第8話 夢のありか

「ここか…」


マニラを出て半刻ほど。

くたびれたシャツが双方の心情を映し出す。


ここまでの道のりは長旅というほどではない。

リックはともかく冒険者であるクラブには数時間の移動など移動のうちに入らない。疲れるなどありえない話しだ。


つまり二人を疲弊させたのはそこではないのだ。


目の前には禍々しく反りたつ山。


周囲を囲む木々は仰々しく、風になびく様子は海原でうねる波のよう。しかもキール族によって木々は呪術の温床と化している。


不快を具現化したようなその様は『樹海』の名にふさわしい。


なればこそ二人の心情も推し図れよう。

二人は今からこのラングル鉱山を攻略しなければならない。


気落ちするなという方が無理だろう。


「この際だ。今さら面倒臭いとか言うつもりはない。だが親友の夢とやらに心当たりはあるのか?」


ラングル鉱山は広大だ。


樹海の直径だけでも二十キロはくだらない。そこにプラスして山の標高も三千メートルを有に超えている。


富士の樹海に籠り富士山を幾度も登った経験のあるリックは下手すればラングル鉱山一帯を攻略せんとする今、その経験と合わせて現状を見ていた。


元の世界では十分な装備があった。

食料、テント、トレッキングシューズに防寒具とその他もろもろ。


反転してこの世界では食料以外何もない。

素人目にも長居は自殺行為となるのは明白だった。


「安心しろ目星は付いてる。リルが子供を見つけた場所はキール族の住む集落の近くだったらしい。可能性としてはその近くに手掛かりがあるはずだ」


「場所はいいが、その〝夢〟とやらにも目星は付いてるんだろうな?」


「もちろんだ。歩きながらでも話すよ」


「なら行こう。山の天気は変わりやすいからな」


二人は樹海へと足を踏み入れた。

コンパスを片手に。何処までも続く樹木の海を。


湿る土や腐った小枝に足を捕られながらリックとクラブは歩を進める。


見果てぬ先に何があるのか。何を見るのか。


それすらも分からぬまま、二人は悠然と進むのだった。

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あらゆる格闘技をマスターしたチートだけど異世界では現世での無駄知識が圧倒的に役立ったので、悪役令嬢の古書店で何でも屋を経営します。 内田 薫 @wanda7

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