第8話

楽しげに去っていく烏田先輩を見送りながら、近くにあったベンチに腰を下ろす。何か色々あったけど退学は免れたのかな。


「君がそこまで体を張ることでは無かったんじゃないのかい?」

「僕、お役に立ててましたか!?」


隣に座った空野先輩は少し笑って、頷きながら僕の頭を撫でた。なんという御褒美、恐れ多いです。しかし……こんなに優しくて美しいのに、何故有らぬ噂が立ち込めるのだろうか。 サイボーグだとかヤクザだとか。逆恨みというヤツでしょうか。


「誤解がきちんと解けるように、僕、頑張りますね!」

「……猫山万里が被害者なら、彼に証言してもらえば一番早いんじゃなくて?」

「それは僕も考えました」


でも、脅されてると言われちゃえばそこまでだ。 それが手口とまで言われてるんだし。あの万里が脅しに屈する筈がない。 のに、犯人の名を挙げないのは……万里自身に言いたくない理由があるんだろう。無駄になるであろう証言を嫌な思いをさせてまで言わせたくない。 ならば別の形で無実を証明したほうがいい。その結果、こうして空野先輩の恋人になることで丸くいったんだし。


「……って成り行きとは言えなんか大変なことになってしまいましたね申し訳ございません!!」

「あぁ、僕は構わないよ、感謝してるくらいさ」


空野先輩は万里が好きなのを知ってるのに、無理矢理恋人にして僕性格悪すぎ! 恩を仇で返すとはまさにこのことじゃないですか!


「あの、形だけ、形だけですから! お気持ちはいりません、形だけ、僕の恋人になって下さい!」


僕のことは退学回避の踏み台程度の認識にしていただいて、空野先輩は万里とくっつかなきゃ。 僕も精一杯そのお手伝いをして。いつか空野先輩の誤解が解けたら、万里に渡してあげなきゃ。


「宇佐見くん?」


だけどそれまでこの美しい人は、僕の、初めての恋人。

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