幽霊屋敷
幽霊屋敷に住んでみたい。
俺はそんなことを思ってインターネットで住まいを探す。事故物件なんかは見つかるのだけど、これがなかなか見つからない。
俺はそこで人が自殺したとかそういう不謹慎な話題が聞きたいのではなく、神秘的で、美しく、恐ろしい幽霊屋敷に住みたいのだ。
ひんやりとした空気に包まれて、夜毎に物音がして、もしかしたら自分の身に何か起こるかも……そんなスリルを味わいたくて幽霊屋敷を探すのだ。
「そんなわけでさあ、ないのかな、いい家」
俺は十件目の不動産屋に行く。結局歩いて探すしかないのだ。
俺は時にすがりつき、時にごねまくり、時に怒鳴りつけ、幽霊屋敷を探して歩いた。
ホラー映画ならあっさり見つかりそうだが、やっぱりなかなか見つからないままだった。
ところがその日は違った。不動産屋の目が真剣だった。あまりの冷たい目に俺はゾッとする。
「ありますよ、幽霊屋敷」
そして不動産屋は話し出す。
「いいですか、家というものが死んだ時、そこに幽霊は宿るのです。事故や自殺なんかじゃない、家という存在が死んだ時です」
「いいねいいね、そういうものを求めていたんだ」
「それは人から忘れ去られた家です」
「当然だ」
「それは夜は寒く、凍えるような思いをする家です。」
「それでこそだ」
「どこからともなく風に吹かれて震えがってしまうかも」
「望むところだ」
「バラバラになった後なんですよ」
「最高じゃないか!」
「それではここにサインを、本当の死んだ家というのをお見せしましょう」
その場で俺は契約書にサイン。ろくに見取り図も見なければ内見もせずに即決だ。
そして俺が家に引っ越した当日。
そこには家が取り壊された跡地だけがあった。〈了〉
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