桜の式の日

森山流

桜の式の日


 桜の花が風に流れてさらさら降ってくる。



「ゆかりさんはどんな人ですか」

「やさしくて、思いやりがあって」「ちょっと口うるさいけど、世話好きな人」

「好きなこととかは」

「犬の散歩が趣味で」「ガーデニングも好きだから、いつも家の中と庭は花でいっぱい」

「思い出のエピソードは」

「うーん、なんだろう?」「毎年誕生日やバレンタインやクリスマスに、大きなケーキを焼いてくれたことかな」

「どんな音楽をかけましょう」

「なにか明るい、楽しい曲をかけたいな。せっかく皆さん集まっていただくし、盛大にしたい」「ええ、いいの、そんなで」「最近はそういうのが流行りなんじゃない。いいよ、人生最大のお祭りみたいなもんだし」

「お花はどうしますか」

「季節の花をたくさん入れてください」「かわいらしい感じで、チューリップ、フリージア、デイジー、ガーベラ、スイートピー、ミモザ、カラーとか全部」「桜の枝も入れようよ」

「弘さんからはなにかありますか」

「そうですね、今まで本当にお世話になって、ありがとう、とか…」「その内容じゃみんなの前で言えないわよ」「はは、確かに」




 山本家式場、と書かれた受付を済ませて会場に入ると、すでに30人ほど集まっていた。照明がやわらかく照らす落ち着いた色合いの室内は、緊張感なく過ごせるよう、少し天井の低いつくりになっている。私と千枝子はもう若くないので、二人とも漆黒の極力シンプルなツーピーススーツ姿だ。

「梨香、化粧と髪、これで変じゃないかな」

「いいわよお、自分でやったらそんなもんだって」

 式場には花があふれている。白やピンクや黄色の花々に囲まれた真ん中のひな壇のようなところがゆかりの場所だ。私たちはゆかりのお母さんに挨拶すると、やや後ろ側の座席に座った。ゆかりの親戚、弘さんの親戚などが集まる中に、高校時代の同級生、恵子と詩織も来ている。

「あら、梨香ちゃん!久しぶりねえ」

「恵子じゃない。元気にしてた?ずっと連絡よこさないんだから」

「梨香ちゃんこそ!旦那さん単身赴任って聞いて大変そうだからと思って遠慮してたのよ」

「でも、今日こうやって会えてよかった。ゆかりのおかげだわ」

「詩織はどう?元気そうね」

「元気よ。茨城に引っ越してから、なかなか東京出てくることもなかったから、今日はなんだかおのぼりさんみたい」

「本当にねえ。これもゆかりがくれた東京旅行なのかも」

 雑談しているうちに、係の人の案内で、ゆかりの姿が現れた。真っ白な衣装で、きれいに化粧して、おだやかにほほえんでいるゆかりは、なんだかお姫様みたいだ。

「なんだか全部夢みたいで、実感わかないね」

「本当、あっという間だったね」

「びっくりしちゃったね」

 一番前の席に、ゆかりの2人のお子さん、大学生の健人くんと、商社勤めの美紀さんの姿がある。そして、夫の弘さん。最後の挨拶として、マイクを握って話しだす。

「今日は、皆様お集まりいただき、誠にありがとうございました。今までの人生で関わった方々がこうして集まる今日の式は、ゆかりの最後で最高の大きなお祝いのような気持ちでおります。どうか、明るい気持ちで、見送ってやってください」

 弘さんの目に涙が光る。



 桜の花が風に流れてさらさら降ってくる。私たちは葬儀会社のバスに乗り込み、ゆかりの棺と一緒に斎場へと出発した。

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桜の式の日 森山流 @baiyou

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