死に方について

夕凪

死に方について

「どんな死に方が、一番綺麗だと思う?」


 4月某日。校舎裏で弁当を食べながら、レナは唐突にそう言った。

 死のことなんて考えたこともなかった私は、脳裏に浮かんだ死のイメージに愕然とする。


「やめてよ、死に方の話なんて。死なないのが一番でしょう?」

「そうは言っても、人は死ぬじゃない。終わりよければすべてよしなんて言うんだから、どんな罪人でも死に方がよければ許されるのよ?」

「それはちが……違くないかもしれないけど、レナはまだ17歳だよ?死について考えるのは少し早いと思うけど」


 そう、私達は花も恥じらう乙女なのだ。なんて、少し古い言い回しかもしれないけど。死なんてものは穢れている、なんて言ったら各方面から怒られそうだが、私は死に対してマイナスイメージしか持っていない。


「寧ろ遅いくらいじゃない?幼稚園児でも漠然と死のことを考えているはずよ」

「そうかな?私が幼稚園に通っていた頃は、みんな戦隊モノかヒーローモノの話してたけど」

「私もそうだったけどね。なんかさ、このまま歳をとって死ぬんだなあと考えると、せめて最期は綺麗に終わりたいなと思ったわけなのよ」


 レナは綺麗だ。それこそ、終末を連想させるほどに。こんな田舎の高校には相応しくないし、美術館とかに飾るべきだと思う。本当に。


「レナは綺麗じゃない。綺麗な人は、どう終わっても綺麗だよ。私みたいな芋は、焼き芋になって終わるだけだけどね」

「焼き芋?あっ、火葬ってことか!上手いこと言うね」

「芋の部分は否定してくれないんだ?」


 私の容姿は、どう贔屓目に見ても綺麗とは言えない。精々シルクスイートと言ったところか。本当は安納芋だけど。そんな私がレナとお近づきになれたのは、名前が似ているから。それだけの理由だ。


「でね、私が考える一番綺麗な死に方は、恋人と湖で心中することなのよ」

「えー、溺死体は醜いって聞いたことある気がするんだけど」

「死体なんてどうでもいいの。そこに私はいないんだから。肝心なのは、文章にした時に綺麗に映るかなのよ」

「私からしたらそっちの方がどうでもいいけど」


 私は、最期の時くらい、家族や友達に綺麗な私を見てもらいたいと思う。いつも綺麗なレナは、他人からの評価を気にするのだろうか。


「でね、心中の相手を考えたのよ」

「うわー、可哀想。誰なの?」

「あなたよ」

「えっ?」


 瞬間、レナに腰を抱き寄せられる。顔と顔が近づく。別に、緊張なんてしないけど。


「リナ、あなたが私の心中相手よ」

「拒否権はないの?」

「ない。あなたは、私と死ぬの」

「……レナとなら、死んでもいいかもね」

「光栄に思いなさい!なんてね」


 そう言うと、レナは満足気に微笑む。暗く湿った校舎裏でも、その笑顔は向日葵のように咲き誇っていた。


 チャイムが鳴る。昼休みが終わったらしい。授業に出る気にはなれないので、持ってきていた通学カバンを手に取り2人で校門へ向かう。サボりではない。やる気が出ないだけだ。


「あのさ、レナは本気で死のうとは思ってないよね?」

「自殺願望なんてないわよ。理想の死に方なんて考えたところで、それが遂行されることなんてないんでしょうね」

「そうなんだ。私はレナとなら死んでもいいと本気で思ったけどね」

「本当?ちょっと嬉しいかも」

「ほとりに向日葵が咲いている湖でさ、友情を確かめ合って死にたいな」

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死に方について 夕凪 @Yuniunagi

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