第3話 出会い

  出会いは、高校三年生の時、学校の帰りだった。

捨てられた子犬が道ばたで、くんくん泣いていた。

自転車を止めると、近寄ってきた。

柴犬の雑種で腹が空いているようだ。 

 

 食べさせるものがなかった。思い出して、

ポケットにへばりついた飴玉の紙をむしりとって与えた。

クチャクチャ、なめて、すぐのみこんで犬は少年の顔を見る。

ポケットの底を裏返しにして、また一個、はがして与えた。


一個ずつやりながら、黒犬を家につれ帰ってきた。

 

 父親が死んだばかりで、さびしかった。

母親が飼うのをゆるしてくれた。

味噌汁をかけただけのご飯を、ピチャピチャ、音を立てて食べる。

それが好ましく,ずっと見ていた。

 

  ところかまわずなめるので閉口した。

⦅お手っ、⦆と言っても、飛びついてしまう頭の悪い犬は、

友だちがいない受験期の少年の、よい遊び相手になった。

少年も、犬が忠実につかえたいご主人になった。 


 ベアと名をつけて呼んだ。

足の先が茶色で鼻先がいつも汚れていた。

アスファルトの舗道にねそべるのが好きで、

学校から帰ってくると飛びついてきて顔中をなめる。

 

頭の悪い愛嬌あるその黒犬は、暗くなっても道路に出ていた。

車が近くに来てもすぐには逃げない。

車の方で気をつけて、よけてくれた。


 けれども、夜、黒い色に運転者は気づきにくい。

車にあたって軽傷をかさねた。

黒犬は悲鳴を上げて逃げた。

そして、忘れたように道路へもどった。


そこがどうして好きなのか……いつか、命を失うと思った。


「車にはねられて、(道路の)側溝で死んでいた」 

仕事について二年目、帰郷した時に母親から聞いた。

死んだ姿を見ていない━━馬鹿さ加減だけを聞いた。


  男が故郷をはなれた後もずっと、犬は道路の上でねていたという。

家の前の道路で車にはねられて、溝に落ちて死んだ、頭の悪い、

おかしな犬という記憶だけが残った。


ショックには思わなかった。

就職して多忙になり、思い出すことがなかった。

自分が犬を死に追いやったことにも……気がつかなかった。

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