出てこず、こうした強制連行に近い形で兵を集めていた。


シャンティは城から一番離れた村で直近の城下町の人間の目が届かないのをいいことに横暴しほうだいだった。


場面は馬車の荷台に移る。



荷台には十数名の若者がいるが、皆口を開こうとせず胡座をかき項垂れている。



そんな中

『おい、お前。おい!』

金髪の男が、小柄な少年に声をかけた。


少年の前髪は長く、目を覆うようだった。

体躯は華奢で、見にまとったボロが皮肉なほど似合っている。



『タバコもってる?もってない?え?どっち?』

金髪の男の口調は忙しない。


『持ってないよ。ごめんね。』

少年は言った。


『なぁんだ、つまんねー。』


金髪の男は寝転がる。


『なあお前、ほんとに魔法使いなんかに勝てると思う?思わない?どっち?』

金髪の男は尚も話し掛けた。


「魔法使い」のフレーズに、皆ギロリと金髪の男をにらむ。


『なぁ?どうよ?』


『リオの王は何で戦うつもりなの?』

少年は訊ねた。


召喚獣しょうかんじゅうだよ!しらねーの?リオダールの召喚獣は一番つえーんだぜ?!』

金髪の男の声は次第に大きくなった。



『あはははっ。』

少年は笑う。


『なんだよ?』


『召喚獣じゃ勝てないよ。』


少年は言った。


そこで初めて金髪の男と少年は

厳密にはは合っていないのだが。



『あれ?お前、目が…』


『うん、見えないよ。』


『ばかっ、なら兵隊に言えよ!徴兵逃れられるのに!』


『んー、タイミング逃しちゃった。』

少年は笑った。



『呆れたやつだなー。お前も俺と同じでバカか?そうなのか?あっはっはっは』


金髪の男は笑い、少年も笑った。


そして馬車はリオダールの国に差し掛かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る