第21話 初デート
4月17日の土曜日。今日は、先日ゆかりと約束した初デートの日だ。俺たちの場合は、初デートの前に色々順番をすっ飛ばしてしまったけど。
今更だけど、今日はいつもより服に気合を入れてみた。といっても、紺のジーンズに加えて、シャツに新しく買ったジャケットを羽織っただけだが。普段は最低限だったけど、髪もきちんと梳かしてみる。時間にしてたった3分。鞄も普段使っている無骨なものと違う、首から斜めに下げる感じのお洒落なものにしてみた。
ゆかりはどうしているだろうか。トントン。扉を叩いてみる。
「準備できた?」
「うん。もういいよ。入って」
お許しが出たので入ってみる。
「その、どうかな……」
視線をちらちらと俺の方に向けながら、感想を求めてくる。
ゆかりの装いははというと。水玉のロングスカートに、シャツ、紺のパーカーといった感じだ。髪は、というと、これはツインテール、っていうんだったか?ともかく、普段の髪を下げているときと違って、少し幼い感じが可愛い。
「凄く可愛い。色もいいし、髪もその…ツインテール、だっけか?も似合ってる」
褒め慣れていない俺にとっての最大限の褒め言葉を言ってみた。
「髪はツーサイドアップっていうんだけどね。似合ってないかなって不安だったから、良かった」
似合うかどうか気にしていたようなので、言って良かった。
「そういえば、いい香りがするけど。香水?」
こうして近くで見ると、いい香りがしてくる。
「わかる?フローラル系のを使ってみたんだけど」
「香水の種類はさっぱりわからないけど。春って感じがする」
「実は、春の花が使われてるんだよ♪」
「そうなのか。勉強になるよ」
香水にはこれまで縁がなかったけど、色々あるんだなあ。
いつも可愛いけど、今日はゆかりも気合を入れて来たのか、いつもと違う可愛さというか、幼い感じと大人ぽさがアンバランスで、魅力的だ。
「って。そろそろ行こうぜ」
「あ。もうこんな時間」
時計を見て、そろそろ出発の時間なのに気が付いたようだ。
「ま、焦っても仕方ないし。ゆっくり行こうぜ」
「うん」
こうして、俺とゆかりの初デートが始まった。手をつなごうと、手を差し出したら、ゆかりの方から肩に抱きついてきた。
「ちょっと、恥ずかしいんだが」
「ちょっとくらいいいでしょ?」
いつもより甘えた感じで、またドギマギさせられてしまいそうだ。ともあれ、こうして俺たちのデートは始まったのだった。
そして、最初のデート先のゲーセン。どのくらいの大きさかと思っていたけど、3階建ての建物で、1階はUFOキャッチャーやクレーンゲームなど。2階は格ゲーなどのアーケードゲームのコーナー。3階はレーシングゲームなどの身体を動かしたり、筐体が大きいゲームのコーナー。
とりあえず、お目当てのレーシングゲームのコーナーに移動する。以前に、ゲーセンに彼女連れで来ていた奴を見たことがあるけど、自分がそうだと思うと、少し嬉しくなってしまう。
そして、3階にたどりつくと、色々なドライブ系レーシングゲームの筐体が並んでいる。基本的に二人プレイのが多いので、ゆかりと対戦できそうだ。
「ゆかりはどれがいい?」
ゆかりが指差すのは、実際のバイクに似せた感じのもので、リアルに近い臨場感を売りにしている機体だった。何人か列に並んでいるので、人気なのだろう。
並んで少し時間が経つと俺たちの番が回ってきた。
「せっかくだから勝負しないか?」
「勝負いいね。何賭ける?」
「ありがちだけど、1回だけ何でもお願いをかなえる、とか」
ちょっと冗談めかして言ってみた。
「何でもお願い……」
何を想像したのだろうか、顔を赤らめている。目もきょろきょろとして落ち着きがない。
「いや、変なお願いじゃないぞ。断じて」
「う、うん。そうだよね。わかってた」
少し残念そうにするゆかり。もしかして、そういうお願いして欲しかったのか。
「とりあえず、始めるぞ」
「はーい」
というわけで、コインを投入して、筐体に跨る。ほんとのバイクに乗っているようで、少し緊張してくる。ともあれ、勝負開始だ。
このゲーム、ハンドル以外にも身体を左右に倒すとプレイヤーの機体バランスが変化するようで、なかなか難しい。隣のゆかりをちらっと見てみると、真剣な顔をしている。特に、強いカーブではどっちもうまく曲がり切れず、なかなかの接戦になる。
そして、あと1つカーブを曲がるとゴールという地点で、ゆかりよりも俺がややリード状態だ。慣れて来た俺に比べてゆかりは相変わらずカーブで苦戦していた。そして、俺が勝ちを確信したところで、カーブを見事に速度を曲がらずに走り切ったゆかりが俺を追い越し、僅差で勝利。
「よーし。勝ったー!」
「あー。惜しかったんだけどなー」
両手を上げて、全身で喜びを表すゆかり。こんなゆかりも見ていて新鮮で楽しい。
「私もゲームは随分研究したからね」
「そういえばそうだったけ。ゲーム機とかでも?」
「うん。これみたいなのは初めてだけど」
俺の知らないところで、一人ゲームをやり込んでいたんだろうなあ。
「そういえば、負けたから、ゆかりのお願いだよな。どうする?」
「そ、そうだね。どうしようか……」
そのことを忘れていたらしく、悩みだす彼女。
「すぐ思いつかないなら、後でも」
「ありがとう。じゃあ、帰るときには言うね」
というわけで、お願いの件は持ち越して、次は格ゲーのコーナー。
〇ルティブラッドとある伝奇系同人ゲームのキャラが総集合の格闘ゲームの前でゆかりが止まった。
「これ、やりたいんだけど、どう?」
「いいんじゃないんか。これ、やったことでもあるのか?」
「初プレイだけど、元のゲームのファンだったんだ」
「へー。意外だな」
俺もゲームの名前は知っていたけど、あくまで知る人ぞ知るという感じだった。
「じゃ、俺はアルクで」
「私は志貴で」
アルクは元のゲームでのメインヒロインで、このゲームでは接近戦中心のようだ。一方、ゆかりが選んだ志貴は、元のゲームでは主人公。
そして、戦いが始まる。弱中強の威力にあたる攻撃とシールド、技を使って戦うようだ。
開幕からダッシュでゆかりの操る志貴がダッシュで近づいて来て、ナイフをぶんぶん振り回してくる。予想だにしなかったスタートダッシュで、体力ゲージが一気に削られていく。そして、トドメの超必殺技による連撃が炸裂して、あっという間にやられてしまった。
『なあ。ゆかり、絶対、経験者だろ?』
向かいのゲーム台にいるゆかりにメッセージを送る。
『実は、ちょっと』
そんな答えがかえってきた。しかし、経験があるとなると、厳しくなってくるな。
次の一戦は、さすがにダッシュからの猛攻は乗り切れたものの、返しの技はなかなかヒットしない。こちらもやられっぱなしはシャクなので、一発必殺技をお見舞いしたおかげでかなりゲージは削れたものの、まだ相手は半分近くゲージが残っている。対する俺は1/3程度。もうちょっと削れれば勝ちに行けるんだけど。そう思っていると、ゆかり操る志貴の超必殺技が炸裂して、一瞬にしてゲージが持っていかれる。結果、2戦2勝でゆかりの勝ちが決まってしまったのだった。
「さすがに、練習してるのはズルだろ」
「ごめんね。驚かせたくて」
手を合わせて頭を下げられる。目が笑っているので冗談だとわかる。
「面白かったからいいよ」
「なら良かった」
その後も、ゲームをいくつかプレイした後、次はレトロゲー専門店へ。
狭い店内だが、スーパーファミコ〇や、ファミコ〇、P〇1など、昔のゲーム機やゲームが並んでいる。どれも、俺たちの世代だと、「昔、そういうゲーム機があったらしい」という認識だ。
ものによっては数千円もするけど、安いのは数百円から売られている。
「ゆかりも、レトロゲーやるの?」
「実は。家にもファミコ〇あるし」
色々ゲーム機があった気がしたけど、ファミコンまであるとは。
「これ。欲しかったんだ」
何かを見つけたらしく、目を輝かせている。
「えーと。ロマンシン〇サガ2か」
今も新しいシリーズが続いているから、名前くらいは聞いたことがある。有名メーカがスーパーファミコ〇時代にリリースしたRPGのシリーズで、その自由度の高さや閃きシステムなど、斬新なシステムが当時のプレイヤーを虜にしたらしい。今でも、最新のゲーム機で1、2、3のリマスター版が出ていたりする。
「でも、最近のゲーム機でもできるだろ?」
疑問に思ったことを聞いてみる。
「そうなんだけど。リマスター版はクリアしちゃったから、元のを見てみたくて」
「そこまで好きだとは意外」
ロマサ〇シリーズはどちらかというと玄人受けする印象で、ゆかりがあまり好きなタイプのゲームには見えなかったんだけど。
「うーん。でも、ちょっとお小遣が厳しいかも」
値札を見ると、3000円と書かれていて、出せないわけじゃないけど、少しだけ高いかもしれない。なら。ゆかりが別のところを見ている隙を見計らって、店員にゲームの会計をしてもらう。
「そろそろ、行こっか?」
戻ってきたゆかりに声をかけられる。
「満足したか?」
「うん。色々なゲームが見られたし」
というわけで、店を後にしたところで。
「そっか。じゃあ、俺からのプレゼント」
「プレゼント?開けてもいい?」
「うん。どうぞ」
ゆかりが袋を開けると、ロマサ〇のゲームソフトが現れた。
「あ。さっき欲しかったやつ。ありがとう」
「ま、たまにはな」
そんなやり取りをしながら、プラネタリウム、うさぎカフェとめぐっていく。プラネタリウムは説明はよく分からなかったけど、癒される感じだったし、うさぎカフェもうさぎ達が可愛くて、ゆかりもはしゃいでいたようだった。
さて、お次は、というと、ペアリングのお店だ。恋人同士のつける指輪というのはちょっと照れ臭いけど、そういうお店に行ってみることに。
「ペアリングって高いんだな」
「そうだね……」
しかし、二人揃って、値段が想像の数倍以上するのを知って諦めたのだった。
その後は、喫茶店でゆっくりとおしゃべりを楽しんでいたのだけれど、そろそろ夕方だ。
喫茶店を出ると、街はもう夕方だ。夕焼けの街は不思議と郷愁を刺激する。幼い頃からここで育ったんだよなあ。
「そろそろ、帰ろうか」
あんまり遅くなっても良くないし、と思ったのだけど。
「もうちょっと、一緒に居たいんだけど」
服を引っ張って、そう言うのは卑怯だ。でもな。
「いや、俺も調べたんだけどさ。そういうホテルって18歳未満は駄目なんだって」
「そ、そうだったの?」
「うん。黙ってればわからないって人も居たけど、ダメなことも多いらしい」
「それなら仕方ないね」
少し、意気消沈するゆかり。ゆかりの気持ちはわかるんだけど。
「そういえば、今日はおじさんとおばさんは?」
「一緒に晩御飯食べてくるから、遅くなるって」
それなら、ホテルじゃないけど。
「じゃあさ。ホテル……じゃないけど、部屋でゆっくりしないか?そっちの方がリラックスできそうだし」
正直、ホテルにいきなりというのは緊張しそうだったので、その方が助かるという本音もあったり。
「それで、俺の部屋でどうかな」
「ええと。みっくんの部屋でいいの?」
正直、することを考えると、俺の狭いベッドより、という気持ちがないわけでもないけど、前回、ゆかりの部屋のベッドを汚してしまったし、少し気が引ける。
「ああ、もちろん」
というわけで、俺の部屋にて。
ベッドに腰掛けて、ゆかりの身体を抱きしめる。
「みっくんの鼓動が聞こえる」
「どんな感じ?」
「なんか、少し早い気がする。ドクンドクンって」
「そりゃまあ、緊張するし」
「緊張するの?」
「まあな。二度目だし」
最初の時よりはまだだけど、やっぱり緊張するものは緊張するのだ。口付けから始めて、身体中を撫でまわして、お互いの気分を高めていく。
くちゅくちゅ。ちゅぱちゅぱ。
お互いの口から漏れる水音を聞きながら、お互いの身体をまさぐる。
ゆかりの吐息が荒くなってきて、俺も同じようになっていることを感じる。
「そろそろ、いいか?」
二度目の言葉。
「うん。よろしくお願いします」
ゆかりの返事は何故か敬語だった。
「デート、楽しかったよな」
「うん。外でのデートも結構いいかも」
「だろ?」
「でも、おうちで一緒に居るのも好きだからね」
やっぱりまだ、頬を染めながら、それでも素直に好意を伝えてくれる。
「そういえば、ゆかりのお願い。どうする?」
「えっと。まだ考えてないんだけど。今度でもいい?」
「いいけど、早めにな」
何を考えているのかわからないけど、また顔が赤くなっている。
「うん。早めにお願いするね♪」
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