第6話

病院に運ばれた万里は一向に口を開かず、犯人や状況等も一切掴めていないらしい。しかし、それが“空野”のやり方だそうだ。何故万里が被害に遇わなくてはいけない。 何故万里で無くてはいけないんだ。込み上げるのは熱い、怒り。そして。


「さすがにもう空野は退学だろうなー」


何故か過る、冷たい不安。


空野、先輩。

あの優しい先輩が万里を殴った“空野”なワケは無い。 けど、胸騒ぎが止まらない。 クラスくらい聞いておけば良かった。失礼になるけれど、空野先輩の口からちゃんと違うと言われなきゃ、安心なんか出来ない。でも何処にいるんだろう、先輩達怖いから聞けないし。 骨が折れるなぁ。


「迷い兎、探しているのは青い鳥かい? それとも美しい鳥かい?」

「へ?」


か細い声に辺りを見渡すと、色白で狐目な青年がにっこり笑って立っていた。恐らく僕に話しかけたのだろうけど、なんというか、日本語でお願いします。


「美しい鳥ならば、喉の渇きを潤しているよ」

「は? へ?」

「捕まえておあげ、綺麗な羽が傷付けられる前に」


去っていく狐目なさん。 全く意味がわからないけど、あんなに狐目な人初めて見た。 というか肌白すぎだよ、血管が透ける一歩手前レベルだよ。 それなら僕は万里のほんのりピンクな色白のほうが好きです。

……喉渇いた。 青汁買いに行こう。 青汁あんなに美味しいのに一階の自販機にしか置いてないんだもん。 なんか、何処かの誰かが遊び心で置いた『罰ゲーム用自販機』らしいんだけど、僕には青汁や野菜ジュースが取り揃えられてて夢のような自販機です。


「……あ」


そんなドリーマー自販機の前に、遠くからでも分かるキラキラオーラを放つ人物が。


「空野先輩!」

「宇佐見くん、奇遇だね、また青汁かい?」


覚えられてるなんて光栄です! あぁ、この美しきお声に呼ばれるならば僕の名前も捨てたもんじゃないな。でもなんか、今日は疲れてるみたいだ。 良くないことでも……いや、まさか、ううん、違う違う。空野先輩は優しいんだから。


「昨日のお茶がとても美味しかったから買いに来たんだ」

「光栄です!」

「お礼に今日は僕が奢るね」


ど、どんだけ優しくて良い人なんだ! 完璧だよ、完璧すぎるよ空野先輩。 貴方のような人になりたいです。


貴方のような。


「空野、今回の暴行事件で晴れてお前は退学だな、ようやく居なくなってくれて清々するよ」


優しい、人に。


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