第3話

「お、遅刻かと思ったのに間に合ったんだな、最早ギブアップでバックレたのかと思った」

「親切な先輩が助けてくれたんだ」


僕が入るとほぼ同時にチャイムを鳴らした教室、前の席に座る万里が体ごと此方に向ける。小柄な僕より更に小さい万里は、言われなきゃ絶対女の子に見えるほど可愛い容姿をしている。 黒い髪は癖っ毛で跳ねていて、それが一層万里を小顔に見せる。 白くてもちもちの肌に、ばっちりと大きな目には涙が溜まるくらい長い睫毛があって、白肌と黒髪を引き立てるピンクの唇は、お手入れ無しでここまでなれるのかというくらい瑞々しい。声を大にして言おう。万里は男女含めても一番可愛いと。あぁもう約十年の付き合いだけどこの可愛らしい容姿には骨抜きレベルで癒されます。これで性格ももっと女の子っぽかったら良かったのに。


「万里、超汗臭い」

「たりめぇよ、汗は男の香水だ」


椅子の上に胡座をかくその姿。 見た目は美少女、中身は親父、その名も猫山万里。もっとさ、こう、それこそ今朝の美しき人を見習って、もっと見た目通りの行動を心掛けて……ぅう扇ぐな! 汗臭い!


「そういえば、また近所で暴行があったらしいぞ」

「それって、この辺りを牛耳ってるヤクザの仕業?」

「いや、単独っぽいし、ウチの学校のサイボーグの仕業じゃねぇかって話だ」


夢見て上京したこの都会は、きらびやかな見た目と裏腹に物騒な一面を持っていた。何やらや、ヤクザ様が、日夜暴行を繰り返しこの街を支配してるらしい。でもその正体は全く知られていない。ただ……この学校に存在する、先程話した『最強の特待生』が、ヤクザに関わってるという噂を耳にした。近寄りたくないレベル、アップ。


「そういえば柔道部の先輩が言ってたけど、そのサイボーグの名前、空野っていうらしいぞ」

「空野サンか、わかったもう全国の空野サンと距離置くね」

「お前本当に苦手だな」


暴力なんて絶対ダメだよ、痛いって体からの危険信号なんだよ。 しなくていい怪我はしちゃだめなんだ、血液は無駄に流すなら献血しなきゃ!何にせよ、空野サンと今後関わりませんように。

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