オマケ ここのカレーがうまいと聞いて
退魔師とは疑心暗鬼の塊である。
まずは疑いから入り、確たる事実か証拠を見つけない限り、人の話は絶対に信じない。
魔法を使って戦う彼らにとって、超能力者の存在は信じ難い存在らしい。それは自分達のセリフだ。
魔法のほうがよっぽど信じられない。
ただ、その辺のやり取りは散々やっているらしく、お互い干渉しないことにしたらしい。
それ以上に信じがたいことが起きるのが潮煙という町だからだ。
どんな人であれ、敵に回さないのが一番かな。
これがルードラの退魔師に対するスタンスだ。
だから、潮煙にいる異種族たちともめ事を起こさないようにしてきたし、できるだけ平和に過ごしてきた。
しかし、運命とは突然やって来るものらしい。
路地裏で吸血鬼に囲まれた青年の姿が見えた。
夜の見回りをしている最中のできごとだった。
根岸京也はとある企業の入社式で爆破事件を起こした犯人で、テロリストということになっていた。
ニュースの視聴者を騙すことはできても、潮煙にいる異種族たちは騙せない。
彼の持つ竜の血を嗅ぎつけて、吸血鬼が集まっている未来が見えた。
そこへ行けば、助けられるという確信が持てた。
だから、行動しただけに過ぎない。
事件もすぐに忘れられるだろうと、呑気に考えている暇もなかった。
竜の血を求めていた半端者の吸血鬼に襲われた。
幻覚を見せられ、再び京也の持つ竜の力が暴走した。空気を震わせる咆哮が響き、彼の姿がみるみるうちに変わっていった。
「あなたはこの前の……」
毛先のはねた短い赤毛に覚えがあった。
京也の咆哮を聞いて、公園に残された二人のもとに駆け付けた退魔師がいた。
エルドレッドと名乗った彼は、二人を厳重注意した後、家まで送ってくれた。
その後、特に何かあったわけではないから、喧嘩ということで話は終わったのだろうと思っていた。
「本当におひさしぶりですね」
向こうもこちらのことを覚えていた。
本人がいないのが救いと言えば、救いなのかもしれない。ちょうど買い出しへ出ているところだ。
「仲間からここのカレーがうまいと聞いたんです。何かオススメとかありますか?」
「そういうことなら、ぜひどうぞ」
エルドレッドは空いている席に座った。
「あれから、友達と仲直りはできました?」
「いろいろ話し合って、どうにか」
「それはよかった。
少し様子が気になっていたんです」
嘘は言っていない。
本当に気にかけてくれていたようだ。
ここまで純粋な人も珍しい。
「その節はご迷惑をおかけしました」
「いいえ、全然そんなことはありませんよ」
彼は片手を横に振って、名刺を差し出した。
「また何かあったら気軽に相談してください。
その時は力になりましょう」
正義感が強いというか、あまり退魔師らしくない。
疑わないのだろうか。
「そういえば、あの公園周辺で何かの集まりがあったらしいのですが、何か知っていますか?」
「えーっと……」
「情報によれば、派手なドレスを着た若い女性がいたようなのですが」
そう思った矢先にこれか。
聞くべきことはしっかり聞いてきた。
どう答えたものだろうか。
まちがいなくヴィヴィアンのことだ。
倒したのが自分たちだとは口が裂けても言えない。
「すみません、僕たちは何も……」
「分かりました。ありがとうございます。
こちらこそ、突然すみませんでした」
適当にごまかし、その場を流した。
深く追求する様子もないあたり、食事がてらに聞いた感じだろうか。
「ここのところ、吸血鬼を名乗る連中に襲われる被害が多発していると聞いたんです。
本当に気をつけてくださいね。
何度も言うようですが、夜は特に危険なんです」
「ええ、今後気をつけます」
彼は何度も念を押す。
自分たちを思って言ってくれているのだろう。
政府公認の退魔師。
悪い人ばかりでもないのかもしれない。
そう思いながら、カレーを食べる姿を伺っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます