第12話 旦那さんとお嫁さん

 学校が始まって数日というある日の朝。


「おっす」


 普段通りの朝の挨拶を交わす。


「おはよう。幹康君、ゆかりちゃん。相変わらず仲がいいね」


 その言葉に、俺たちはびくっとする。

 

「見てたのか?」

「ああ。窓からばっちりと」


 登校前に手を離したはずなのだが、ばれていたようだ。


「……まあいいか。俺たち、付き合ってるんだよ」


 ゆっちゃんと目を見合わせる。

 実は、婚約(口約束)をしているのだが。


「二人で遅刻して来たときに、怪しいと思ったけどね。やっぱり」


 あのときは、まだ付き合ってすらいなかったのに、数日で事情は変わるものだ。


「私も怪しいと思ってたけどね。前から付き合ってたの?」


 横から、富山も口を出す。


「いや、実はさ。2日前なんだよ」

「「ええっ!?」」


 二人して仰天している。

 昨日今日だから驚くよな。


「ね。どういうきっかけだったの?」


 興味深々といった様子の富山。


「ゆっちゃん。話していいか?」


 念のため確認をとる。


「知られて困るわけじゃないし」


 そんなことを話していると。


「「ゆっちゃん」ね。ひょっとして、昔からの知り合い?」

「ああ。いわゆる、幼馴染ってやつ」


 言ってて少し恥ずかしくなるが。


「なんと、幼馴染!しかも、幼馴染同士のカップルとか。尊い~」


 謎の盛り上がりを見せる富山。しかも、何故か拝まれる。


「尊いって何だよ。尊いって」

「いや、ごめん。つい、脳内でカップリング妄想をちょっと」

「おまえ、カプ厨だったのか……」


 カプ厨とは、なんでもかんでも、脳内でくっつけたがる人種のことだ。

 俺は詳しくないが、中学時代の友人にカプ厨がいたので、よくわかる。


「カプ厨とは失礼ね。カップリングの何が悪いのよ」

「いや、悪かった。別に勝手にカップリングしてる分には構わないから」


 カプ厨は刺激するとやっかいなので、適当にあしらっておく。


「昨日今日で付き合ったってことは、何かイベントでも?」

「イベントっていうか、ゆっちゃんと再会したのが、つい数日前だからな」

「うっわー。運命の再会なんて、ますますじゃない!」


 また盛り上がり始める富山。


「人の恋路で変な盛り上がりしないで欲しいんだが」


 ゆっちゃんは、少し引いている。


「とにかくだ。ゆっちゃんとは幼馴染で、今は付き合っている。以上」


 これ以上、こいつに妄想の種を提供しても仕方がない。

 ゆっちゃんも引いてるし。 


「面白げがないわね」


 面白がられても困るんだが。


「にしても、気になるね。どういうきっかけだったの?」


 秀樹も乗ってきた。そこは気になるか。


「いや……そのな。再会っての偶然じゃないんだ」

「というと?」


 秀樹が聞き返してくる。


「ゆっちゃんとは中学のときからラインで連絡してて。それで……」


 再会に至るきっかけを話す。


「まるで、遠距離恋愛みたいだね」


 そんなことを言われる。遠距離恋愛か。


「言われてみれば」


 あの頃、既に両想いだったわけだし。


「そうなのかも」


 二人で頷き合ったのだった。


「にしても、付き合い立てなのに、落ち着いてるわね。知ってる奴ら、付き合い立てはもっときゃっきゃうふふしてるのに」


 富山は少し不思議そうだ。

 婚約する前だったら、きゃっきゃうふふどころか、あたふたしてたんだが。


 二人を置いて、少し離れる。


「なあ、そんなに落ち着いてたか?」

「うん。みっくん、凄く堂々としてた」


 ゆっちゃんの目からもそう見えたのか。


「なんだか、旦那様って感じ」


 少し恥ずかしそうに、でも、嬉しそうにその言葉を口にする。


「それを言ったらゆっちゃんだって」

「私はもうお嫁さんだし」


 そんなことを二人で話し合った朝だった。

 しかし、なんだか、大事な段階をすっ飛ばしているような気がする。

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