十の話
李花は
未明は、李花の荒れた手を、温かく滑らかで大きな手でつないでくれる。まるで、我が子を愛おしむかのように。
「
未明は李花の荒れた手を気にしている。李花は俯き、一応頷いた。
手荒れはいつものことだから、李花は気にしていない。未明が気にする必要はないのに。でも、未明の親切心を無碍にすることもできない。出会って日が浅いのに、まるで昔からそうしているかのように李花を大切に扱ってくれる。
つながれた手が温かくて、温もりを分けてもらえることが嬉しくて、でも申し訳なくて、もう十二だというのにまるで幼子のようで恥ずかしくて、李花は成長の遅い胸に様々な思いを抱えてしまう。
「ちくしょう、あの
未明が眉をしかめて低い声で毒づく。薬屋本人の前ではなく、昼餉に飯屋で“ほうとう”を食べながら。
浅谷宿のほうとうは、李花が話に聞いたことがあるほうとうと異なっていた。
太いうどんを野菜と煮込むのは変わらない。味つけは、話に聞いた味噌ではなく、醤油。
「おいしい?」
未明に訊かれれば、李花はこくりと頷く。
形の整った未明の眉が、穏やかに下がった。そのときだった。
「あの
誰かが嘲笑う声に、未明は肩で反応した。
「違います。きっと、あなた様ではありません」
李花は声を絞り出す。自分から話しかけるのは慣れない。しかも、未明のことを何とも呼んでいないことに、今気づいた。
「李花は気が利いて優しいね」
未明は穏やかに微笑み、箸を置き、手を伸ばして李花の頭を撫でる。しかし、体の向きを変え、声の主を目で射る。
「誰だ、婆とか言った奴は!」
卓を囲んでいた数人が、どよめいた。婆じゃねえのかよ、と誰かが残念そうに言う。そこから、未明と男達が口論になり、未明が勢いづいて吐き捨てた。
「表に出ろ! 相手してやるぜ!」
どすをきかせた声で、利き手の中指を立てるお下品な仕草をして。
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