第14話 一緒にお風呂

「ねえねえ。一緒にお風呂、入ろう?」


 ゲームが終わって寛いでいると、ゆかりからそんなお誘いがあった。


「ええとだな」


 俺たちは恋人同士だし、口約束だけど婚約者でもある。だから、一緒にお風呂に入っても不都合はないといえばないのだが。


「あ、そうだ。おじさんとおばさんは?」


 まだ俺とゆかりが恋人になったことは言っていないけど、感づいていてもおかしくはない。さすがに交際反対なんてことはないと思うけど、一つ屋根の下でそういうことは……。


「今日は出掛けてるよ。なんだか用事があるんだって」


 都合が良いのか悪いのか。


「みっくんが嫌ならいいんだけど。ダメかな?」


 上目遣いでそう懇願されると辛い。俺も一緒に入るのはやぶさかではない。というか、ぶっちゃけ入りたいけど、何か順序が間違っていないだろうか。


「いいんだけど。普通にお風呂に入るってことでいいんだよな?」


 ゆかりの事だから、まさかこの時に……ということも無いとはいえない。


「え……。あ、ああ。うん。普通にだよ。変な意味じゃなくて。ほんとに」


 別の意味に気づいたのか、赤くなって俯いてしまう。まさか、意識してなかったとは。


「じゃ、じゃあ。普通に入るということで」

「お、お願いします……」


 お互いお見合いをするような形でお辞儀をしたのだった。


 そして、お風呂の中。ゆかりの家の浴室は、二人が入っても狭くないくらい余裕がある。お互いに意識してしまい、素早く身体を洗って浴槽につかることになったのだった。


 向かい合っているので、ゆかりの小ぶりな胸も、細い首筋も、すべすべの肌も、照れているのも見えて、色々落ち着かない。


「あ、あの。ゆかり、綺麗だな」


 何かしゃべらないと。そう思って出たのは、なんとも陳腐な褒め言葉。


「あ、ありがとう。みっくんもカッコいいよ」


 か細い声でそんなことを言うゆかり。色々恥ずかしすぎる。


「どの辺が?」

「腕とか肩とか。がっしりしてるなって」


 自分の身体を見てみるけど、イマイチしっくりこない。


「うーん。そういうものか」


 お風呂に入っているのに、意識してしまって、ちっともリラックスできない。というか、ゆかりの身体を見ている内に下半身が……。


「みっくん。その、それ……」


 ゆかりが指差した先には、カタくなって大きくなったソレがあった。


「いや、それはその。ゆかりが可愛いから」


 欲情してしまっても問題ないのだろうけど、まだそういう経験もないし、どう対応したらいいかわからない。


「その。それは、エッチな気分になった、ってことなの?」

「あ、ああ。保健体育で習わなかった?」


 男子も女子もその辺りのことは習うはず。


「も、もちろん習ったけど。実物を見たことはないから、新鮮で……」


 ちょっと興味ありげな目で、ソレを追われると恥ずかしくていたたまれなくなる。


「そ、そうだよな。まあ、好きな子の裸が目の前にあったら、そうなる」

「その。ゆっくんがしたかったら、していいよ」


 そう言いつつも、落ち着かないのか、手足をちょこまか動かしている。


「さっきは普通にって話だっただろ」

「私はもうお嫁さんになるって決めてるから。嫌じゃないよ」


 途切れ途切れになりながらも、本当に受け入れる準備をしてらっしゃる。


 こっちが欲望を抑え込もうとしているのに、そういう発言をされても困る。いや、準備が出来てれば全然問題ないんだろうけど!童貞の俺には、そんなお誘いへの準備はできていないんだよ。そもそも、ゴムとかないけど大丈夫なのだろうか。


「……。やっぱり、今度で。大切にしたい……と言えればカッコいいんだろうけど、正直、準備が出来てなくてな」

「そ、そうなんだ。いきなり、ごめんね」

「いや、こっちこそ」


 お互いに謝りあいながら、ぎこちない入浴を続けたのだった。

 

 お互い、部屋に戻った後。


(普通の恋人同士だとどうするんだろう)


 そんなこと考えていた。出会いを重ねて、お互いを知り合って告白、それからデートを重ねてキス、そして……というのが思い描いていた恋愛のイメージだった。でも、俺たちはもう婚約者で、それでいて、ファーストキスも済ませたばかり。ああいう状況になったら、どう対応していいかわからなくなってしまう。


(ちゃんと、そういうことを勉強しよう)


 一人、そう決心したのだった。

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