第17話 彼女を傷つけた時(後編)

※R15描写があります。


 翌日の夜。

 昨日の夜から考えていたことを話すために、ゆかりの部屋を訪れていた。


「話って何?みっくん」


 不思議そうな顔のゆかり。

 周りには、相変わらず多種多様なゲーム機や思い出の品であふれている。


「あのさ。俺とゆかりが仲良くなったときのこと覚えてるか?」


 ウサギののぬいぐるみを見ながら、聞いてみる。


「……うん。今でも、ずっと忘れられないよ」

「そうか」


 やっぱりそうだよな。


「考えてたんだ。入学式のとき、なんでゆかりがあれだけ狼狽してたのかって」

「それは、まさかみっくんを痴漢扱いしちゃうことになるとは思わなくて……」


 それも、一つの理由だと思う。


「それだけじゃないだろ。小学校の頃の「ちかん」騒ぎもあるんじゃないか?」

「……うん。また、みっくんを傷つけてしまった。そんな思いもあったよ」


 やっぱりか。それだけ、彼女にとって大きな心の傷だったということだ。


「それで、その話がどうしたの?今はもう気にしてないよ」

「うん。それはわかってる。どっちかってーと、俺の問題だな」


 そう自嘲する。


「みっくんの?」

「ああ。なんで、ゆかりが許してくれてるのに、エッチな事に積極的になれなかったのかなって思ったんだ。そしたら、思い浮かんだのは、あの日の「ちかん」騒ぎだった」

「……」

「俺も、ゆかりに触れて、傷つけるのが怖かったのかもしれない」

「そうなんだ。私は、また傷つけてたんだね」


 少し落ち込んだ様子でつぶやくゆかり。


「いや、それはいいんだ。俺の問題だしさ。俺が言いたかったのはさ……」

「言いたかったのは?」

「……今夜はちゃんとゆかりを抱きたいってことなんだ」


 最初からエッチなことをするために、訪れるというのもどうかと思ったけど。

 でも、気恥ずかしい気持ちもあるけど、お互い触れ合ってみるのが必要なんじゃないか。そう思ったのだった。


「……それは、昔の傷を克服するため?」


 問いかけてくるゆかり。


「それもあるかもしれない。ただ、それだけじゃなくて、触れ合えたら、もっとゆかりの事を知ることができるのかなって」

「そっか……ありがと」


 少し頬を染めながら、彼女はお礼を言った。


「お礼を言うことじゃないだろ」

「ううん。みっくんが、それだけ真剣に考えてくれたことだから。だから、私を抱いてください」


 俺の目を見つめてはっきり言うゆかり。

 そうか。これから、ゆかりを抱くんだ。そう思うと、途端に緊張感が高まる。


「そのさ。まずは、ベッドに座っていいか?」

「うん」


 お互いに、ベッドの横に座って、彼女の身体を抱きしめる。


「あ。みっくんの身体、暖かい……!」

「俺も」


 ゆかりの身体の暖かさと鼓動が伝わってくる。


「キス。いいか?」

「うん」


 そう言い合って、顔を近づけてキスをする。

 数秒間、唇を触れ合わせたあと、唇を離す。


 ゆかりは、少しぼーっとした様子だった。


「キス。気持ち良かった」

「なら、もう一度いいか?」

「うん」


 さらに、キスを繰り返す。今度は、舌も入れてみる。ゆかりもすぐに舌を絡めてくる。

 くちゅ。くちゅ。ちゅぱ。ちゅぱ。

 舌を絡め合う音が響く。

 そうする度に身体が興奮する。


「大人のキスって、興奮するね」

「ああ」


 後ろに回していた手を、背中をなでながらゆっくりと下におろしていく。ネットで勉強したやり方だけど、いいのかはわからない。

 ゆかりも、応じて、手を下のほうに下げていく。


「なんか、変な感じ」

「どんな風に?」

「みっくんとこんなことをしてるのが」

「俺も。ゆかりとこんなことしてるなんて」


 そんな風に現実感がないまま、手をお尻の上まで下げる。


「その。触ってみていい?」

「うん」


 お許しをもらったので、ゆっくりとお尻の上の方を触れてみる。


「嫌じゃないか?」


 お尻を触れられるのはひょっとしたらトラウマかもしれない。


「ううん。触れてもらえて嬉しい。みっくんは大丈夫?」


 何か我慢しているようでもなく、いたって普通の口調だった。


「ああ。気にし過ぎだったみたいで良かった」

「そっか」


 それだけ言って、お互いにさらに触れ合っていく。

 すると。


「あ。固いね」


 前のようにびっくりしたようではないけど、感嘆の声でゆかりがつぶやく。


「そりゃな。好きな子とこうしてるんだから」

「ありがと」

「お礼を言うことでも」

「私で興奮してくれたってことだもん」


 そんな言葉がいじらしくて、手を彼女の寝間着にある股の位置に入れる。


「……!」

「あ、ごめん。急だったか?」


 ちょっと急ぎ過ぎたかも。


「ううん。慣れてないだけ。もっと触れて」

「ああ」


 手を動かしていると、少し湿り気がするような気がする。


「これって、興奮してるってことか?」


 女性にとって、濡れるってことがイマイチよくわかっていない。


「うん。準備が出来てくるっていうのかな」


 しばしお互い触れ合いっこをした後。


「そろそろ、大丈夫だよ」


 ゆかりの方からそう言われる。


「もっとちゃんと触れなくて大丈夫か?初めてだし」

「みっくんなら優しくしてくれると思うから」

「そりゃ、できるだけ優しくするつもりだけど」

「それで十分だから」

「わかった」

「あ、でも。電気は消して欲しい」

 

 昨夜のことを思い出して、部屋の電気を薄暗くする。


「なんか、不思議な気分。初めてって、もっとロマンティックなんだと思ってた」

「俺も。今は、非現実的っていうか」


 なんだか、ふわふわとした気持ちだ。


「それじゃ、するな」

「うん。よろしくお願いします」


 何故か丁寧語になった彼女。少し、不思議な気分になる―


――


「大丈夫だったか?」


 行為を終えて、布団に寝そべりながら、ゆかりに聞いてみる。


「実はちょっと痛かった」

「それはごめん」


 できるだけ丁寧にしたつもりだけど、やっぱり痛がらせてしまったようだ。


「そんなに痛くなかったから。大丈夫」

「そうか」


 今度からは、もっと痛くないようにできれば、と思う。


「俺に触れられて、大丈夫だった?」

「うん。みっくんが気にし過ぎだったんだよ」

「そうだったのかもな」


 行為の最中も、嫌がる様子はなかったし、結局、俺が昔の事を引きずっていただけなのかもしれない。


「でも、良かった。みっくんに初めてをあげられて」


 どても幸せそうにそんな事を言われる。そんなことを言われると、照れる。


「あとね。みっくんのものになったって気がする」


 少し照れ臭そうに付け足される。


「俺はゆかりをモノにしたつもりはないんだけど」

「いいの。私がみっくんのものになりたかっただけなんだから」


 そう言って、抱ききついて甘えてくる。

 

「ものじゃないけど。ようやく、ゆかりが恋人って実感が湧いてきた気がする」


 これまでは、どうにも距離感を測りかねていたけど。


「恋人じゃなくて婚約者だよ」


 ゆかりに抗議される。


「いや、そりゃ将来的にはそうだけど、今はまだ結婚できないだろ」

「それでも、だよ」

「わかった、わかった」


 あわてて宥める。ゆかりが婚約者にこだわる気持ちはわかるけど。


「とりあえず、その辺はおいおいな」

「はぐらかされた気がする」


 ゆかりは不満げだ。


「だって、俺たち、まだデートもろくにしてないんだぜ」

「う。それはそうだけど」

「とりあえず、そういうことを少しずつやっていこうぜ」

「デートかあ。みっくんとは部屋で遊んでいた想い出ばかりなんだよね」

「遊園地とか、カラオケとかさ。外に出てみるのもいいんじゃないか?」

「私は部屋で一緒に遊ぶ方が好きかな」


 ろくに恋人らしいことをしていない俺たちは、どこにデートに行くかとかを延々と語り合ったのだった。

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