カーニヴァルの始まり

今村広樹

本編


きねべつ新聞12月20日掲載記事の抜粋

『冷泉工業製の機械コッ人形ぺリアに欠陥発見』

 19日に発生した児童にたいする傷害事件で、警察は機械人形の暴走であるという調査結果を公表した。

 その報告書によると、19日の昼ごろに児童(5歳)を寝かしつけていた機械人形が突然児童を数発殴りつけ、たまたま掃除を頼まれていた隣人によって止められたという。児童は全治3ヶ月の重傷をおい、機械人形はそのまま冷泉工業から派遣された管理者によって持ち帰られた。その後の調べで、機械人形の頭脳部に欠陥が発見された。通常時は問題ないが、ある状況に置かれると、暴走するという。冷泉工業は調査結果を警察に報告し、それを今日警察が発表した。

 児童の父親は「こんな欠陥があったのを見過ごすのか、許せない」、母親は「早く息子が帰ってきてほしい」と声明を出した。

 冷泉工業の広報担当者は、「あってはならない事態、対処する」との釈明した。

 注1:杵別市は北海道川狩地方にある都市。カステラが知られるくらいであまり特徴のない街だったが、最近ホームタウンとして発展しはじめる。

 注2:機械人形はHBKインターナショナル社が開発したいわゆるサイボーグの一種。他のロボット系製品にくらべ安価で製造出来るため、世界に広まった。


 ボクの考えとしては、清掃員(当たり前だが隠語である)の仕事をハードコアなモノであるという世間様の錯誤があるような気がする。それは違うと、声を大にして言いたい。清掃員なんだから地味な後始末しかしないのだよ。ボクの話を聞く人は大抵『血沸き肉踊る冒険がない』『エージェント同士の駆け引きがない』とないない指摘をする訳だが、そりゃ当たり前だ。『全てが終わった後でモップやら水の噴射で後始末する』役割にそんなもん求められても困る。


 という愚痴はともかく、今日も今日とてご依頼にお呼ばれして参上という感じに、雪をザックザック踏みしめてやってきたのは、株式会社冷泉工業の施設。「冷泉工業は、ゆりかごから墓場まで、ありとあらゆるニーズに対応した機械人形を製造販売する企業です」。あっ、これなんかのTV番組中にやってたCMの声真似。まあ、それはともかく仕事だ、仕事。

 とはいうものの、死体とかは当の冷泉工業の連中が運び出したらしいので、水圧で血を吹き飛ばすだけの楽な仕事なんだけどね。

 さて、と作業をしながらボクは、部屋の隅っこに機械人形があるのを確認した。

「廃品回収は別料金なんだがねえ」

「廃品ではありません」

「わ、まだ起動してたの?」

 と、びっくりしたボクにその機械人形が話しかける。

「哀れな私の話を聞いていただけないでしょうか?」

 さては、このを引き起こしたのはこいつかと、ボクは冷静にこう返す。

「ああ、いいよ」

「ありがとうございます。私は彼の傷害事件の機械人形であります。確かに事件を起こしたのは私です……」

 で、彼?彼女?の話を聞くと、この機械人形は何故かお祭りというものに憧れていて、盆踊りをしたり出来たらしい。たまたま子供をあやしていた時にその技能を使ったら気がついたら子供を殴り付けていたという。『これは、廃棄しかないな』と、工場で廃棄されようとした瞬間、『まだ、まだお祭りを楽しみたい!』と不意に感じて、周囲の人々を殺してしまったという。

「なぜだかわかりませんが、これが私の使命だと思ったのです。私はオカシイのでしょうか?」

「さあね」

「貴女も私を廃棄しようとするのですか?」

「いや、待って」

 と、ボクは通信端末でボクを派遣した男に件の話をして

「それでさ、お宅の上司の一人がなんかやろうとしてるとか、確か機械人形を使った……」

『ああ、最高インフィニット御祭カーニヴァルとかいうふざけた名前の企画か?』

「ああ、それにちょうどいい機械人形がいるんだけど、頼める?」

『ホントかよ?』

「うん、多分大丈夫」

 話を終わったのを見て、心配そうに機械人形はボクに語りかける。

「私はどうなるのでしょうか?」

「うん、まあ悪いことにはならないと思うよ」

 と、ボクはあることを思い出して尋ねた。

「そういえば、キミのこと、なんて呼べばいいのかな?」

「はい、皆様からはリジーと呼ばれていました」

「リジーか、いい名前だね」

 と、いうと、彼か彼女は嬉しそうに首をかしげた。

 注3:組織とはいわゆる秘密結社のたぐいで、世界にクモの巣のように張り巡らされたネットワークを指す。その全容は内部の者も知らないという。


  杵別新聞1月9日掲載記事の抜粋

 連続殺人事件発生、犯人は機械人形?

 年末年始の街を恐怖に染めている連続殺人事件について、警察は機械人形の関与が疑われると発表した。

 事件は今まで5件発生しており、手口は鈍器で撲殺したのち、血を身体中まるで、法被のようにしたという。

 その手際の良さから、手慣れたナニモノかの犯行と思われたが、5件目に目撃されたのが、それ以前に子供を暴行したことで廃棄されたはずの機械人形であったことがわかった。

 警察関係者は

「これは、機械人形がいわゆるシリアルキラーに変貌したのではないか」

 と語っている。

 現場には

『リジーはまた来る。お祭りと共に』

 と、血文字が残されていたという。

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カーニヴァルの始まり 今村広樹 @yono

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