第67話 ありがとう。

「あたしが1番に決まりました!!」

「うん! レンちゃん、よろしくね!」




 ボクたちは11時のブランチを楽しみながら、ある話題について話していた。それは、ティルス観光――。


 最初、臨時市長になったボクがみんなを案内するはずだったんだけど、徐々に流れがおかしくなり、最終的には、ボクが2時間ずつ4人とデートする羽目になってしまったの。


 想像を絶する順番争いは1時間にも及んだ。

 その内容は苦笑するしかないレベルで――。


 1.リンネちゃんへの愛を語ろう

 2.リンネちゃんの秘密を自慢大会

 3.リンネちゃんの匂い嗅ぎ分け大会


 でも、審判役のボク自身が途中で試合を放棄してしまった。


 だってさ~。

 お互いに赤面状態でも乗りきれた1回戦は、まぁ許容しよう。

 2回戦で、徐々に明らかにされていくリンネの謎――これも、ぎりぎり耐えきった。自分で自分を褒めたい。

 しかし、3回戦目はダメでしょ。アウト! 審判自身が自分にT.K.O.を宣告しました。


 挙げ句、平等にとじゃんけんで決まった結果が、こうだ。

 何というハードスケジュール!


 午前12時~レンちゃん

 午後2時~メルちゃん

 午後4時~アユナちゃん

 午後6時~アイちゃん




 ★☆★




 で、ボクとレンちゃんは村人A&Cの服装に着替えて地味化した。これなら目立たないはず!


「レンちゃん、どこ行こうか?」


「勿論、デートといえば……ショッピングゥ!!」


 出たよ、1番面倒臭いパターンが。

 ということで、ボクたちは絶賛ショッピング中だ。



『あ、レンちゃん~!!』


 見知らぬお姉さんが遠くで手を振っている。レンちゃんも笑顔で振り返している。


『レンちゃんだ! お~い!!』


 今度は変なおじさんだ。レンちゃんは笑顔で手を振っている。


『レンちゃん見っけ! お出掛け中?』


「うん、デート中! また今度遊ぼうね!」


 今度は小さな子どもたちにバイバイ。


『レンちゃんこんにちは! 食べていきなよ!』


 おばちゃんから串焼きを貰った。ボクもに。



「レンちゃんて、凄い人気だね!?」


「えっ? そう? あ、あの店に行きたい!」


 赤髪美少女は目立つからね!

 人見知りだって言ってる割に、誰とでも話せるじゃないの。


『レンちゃん、いらっしゃい! あれ? その子は?』


「スゥさん、何言ってるのよ! 勇者リンネ市長だよ? あ、昨日から女神市長って呼ばれてたっけ?」


『え~っ! 女神市長様!?』


「えっと……スゥさん? 何故に忠誠ポーズを……」


『お会いできて光栄です!! サイン下さい、店に飾ります! 家宝にします!! あっ、少しで良いので触らせて下さい!!』


「あっ……」


 拒否する前に抱き付かれて、身体中揉まれた……なす統べなくとは、このことをいうのか。


 レンちゃん、ゲラゲラ笑わない。


 あっ……スゥさん気絶してますが……ボクは《雷魔法サンダー》してませんからね。


「あぁ~っ! リンネちゃんが暴力振るった!」


「いや、突っ立ってただけだよね!?」


「リンネちゃんの可愛らしさ、存在自体が暴力なんだよ! そこは自覚しなきゃ!!」


 何それ……隅っこでモジモジ生きろってこと?


 スゥさんを放っておけず、介抱しながら2人で店番をした。

 レンちゃんの活躍で、行列のできるお店に早変わり。

 って、ここは何の店? えっ! ランジェリーショップかい!!



『本当にすみませんでした! 女神市長様、こちらの謝罪文書にサインを……』


 すみませんと言いながらもサイン要求するのね、あなたの素晴らしい胆力に免じて家宝を与えよう。


『ところで女神市長様! この下着なんてお似合いですよ! これも! あ、こっちも!』


「あ、スゥさん! 私はコレのピンクと水色をくださいね! あと、こっちの赤と黒も!」


『なぁに? レンちゃん、勝負下着ぃ?』


「そうよ! 今日は特別なんだから!」


『頑張ってね! 毎度ありっ!!』


 この人たち、凄いわ。

 スゥさんの商魂の逞しさ。街の救世主からもきっちりお金を取ってるし。レンちゃんも全てボクに払わせるし。

 まぁ、財布を握ってるのがボクだから仕方ないけどね、2人とも全く遠慮しないところが凄い!



「リンネちゃん、次はあそこね!」


 レンちゃんが指差す先には少しお高そうな洋服屋さんが。いわゆる、ブティック?


 今回の戦争で得た報酬は、兵士へのボーナス以外、全て市の財源に回されている。

 とはいえ、今のボクたちは家1軒買えるくらいのお金がある。服の10着や20着、痛くも痒くも――なわけない! だって、奴隷購入に使うお金だもん。


『いらっしゃ~い~。あら、レンちゃんじゃないの! 昨日振りね!』


「お兄さん、昨日振り!」


 昨日振りって……昨日はめっちゃ忙しかったよね!

 てか、カマっぽいの出てきたよ……さっきみたいに抱き付かれたら、今度はこっちが気絶するよ? やられる前に倒しちゃおうか。


『ややっ! そちらの方は女神様では!!』


「人違いで~す」


『アタシの目は誤魔化せないわよ? 是非ともアタシにコーディネートさせてくださらないかしら!!』


 レンちゃん……助けて……!



 その後、身体中隅々まで測定されたボクは、気づけば白くて綺麗なドレスを着せられていた――。


「これは……いつ、どこで着るの?」


『やっだぁ~! これは普段着よっ!』


 何故か背中をポンっと叩かれた。

 別にボケたわけじゃないのに。


「普段は魔物と戦っていますが――」


『魔物? 余裕でテイムできちゃうかしら!』


 ダメだこの人。違う方向を向いてる人だ。


「お兄さん! あたしはこっちの黒いドレスね!」


『まぁ、お似合いよ! レンちゃんセンスあるわね!』


 結局、可愛いけど……いつ、どこで着るのかわからないドレスを買わされた。《異空間収納の腕輪アイテムボックス》の肥やしになりそうだね。



 そんな感じで4店舗をハシゴして終了時間になった。移動中はたくさんの人がレンちゃんに絡んできたね。

 それに対してボクは地味なイモラー。

 レンちゃんが太陽なら、そう、ボクは月。


 けど、異世界初の本格的なショッピングはとても楽しかったよ! 装備を買うのも楽しいけど、私服もいいよね!


 お財布を軽くしてくれた楽しいデートをありがとう。




 ★☆★




 午後2時、今度はメルちゃんとのデート。やはり服装は村人A&Bだ。あまり効果はないけど。


 メルちゃんとはティルスを一緒に歩き回っていたから、今さらデートというのも変な感じ。


 念のため、どこに行きたいのか聞いてみたら意外な答えが――。

 まぁ、メルちゃんらしいといえばらしいかな。本当に優しい良い子だよ!



 ボクたちは今、転移して例の村に来ている。


 村の名前を聞いていなかったから改めて村長さんに聞いたら、昨日からここは『勇者村』なんだって。聞いて損したよ。


 ボクがスノーとスカイを召喚したら、村人たちが走って集まってきた。


 あれ?


 勇者ってもしかしたら……この2匹なんだね。何か、絡まっていた糸がすぅ~とほどけたような気分になった!


 あ、2匹とも魔力値が75になってる! そうか、召喚主に合わせて魔力が上がるんだね。それは頼もしい!



 メルちゃんが『勇者村』に来たがったのは、ドラゴンの顔見せが理由ではなかった。

 なんと、村の復興作業を手伝いたいんだって! 優しい良い子だね! 抱き締めてあげた。柔らかい!


 まぁ、村の半壊については、実はボクの魔法が原因なんだけどね。真実を知っているのはボクたちだけという……ほんと、すみませんでした!

 と、今更ながら心の中で謝ったおいた。


 大切な家具や衣類がボロボロになっているのを見ると、罪悪感で胸が苦しくなる。口数がだんだん減っていく。

 そんなボクを思ってか、メルちゃんが村人たちに真実を告げて謝ってくれた。

 メルちゃんの逃げない強さには頭が下がる。村人たちも、命が助かっただけでもありがたいからと、ボクを責めることはなかった。



 氷塊と瓦礫の除去は意外と大変だった――。


 氷は《雷魔法》で溶かし、瓦礫やゴミはボクがアイテムボックスを使って片付けた。


 必要な建築資材も、近くの山や森に転移して石材や木材を集め、アイテムボックスに入れて運んだ。


 メルちゃんがボクの数倍も汗を流して頑張ってくれた。本当にごめんね。ありがとう。



 家の建て替えも、本当に大変だった。


《土魔法》があればサクサクできたんだろうけど、ボクは壊す方の専門だし、メルちゃんは《闇魔法》だから役に立たないよね。


 地面を整地して柱を立てて、石材を組んでいく。隙間は後で埋めるらしい。メルちゃんが力持ちで良かったよ。


 1時間半で1軒しかできなかったけど、大量の石材と木材を置いてきたから、後は頑張ってね!

 あれ……ボクは何だか魔力が……。


 正直、こんなに疲れるデートは初めて。というか、これはデート? 罰ゲームでは!?


 それでも、メルちゃんと励まし合いながら重い物を持ち運んだり、家を建てたりして働いた時間は、とっても楽しくて充実していました。

 村人さんも喜んでくれたから、とても遣り甲斐があったし!


 汗と乳酸が湧く素晴らしいデートをありがとう。




 ★☆★




 午後4時になりました。

 少し疲れが出てきたところで、強敵アユナちゃんのターンが回ってきたか――。


 とりあえず、アユナちゃんの羽は目立ち過ぎるから小型化してもらった。

 胸は無いけど身長はボクと同じくらいだからということで、ボクの予備の村人Aファッションだ。

 アユナちゃんはペアルックに興奮気味。この子はほんと安上がりで楽だね!


 アユナちゃんはなぜか海に行きたいと言い出した。ここティルスは超内陸都市なんですけど!


 仕方ないからプールを探して歩く。


 お?


 広場の噴水の所で泳いでる人がいるではないか!


 ちょっと待て。

 水着はどうしましょう。

 大迷宮のときみたいに、シャツ1枚にパンツで泳いだら大迷惑になっちゃうからね?


 結局、近くの服屋さんでテキトーに買うことにした。

 アユナちゃんてば、普通に買うとつまらないからと、お互いの水着を選びっこしようと言い始めた。可愛いこと言うじゃないの!


 まずは色から入ろう!

 さて、金髪ショートでエルフな天使っ娘には何色が似合うかな?

 白だと、肌も白いから遠目に真っ裸みたいに見えて可哀想。赤はイメージが違う。青は……微妙かな。ここは紺のスク水で1発逆転を狙う?

 いやいや、濃い色より薄い色が似合いそうだよ。水色だとカメレオンみたいに保護色化して、溺れたときに気づかない。エルフらしい黄緑も良いけど、花柄のピンクが1番似合いそうだ。よし、ピンクにしよう!


 型については……ビキニは無理でしょ。

 ずり落ちるという物理的な理由と、見ていて同情してしまうという心理的な理由から。故に、上下くっ付いた水着の1択だった。で、無難にスカートタイプが良いよね!


 結局、ピンクで小さな花柄がたくさんあるスカート型にした。似合いそう! 喜んでくれると嬉しいな!


 アユナちゃんの水着選びに集中し過ぎて、まさかアユナちゃんが鼻血を出しながら暴走しているとは思いもよらなかった。

 予見できたはずなのにしなかったのは、まさに自分の落ち度です。


 そう。

 ボクの水着は、ちょっと露出の多い紫色のビキニタイプになりました。

 確かに銀髪に青系は合うと思うよ? 逆にピンクのブリブリよりは着やすいかもしれない。


 けど、けどね?


 これは目立ち過ぎ、せくしぃ過ぎるから!

 もぅ買っちゃったんだし、1回しか着ないだろうし、何よりアユナちゃんが血まで流して選んでくれたんだから、頑張って着てあげるけどね。

 無心になれ、無心になれ、無心になれ。


 お店で着替えた後、かなり恥ずかしいけど、水着のまま噴水まで歩いた。


 アユナちゃんが可愛い、めちゃ似合ってる! 本人も喜んでくれて、見せびらかしたいみたい。


 否応なしに、町行く人々の視線が集まる。


「天使だ!」という声が聞こえる。


 確かに羽は小型化してるけど、アユナちゃんは正真正銘の天使。《鑑定魔法》でも使っているのかな。


 ただ、だんだんと「天使がいる!」に変わってきたんだよね、嬉しいよりも、恥ずかしい。



 噴水で水遊びをするボクたちの周りには、既に100人を超える人だかりができている。


 アユナちゃんの目にはボクしか映っていないみたいで、ギャラリーを全く気にするそぶりを見せない。まぁ、気にしたら楽しめないからね!


 戦勝祝いだ、くれてやろう。全部受け取れ!的な余裕を見せてあげましたよ。


 短い時間だったけど、めちゃくちゃ楽しかった! いつかまた泳ごうね!!


 時間がきたので、ボクたちはギルドの部屋に逃げるように転移した。


 羞恥心一杯の水着デートをありがとう。




 ★☆★




 午後6時、最後のデートはアイちゃんと。


「お待たせ! よろしくね!」


 ボクは村人Aファッション、アイちゃんは最初に着ていた白いワンピース姿だった。夕闇に白いワンピースと黒髪ロングは幽霊みたい。とりあえず明るい場所に行きたいね!


「アイちゃん、どこに行きたい?」


「そうですねー、折角だから甘いデザートでも食べに行きませんか?」


「デザートかぁ! いいね!」


 ん?


 市長なのに、美味しいデザートが食べられるお店がわかんない、案内できない――。


「ふふっ! また、心の声がだだ漏れですよ! リンネさんが忙しくしていてお店巡りできなかったことくらいわかりますよ。わたしが《情報収集ギャザリング》で調べておきましたから、そこへ案内します」


「ごめんねー! ボクがティルスを案内してあげるはずなのに、逆になっちゃったね」



 ボクたちは、ギルドから徒歩で10分くらい歩いた。


 途中、意外なことに、アイちゃんに挨拶する人の多いこと多いこと!

 この子もレンちゃん並にアイドルしてるじゃないですか。軍師としてかなり目立っていたからかなぁ。


 それに比べてボクはお月様。

 いや、お月様を地味な存在として挙げたら失礼だね。レディース暴走族に、月に代わってお仕置きされちゃう――。



 そうこうするうちに、商店街の一角にあるお洒落なお店に辿り着いた。


 アイちゃんの《情報収集ギャザリング》という魔法があまりにも便利すぎて、ついつい笑いが零れてしまう。


「着きましたね、さぁ入りましょう!」


「うん、綺麗なお店だね~!」


 ボクはお洒落なドアを開けて中に入った。











「リンネ様!」「リンネちゃん!」「女神様!」「市長!」「リンネ様!」「リンネ様!!」「女神市長様!」「御主人様!」「リンネ様!」「勇者リンネ!」「リンネちゃん!」「リンネ様!」「勇者様!!」「市長~っ!」「勇者!」「リンネちゃん!!」「女神市長!」「勇者リンネ様!!」「リンネ様?」「女神市長!」




「えっ? あれっ? みんなも……デザート??」



 なんで、みんな居るの?


 メルちゃんたちも。元奴隷のマールさんたちも。ギルド支部長のスルトさん、大臣の方々も。長老会のおじいちゃん方も混じってるよ。本好きガジルさんも居る。今日お店で会った人(名前忘れた)も。

 って、ホークウィズ、お前もか!!


 偶然みんなデザート食べたくなった!?


 そんなわけないよね!

 アイちゃんが呼んだんだ。ボクのために……ボクのためにサプライズパーティをしてくれたんだ!

 何か、凄く嬉しいな。嬉しすぎて涙が止まらないや――。



「泣かないで!」「笑って!」「泣いちゃダメだよ!」「笑顔見せて!」「泣き顔も可愛いね!」「泣くな!!」「笑って下さい!」「一緒に笑おう!」「泣かないで下さい!!」「リンネ様の笑顔が見たい!」「女神の微笑みを!」「今は笑え!」「泣かないで!」




「無理!……嬉しすぎて……涙が止まらない……」



 何だろう。


 まだデザートも食べてないのに、みんなの顔を見ただけなのに、安心して、全員が無事でいることが嬉しくて、嬉しすぎて……あぁ、言葉にならない。



「アイちゃん! 皆さん! ありがとう……」


「こちらこそ、ティルスを救ってくれた若き英雄に、特大の感謝を言いたくて集まったんだ。せ~の――」


「「「「「「ありがとう!!」」」」」」」




「早くデザート食べようよ!!」


「アユナちゃんの、食いしん坊!!」



 大爆笑で、今日の疲れが全部吹き飛んだ。

 アユナちゃん、ありがと!



 デザートは凄く美味しかった!

 美味しすぎて、夕食の代わりにデザートを食べまくった!


 ボクの世界でいうところの、ゼリーやパフェ。オレンジやマンゴーやパイン、グレープにストロベリー……一通りのフルーツは揃っていた。

 こんな贅沢をさせてもらって……また涙が湧き出してきた。



 その後、夜が明けるまでたくさん語りあった。


 これまでのティルスのこと、これからのティルスのこと、ボクたちが今まで何をしてきたのか、これからどうするのか、魔族侵攻戦のマル秘話、みんなが戦ってるときにまたボクが寝てたこと、ボクたちの好きなタイプ、奴隷制度のこと、アルン王国のこと、ボクたちが住んでいた世界のこと……。


 みんな、興味津々で聴いてくれた。仲間として、友として、喜怒哀楽を共有できた。



 魔人を倒した後のことは、実はあまり考える余裕がなかった。

 ウィズからは、以前に序列第4位の魔人グスカ討伐を依頼されていたけど、他にもすべきことがたくさん見えてきちゃったから――。



・王都で国王ミルフェパパに謁見し協力を依頼

・フリージア王国の他の町での奴隷解放

・レオンと協力してミルフェちゃん捜索

・アルン王国で残り3つの召喚石捜索

・アルン王国の町を巡り奴隷解放

・南の新興国へ行き戦争阻止

・グレートデスモス地境の調査……



 相変わらず、アイちゃんはウィズのことを信用できないと言い続けている。

 ウィズの目的は人間に敵対する魔人を滅ぼすことだ。

 なら、今はウィズの言うとおりに、アルンに渡って魔人グスカを討伐するのが最良と言えるのだろうか。


 本当は、今の戦力で勝てるのか不安がある。仲間を集めたり、協力を依頼することを優先すべきではないか。


 今のボクは、以前フィーネでミルフェちゃんと別れたときのような1人じゃない。信頼できる仲間がいる、友がいる。1人で悩んでも解決できないときは、みんなに相談すればいいんだ。



「これからのことなんだけど……」


「リンネ様にはこれからもティルス市長をお願いしたい!と言いたいところだが、ティルスは我々で何とかしよう。心置きなく先に進んでくれ」


 ガジルさん……やる気が出たみたいね!

 実は、長老たちから彼の持つ素晴らしい才能のことを聞いているんだよね。それと、心の弱さも。前向きになってくれて本当に良かった!


「はい、やり残したことばかりで申し訳ないですが、ティルスのこと、お任せします!」


「私たち……リンネ隊の元奴隷は、リンネ様について行きたいっていうのが総意です。ティルスに居ても辛い思い出ばかりで」


 マールさん、そんな風に考えていたんだ……。


「マールさん、辛かったとしてもご両親との生活は愛に溢れていたはずですよ。本当は、マールさんに市長をしてもらいたかったんだけどね!」


「リンネ様……何を仰って……」


「市長はね、数日間だけどボクにもできたんだし。立派な人である必要はないと思う。マールさんみたいな優しさがあって、信頼できる仲間がいれば――」


「嫌です! 私はリンネ様と一緒に行きたい! そして、一緒に生きたい! 我が儘ですが、どうか……どうか、お願いします!」


 えっ、どうしよう?


 アイちゃんをチラ見する。

 あ、目を反らした!


 メルちゃん……最初から目を反らしてる!


「危険な旅です。命を守りきれるか――」


「リンネ様の前では、死んでも構わないなんて言ったら怒られますね。もちろん、足手まといは承知しています。でも、私は宿屋の娘として経理は得意ですし、元奴隷の仲間たちの中には強い方もいますし、絶対にお役に立ちます!」


 ドワーフのお兄さんやエルフのお姉さんがしきりに頷いている。アユナちゃんも、何が言いたいのかわからないけど、羽をパタパタさせている。


「わかりました! 希望者はボクたちと一緒に行きましょう! 旅は辛いですよ、覚悟してくださいね!」


 マールさん始め元奴隷の仲間たちが泣き崩れてしまった。

 まさか連れて行ってもらえるとは考えていなかったみたいだ。

 泣きながら、忠誠ポーズを始めた……それ要らない! 誰が流行らせてるんだぁ? メルちゃんなのかぁ!?


「皆さん、元奴隷という呼び方はもう止めましょうね。今、この瞬間から新しい人生が始まったのだから。後で構いませんので自己紹介をお願いしますね! それから、皆さんは今日からクラン『エンジェル・ウィング』のメンバーです!」


 アリス団長、勝手にメンバー増やしちゃいました、すみません!


 というか、ネーミングの基本は目の前にある物から。

 今はアユナちゃんの羽しか浮かばなかったんだ。天使の羽エンジェル・ウィングは、アユナちゃん由来のオリジナルだから、決してパクりじゃない!


「エンジェル・ウィング……天使の羽……わかりました! 私たち15名は勇者リンネ様の羽となって、精一杯に羽ばたきます!」


 あれ? ボクは天使じゃないよ……まぁ、いっか。




「リンネさん。これからの方針ですが、王都に向かいましょう」


 軍師様アイちゃんが考えてくださった! この子についていけば間違いない! 頭を使わなくて済むから楽でいいね!


「王都へ行き、拠点を設けると共に王国を動かすんです」



 アイちゃんの説明によると、


 王都にエンジェル・ウィングの拠点を造り(家を買うらしい)、そこから奴隷解放の活動等を進めていくらしい。当面、王都と北のランディールの解放を目指していくことになる。


 また、現在フリージア王国が魔族に押されている原因は王国内の政争にあるとのこと。

 王国は、国王&第2王子派ヴェルサイドvs第1王子&第1王女派アレクサイドに2分して、各国との同盟を優先するか、魔族討伐を優先するかの議論を発端に、他国や魔人が介入した血生臭い様相を呈しているらしい。


 ボクたちの次の目的は、フリージア王国の政争解決ですか――。


 やだよ、政争とか。三凰で懲りたし。そもそも人間同士の争いに巻き込まれたくないよ。でも、アイちゃんが言うんだから、ボクたちの介入は必要なんだろうね。



「今日はしっかり準備して、明日の早朝に王都に向けて出発します」


「「「はい! 軍師アイ様!」」」




 一言付け足すとしたら、ボクたちの朝食は、またデザートでした――。

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