第18話 陰謀とか加わると面白いよね

「ふむ、それは困りましたね」


 深刻な表情を浮かべながら考え込むのは青髪の少女。軽装ともいえる少女の鎧は肩の場所に翼をモチーフにしたオブジェがつけられているが、これでも彼女は立派な騎士である。


 その証拠に彼女の腰には立派な剣が帯刀されている。


 青髪の少女がいるのはダンジョンの第四階層。彼女の周りにはギルド『レピュブリック』所属の《神速剣》ストルーチェの姿があった。


「申し訳ありません、ヒネーテさん。事前に情報をキャッチ出来ていたらこちらから迎えを出したのに……」

「いえ、あなた方『レピュブリック』のせいではありません」

「ですが王国直属のリッターオルデンが出向いてくれたというのに……」


 青髪の少女ヒネーテに対して頭を下げるストルーチェ。その姿はあまりにも非日常的な光景であり、この街の冒険者が目にすれば驚いたに違いない。


 だがストルーチェの目の前にいるのはこの街どころか、この国の有名人。この中央集権国家を統治する王族に直属する軍隊であるリッターオルデンにおいて副団長を務める騎士だ。


 王族直属部隊リッターオルデン。体裁上はストルーチェの所属する『レピュブリック』やアイシェの所属する『クルアーン』と同じギルドの形をとっているが、その業務内容はかけ離れている。


 リッターオルデンは王家による王家のためのギルド。その証拠にリッターオルデンに所属する騎士は身体のどこかに王家の紋章が刻印された装飾品を持っている。


 青髪の少女ヒネーテの場合は帯刀する剣の柄頭に王家の紋章が刻印されている。リッターオルデンが動くときは必ず王家のために動くとされており、このような街に姿を現すことは珍しい。普段は王都周辺で治安維持にあたっているのだから。


「ストルーチェさん、顔を上げてください。元々協力を依頼したのは私たちリッターオルデン。あなた方レピュブリックは私たちリッターオルデンの要請に応えてくれたのです。それに今回はこちらの不手際ですからストルーチェさんが頭を下げる必要はありません」


 ストルーチェに対しても物腰柔らかく接するヒネーテはとても王国直属の軍人とは思えない。だが彼女は紛れもない軍人であり、王国のためにその命を最後まで捧げることを誓った騎士である。


「ですが、もしお仲間に何かあったら……」

「それなら大丈夫ですよ。確かにあの子はちょっと変なところがありますが、実力は確かです。モンスターに襲われても大抵の相手なら生き残るに違いありません」

「そんなにお強いのですか?」

「ええ。特に奇術に優れており、私たちとは一線を画す技を使います。けれども常識も一線を画すため何かやらかさないか不安で……」


 頬に手を当てながら苦労を語るヒネーテ。


「今回だって自分が先に行って成果を上げるんだー! って言って十日も前に出立したんですよ。まったくあの子は一体どこで何をしているのか」

「とてもユニークな方なんですね。今コネッホが探しているんで直に見つかると思いますよ」

「コネッホさんと言うと《旋律迷宮》の?」

「御存じなのですか?」


 王都に騎士が自分たちのことを知るはずがないと思っていたストルーチェはつい驚きの声を出してしまうが、ヒネーテからしてみれば知っていて当然のことだった。


「この国を治める王家に仕える者として当然です。それにあなた方のレピュブリックはこの街の三大ギルドの一つ。副団長である私の耳には嫌でも届きますよ。まぁレピュブリックの場合はほら、ギルドマスターがね?」


 『レピュブリック』のギルドマスターを思い浮かべながら苦笑いするヒネーテ。


「だから私はあなたたちにことをよく知っているのですよ。《神速剣》のストルーチェさん」

「まさかリッターオルデンの副団長であるヒネーテさんに覚えていただけるなんて光栄です」

「さっきも言いましたが、今回はリッターオルデンからの依頼。レピュブリックに敬意を持つのは当然です」


 リッターオルデンはこのダンジョンにとある物を求めて訪れていた。しかし勝手の分からぬダンジョンを探すのはとても非効率なので現地の冒険者ギルドに協力を仰いだ。


 それがストルーチェたちが所属する『レピュブリック』であり、リッターオルデンと親交の深い『レピュブリック』のギルドマスターがこの依頼を快諾。そればかりかギルドメンバーのほとんどを総動員してダンジョンの第四階層の捜索に当たっていた。


「ですが本当にこのダンジョンに王家の秘宝があるのでしょうか?」

「確証は持てませんが、その可能性は大いにあると思います。目撃情報もあるみたですし」

「ですがそのようなものがあれば、冒険者が持ち去るのでは?」

「そうですね。巨人族がいれば持ち帰られてしまうでしょう」


 含みを持たせるヒネーテにストルーチェは首をかしげる。


「王家の秘宝と言っても実体がなかったり、持ち運ぶのが困難なくらい大きいものなど常識では考えられないような代物がたくさんあります。ダンジョンに現れたということはそういう類のものと見ていいでしょう」

「ではこのダンジョンのどこかにその秘宝があると?」

「ええ。ダンジョンの最深部かもしれないし、もしかするとダンジョンの第一階層かもしれません。ただ一番目撃情報が多いのは第四階層付近ですから、あるとすれば第四階層が一番可能性が高いです」


 王家の秘宝が何かをストルーチェは知らない。それどころかヒネーテでさえその正体が何かをつかみ切れてはいなかった。


 しかし強大な力を有していることには変わりなく、このまま見過ごすにはあまりにも危険な代物であることに違いはない。だから王族直属部隊であるリッターオルデンの副団長であるヒネーテがこうしてわざわざ出向いてきたのだ。


「でも闇雲に探すのも時間の無駄です。だから探知に優れた子を連れてこようとしたんだけど、まったくあの子は一体どこで油を売っているんでしょうか……」


 ヒネーテが頭を抱える。


「早く出てきてください、シズル……」


 迷子の少女の名前はシズル。彼女はちょうどレクト達の宿で夕食という名の十日ぶりの食事にありついているのだった。

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女神さまは引きこもりたい! 高巻 柚宇 @yu-takamaki0631

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