第5話

“好きだよ”


…………。

…………う。

うわああああああ!!


ちょ、あ、あの美しきクイーン少年合唱団も声負けするボイスでそんなセリフ! 男の僕でも骨抜きだよ、うわあ凄い言葉の威力って凄い。 いや、あの声ならば「うおのめ」とか「アボカド」だとしても骨抜きですけどね!よりによって、好きだよ! そんなセリフ言われたら……ん?

好きだよ。好きだよ?待って、待ってこれ、美しき声とかそういう話じゃない。告白だよ!


「……そう、なんですね」

「あぁ、僕は君を、」

「先輩も万里が好きだったんですね!!」


こんなに美しくても気持ちを伝えるには人伝になってしまうんだと、それを教えて下さったんですね! 何処まで良い人なんだ!


「わかりました、先輩の美しさと優しさに免じて、その恋応援します!」


僕が味方なら万里も相手にしてくれるだろう、美しき先輩と可愛い万里……子供が出来たらきっと天使だな、拝みたい。


「早速万里にアプローチを……あ、先輩の名前教えてもらっていいですか?」

「空野鷹」

「空野先輩ですね!! ……え?」


その時、10分進めていた僕の時計は、確かに止まった音がした。


「……」

「……」

「トイレにはそれはそれは綺麗な女神様がいるんですよ」

「そっか、一旦落ち着いたほうが良いみたいだね」


その話を聞いてからトイレ入るのちょっと恥ずかしくなったんだよね。 力んでる時に女神様と出会したらどうしようって思ったらお尻に力入らなくなっちゃって、トイレにいる時間長くなっちゃうんだよ。あ、でもそれはそれは綺麗な人なら見てみたいかも。


「というか、君は何か勘違いしているみたいだけれど、僕は万里とやらに興味は、」

「わかった!!」

「とりあえず人の話を聞いたほうがいいよ」


アレだ、他人の空似ってヤツだ、空野さんなだけにね、ぷぷ! あ、今の面白い。


「先輩先輩、他人の空似ですね、ふふふ」

「……」


よし、ギャグも決まった。 後はこの名推理を披露する時間だね。空野なんて名字の人はこの日本に何万といる! はず! だって神様ですら八百万いるんだから空野さんも八百万くらいいなきゃ、神様の希少価値が危ぶまれちゃうよ。たまたま! つまりたまたまの偶然の奇跡の極稀な話なんだよ!サイボーグ空野さんと、美しき空野さん。 共通点は名字だけ。 イコールなんかされないんだ!だってほら、小学校の時も居たもん、空野さん。 何かの名簿書くときに「ソラノのソラは青空の空?」って聞いたら「ううん、曇り空のほう」って言われてしばらく空って漢字がトラウマになったもん。


「ちなみに先輩のソラは曇り空ですか? 青空ですか?」

「もうそろそろ戻っておいで」


結論。美しき空野さんはセフセフで。美しき空野先輩、貴方は僕にとって最初で最後の空野さんになります。 いや、ファースト空野さんは曇り空野さんか。 じゃあラスト空野さんで。


「あ、もうこんな時間だ」


本当はもっと美しき姿を眺めていたかったけど、時間も時間ということで泣く泣く解散した。一般生徒用のバスに乗らず、寮生でもないとこを見れば、先輩はどうやら特待生らしい。 あんな美形がいるなら特待生もまだまだ捨てたもんじゃないよね。名高い学園。 その学力や部活動成績を上げ学園の名を高める道具が『特待生』。 名前の響きは良いが、実態は授業料を『免除してやる』、入学を『認めてやる』、だから『それなりの成績を納めろ』という扱いだ。ベースは金持ちの坊っちゃん。 この学園の生徒はあくまで金持ちの坊っちゃん。 その金持ちの坊っちゃんが世間にお出になられた時、「落命学園生です」と言って恥ずかしくないよう底上げするのが『特待生』なんだ。


僕は一般生徒だけれど『模範生であること』という条件付き、扱いはほとんど特待生と変わり無い。でも一応寮では一般生徒扱いされ、部屋も一般生徒用の部屋。 だからでっかいテレビだとか立派なキッチンだとか床暖房だとか、高級マンション並の生活を送らせて貰えてる。特待生は、学力特待生なら勉強部屋が、スポーツ特待生なら運動部屋が設置されるため無駄に広いが、物はほとんど無い。そこまで差別しなくていいのにって僕は思うけど、やはり金持ちのプライドが許さないんだろうな。ちなみに、万里の部屋にも運動部屋がついていて、万里は備え付けのダンベルで毎日筋トレしてます。


そして。


「ただいまー」

「遅かったな、寄り道でもしたのか?」


それ以外の時間はほとんど僕の部屋に住み着いてます。 いいんだ、一人は寂しいしね。


「万里のこと好きだっていう先輩と話してたんだ」

「お前はまた誰かさんの懸命な勇気を天然でかわしたのか」

「すっごい美形なんだよ、お付き合いする気ない?」

「巨乳なら考えてやるよ」


そ、空野先輩巨乳じゃない あんなに完璧なのに、そうだ、巨乳じゃない! 唯一の欠点でフラれるなんて……あんまりだ!


「おっぱいなんて、脂肪の塊だよ? 何れは垂れてシワシワになって、見るも無惨な状態になるんだよ?」

「巨乳なら構わねぇよ」

「胸は平たいけど、超美形だから多分胸元も美乳だと思うんだ!」

「ばっきゃろう膨らんでなきゃ意味ねぇだろうが!」


空野先輩ごめんなさい、貴方の容姿に僕は全く文句はありません。 が、豊胸手術をオススメします。


「ねぇ、会うだけ会ってみてよ、優しくて良い人なんだよ」

「だー、めんどくせぇ、そのうちな」

「約束だよ!」

「どーせソイツもテメェが好きってオチなんだろう」


ふぅ、これでなんとか空野先輩の恋を応援出来るぞ。 有言実行。


「んじゃあ、俺ちょっと出掛けるから」

「筋トレ?」

「いや、兄貴が来てんだ」

「のん兄が!? うわぁ、会いたいけど宿題あるしなぁ」


万里のお兄ちゃん、のん兄もすっごい美形で優しくて天才なんだよね。 王子様みたい。


「また今度な」

「うん、よろしく伝えて」


笑顔で手を振り送り出した万里は、その日帰って来なかった。


そして翌日の昼、傷だらけになって寮に帰って来たと連絡を受けた。


皆が口を揃えて言った。


“空野の仕業だ”と。

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