第13話 ゲームと彼女の成長

 俺たちの関係がクラスにばれたその日の放課後。先日、中断したゲームを再開しようということになったのだった。


 部屋には俺とゆっちゃんの二人。あれから、彼女は俺と一緒に居るときはべったりとするようになった。嬉しいのだけど、肌をくっつけられるのは、まだドキドキする。彼女はといえば、すっかり自然体という感じだ。


 先日中断した真・三〇無双2を再びプレイすることにする。


 ゆっちゃんはこないだと同じく曹操。


 俺は許チョを選択。許チョは曹操の親衛として仕えた怪力無双の武人で、彼には、身体を張って自軍を守った数々のエピソードが残っている。ゲームでは動きは遅く隙も多いが、防御や範囲攻撃が強力なパワータイプだ。


 このゲームにはバトルフィールドが十数個あって、それぞれ地形や広さ、門の配置などが異なっている。


 フィールドに選んだのは赤壁の戦い。魏の曹操が蜀と呉の連合軍に敗れた有名な戦いだ。魏の船団が火計で敗れたということに基づいて、フィールドは無数の船が鎖でつながれた形になっている。


 ゲームを曹操軍シナリオで開始する。俺はマップ上部の真ん中、ゆっちゃんはそのやや右上だ。このマップの攻略条件は、呉の孫権を撃破することだ。孫権はマップの一番下にいるので、敵の雑魚を撃破しつつ、マップ下側に向かうのが基本戦術だ。


「ちょっと遠いな。ゆっちゃん、こっち来てくれ」

「うん」


 許チョは移動速度が遅いので、曹操の移動速度に合わせるのには不向きだ。なので、いったんこちらに合流してもらう戦略を取ることにした。


「みっくん。器用だよね。使ったことあった?」

「いや、初めて」


 協力プレイなので魏陣営に揃えてみただけで、許チョを操るのは初めてだ。移動速度や大振りなモーションはやや扱いづらいが、慣れてくると敵を吹き飛ばすコツはすぐ掴めた。


 合流すると、ゆっちゃんの曹操が敵を切り払いながら、生じた隙を俺の許チョが無双乱舞やコンボでサポートする体制に。


「昔を思い出すな。ゆっちゃん、下手だったよね」

「みっくんは、いつもこうやってサポートしてくれたよね」


 二人でテレビ画面を見つめながらそんな会話をする。このゲームでは二人とも同じ画面の上下を見るので、画面を見ながら会話をすることが多い。


 内向的だったゆっちゃんと俺が遊ぶのは、部屋の中な事が多くて、とりわけコンシューマゲームが多かった。中でも、二人で協力プレイをするゲームがをよく遊んだ。ゲームがそれほど上手ではないゆっちゃんを俺がサポートするというのが俺たちの日常だった。


「肉まんだ。はい」


 マップに出てくる壺を破壊すると出てくる回復アイテム。ゆっちゃんの曹操はライフゲージが少し削れていたので、出てきた肉まんを取ってもらう。


「ありがと」


 黙々と、雑魚を斬りはらいながらゲームは進んでいく。


「そういえばさ」

「何?」


 このゲームは、武将クラスと戦っているとき以外は比較的大味な戦術でいけるので、会話をしながらプレイすることが多い。


「ちょっと、呼び名変えてみないか?」

「どうして?」


 二人で協力して雑魚をなぎ倒す。会話しながらでも、どんどんゲームは進む。


「今日、学校で思ったんだ。婚約者なのに、ちょっと子どもぽいかなって」

「でも、私は気に入ってるよ」

「俺も気に入ってる」


 それは本音だった。お互いのあだ名は思い出の象徴だし、愛着もある。


「……ただ、さ。区切りを付けてもいいかなって。昔のままの「ゆっちゃん」で見ちゃいそうだから」

「そっか。じゃあ、なんて呼んでくれるの?」

「ゆかり」


 改まってだと、とても緊張していただろうけど、ゲームをしながらだと、不思議と自然に口に出せた。


「凄くドキっとした」


 そんな返事。よく見ると、ゆかりの操作する曹操の動きが少し変で、雑魚に割り込まれていた。それをあわててフォローする。


「ごめん」


 ちらっと横を見ると、頬が赤らんでいて、操作もぎこちない。


「いいの。嫌じゃないから。急に、みっくんが大人になったみたいで、恥ずかしかっただけ」

「そっか。ゆかりは呼び名変える?」

「幹康…幹康君。ちょっと違う気がする」


 気が付くと、ゆかりの操作する曹操は元通りの動きを取り戻して、敵本陣に迫っていた。俺もゆかりの周辺を薙ぎ払って援護する。


「やっぱり、みっくんのままでいい?みっくんはみっくんだと思う」

「いいよ。好きなようで」


 いよいよ、敵総大将の孫権(そんけん)との戦いが始まる。


「今回は見てて」

「うん?」

「ゲーム練習したって言ったでしょ。見てて」

「わかった」


 一緒にゲームをプレイしたいということで、練習したんだったか。

 周辺の雑魚を薙ぎ払いながら、ゆっちゃんのプレイを見る。


 敵武将や総大将はライフゲージが多い上に、無双乱舞も使ってくるので、普通の雑魚よりテクニックが必要だ。昔は、俺がよくフォローしていたけど。


「お。上手いな」


 斬撃に続くチャージ攻撃で、うまくコンボを続ける。このゲームでは、通常攻撃の後にチャージ攻撃を使うことで、コンボ数を稼ぐのがコツだ。曹操の場合、通常攻撃5回の後のチャージ攻撃が強い。


 見ていると、通常攻撃5回とチャージ攻撃1回を全段ヒットさせている。見る見る内に孫権のライフゲージが減っていく。あともう少しだ。


 ゆかりの操作する曹操が無双乱舞を放ってトドメを刺そうとする。孫権もちょうど無双乱舞を放ってきた。このゲームでは、無双乱舞中は無敵状態だが、相手も同時に無双乱舞を放ってくるとつばぜり合い状態になる。


 つばぜり合い状態になると、ボタンを連出して、押し勝つと敵をひるませられる。ちらと横を見ると、冷静にボタンを連打している。


「よし!」


 画面を見ると、つばぜり合いに負けた孫権がふらついている。

 すかさず、ゆかりの曹操が追い打ちをかけ、孫権を討ち取る。


【敵将 討ち取ったり!】


 武将や総大将を討ち取ったときのボイスが再生される。


「上手くなったでしょ?」


 見ると、ゆかりがドヤ顔をしている。


「だな。正直、驚いた」

「いつまでも、昔のままじゃないんだから」


 そんな言葉が印象に残ったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る