第9話 お部屋でゲームと約束の影響
ゆっちゃんと恋人になった。
あまりに急過ぎる展開に、落ち着かない。
いつか恋人になれれば…とは思っていた。
ゆっちゃんも俺のことは嫌いじゃない、と思うし。
(でもなあ)
好きだし嬉しいけど、やっぱり落ち着かない。
手順を踏んで、と思っていたところに、突然告白されたからだろうか。
でも、お互い好きなんだし、手順なんか関係ない、とも思う。
そんなことに懊悩していると、ノックの音が。
「入っていい?」
ベッドでごろんとしてたので、慌てて、部屋を見渡す。
変なものがないことを確認。
「いいぞ」
「じゃあ、お邪魔するね」
そう言って、そそくさと部屋に入ってくる。タンクトップの動きやすい恰好だ。
胸は少しだけど、身体のラインが色々見える。すらっとした手足とか。脇とか。
「あまり、じっくりと見られると恥ずかしいんだけど……」
「あ、ああ。すまん」
つい、じっくり見てしまっていたらしい。でも、恋人が部屋に来るといって意識しない方が難しいわけで。
「ね、ゲーム、やらない?」
そう言って、ゆっちゃんが指差したのは、真・三〇無双2のパッケージだった。某社の無双ゲー第2作目で、今となっては少し古い。
「お、おう。やろうぜ」
一緒にゲームしながらだったら、このドギマギした気持ちを紛らわせられるかもしれない。
もう古くなったP〇2を立ち上げて、電源を入れる。
「あ、そうそう。これ、懐かしい~」
感動の声を上げるゆっちゃん。
「このOPムービーが良かったんだよな」
昔、一緒にプレイしたときのことを思い出す。
「二人でやるんだし、協力プレイでいいよな?」
「うん。楽しみ」
コントローラーを渡して、二人でプレイアブルキャラから一人を選ぶ。
「諸葛亮とは……相変わらずだね」
「ちょっと使いづらいくらいがいいんだよ。ゆっちゃんは手堅く曹操か」
諸葛亮(しょかつりょう)は、三国志で有名な軍師キャラクターだ。真・三〇無双2では、扇子を武器にして、「シャッツシャッホー」という謎の掛け声と、極太レーザーを一定時間出し続けるという無双乱舞が特徴だ。攻撃速度は普通だが、武器のリーチが短く範囲が狭いのと、無双乱舞が直線状なので、雑魚に囲まれたときに離脱しづらいという欠点がある。
対する曹操(そうそう)は、剣を武器に戦うオールラウンダー。武器の射程も範囲もバランスがとれており、無双乱舞も周辺の雑魚を掃除するのに使いやすい。
協力プレイのときの目的は、広範囲にわたる戦場を移動しながら、敵武将を倒す、門を開ける、といった、時々に応じて表示されるミッションを協力して達成しながら、最終的には敵総大将を討ち取ることだ
ゲームが始まる。最初の目標はマップ中央にいる、敵武将を倒すことらしい。
俺の諸葛亮がマップ左下、ゆっちゃんが右下だ。
曹操を操作して、雑魚をサクサクと排除するゆっちゃん。
画面が上下に分割されているので、お互いにどんな状態にあるかは見える。
「諸葛亮はやっぱり癖があるなあ」
「でも、久しぶりにしては上手いよね」
シャッシャッホーと扇子を振り回して、雑魚を斬りさばいていると、そんな声が。
「どうかな。まだ勘が取り戻せてない気がする。というか、ゆっちゃんも慣れるの早いよな。練習でもした?」
ちょっと茶化すつもりで言ったら、ゆっちゃんが固まっている。
「……ええと、まさか」
「実はその。練習してたの。再会したときに一緒にゲームできればいいなと思って」
「あ、ああ。その、ありがとう」
そこまで想っていてくれたことが嬉しいやら恥ずかしいやら。
「でも、別にいいんだぞ?隠し事をしないっていっても、言いたくないことまでばらさなくても」
「約束」といっても、とっさの口約束だし、言いたくないことまで言わせてしまったら、かえってしんどいだろう。
「言いたくないことじゃないから。だから、大丈夫」
ちら、とゆっちゃんの方を伺う。
うつむいていて、頬も赤い。
色々、可愛すぎて反則だろ。
「あ、ああ。そ、それなら、いいんだけど」
意識し過ぎて、返事がうわずってしまう。
これ、どうすればいいんだろう。
「あの、さ。LIN〇でやり取りしてたときもさ。色々考えてた?」
「う、うん。新作ゲームの話をしてたときは、私も自分で買いに行ってプレイしたり」
それで妙に話が合っていたのか。
調べてみたにしては詳しすぎるな、と思ったことがあったけど。
俺も、話題に出たネタは、買うなり体験するなり拾おうとしていたから人のことは言えないのだが。
「ほんと。色々ありがとうな」
「私がそうしたかっただけだから」
片想いだったつもりが、想われていたことがわかってきて。
嬉しいのだが、それ以上に恥ずかしくなって落ち着かない。
肩に何かの重みが。と思って横をみると、
ゆっちゃんが俺にもたれかかってきていた。
「え、えーと」
「こうしたいと思ったから……ダメ?」
「い、いや。嬉しいけど」
小ぶりな胸の感触とか、やわらかい腕とか
頭の感触とか。いい匂いとか。
色々伝わってくる。
「そ、その。襲われるかも、とか、思わないの?」
ここまでされると、色々ムラムラしてくるが、自制、自制。
「別に、襲われてもいいから。襲って欲しいくらい」
茶化した様子はなく、恥ずかしそうだが、本気ぽい。
でも、襲って欲しいと言われても、こっちの心の準備ができていない。
「あ、ああ。また今度、準備が出来たら」
準備って何だよ、準備って。準備が出来たらするぞ、みたいな。
「あと。するとしても、まず、キスからな」
いきなり襲うのは順番が逆だし。
「私は、どっちからでも大丈夫だよ」
そんな、覚悟完了といった感じで言われても。
いやいや、それは駄目だろう。
昨日まで、少しずつ距離縮めていって、いずれは恋人にと思っていたのに。
気が付けば、ゆっちゃんにがんがん距離を縮められている。
それもこれも、たどれば、先日の約束だと思うのだが。
「あのさ。約束のことだったらさ。無理しないでいいんだぞ?もう恋人同士になったんだし、あとは、ゆっくりやっていけば」
「……あのね。約束は全然嫌じゃないの。これまで恥ずかしかったりしたことを色々伝えられたから。だから、「約束」続けたいんだけど、ダメ、かな?」
上目遣いで、おねだりしてくるような言い方をされたら断れるわけがない。
「じゃあ、それも「約束」ということで」
「うん」
「あとさ」
「ん?」
「いきなり過ぎて、俺も気持ちが追い付いていないんだけど。これからも恋人として一緒に色々したいと思うから。だから、よろしく」
「うん!」
そう答えたゆっちゃんは本当に嬉しそうな、幸せに満ちたような顔をしていた。
「ってそういえば。ゲーム」
「あっ!」
話に夢中で気が付いていなかった。
画面を見ると、両方ともプレイヤーがとっくに討ち取られていた。
「ゲームのときは、ほどほどにしようか」
「そうだね」
そうして、ゲームのときは、いちゃいちゃし過ぎないという、新しい「約束」ができたのだった。
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