8 そうはいかないよ!
しばらくしてから、バハ爺が道具を抱えて戻ってきた。
金属製の十字架や木箱など、その種類も様々だ。
「あれ、こんなのあったっけ?」
ルードラがその一つを手に取る。
ふたを開けると、ピカピカに磨かれた銀色の弾丸がぎっしりと詰め込まれていた。
「大丈夫なのか、これ?」
「どうだろうねえ……多分、吸血鬼対策に買ったんだろうけど」
「吸血鬼対策には昔から銀と相場が決まっておるじゃろ。
弾数も多いに越したことはないからの」
「どうりで出費がかさむわけだよ……」
彼は頭を抱えた。銃を扱えることにも驚いたが、法律に違反しないのだろうか。
それこそ、警察に見つかったら大変なことになる。
「たまに変な店に行っていたのは、これが理由だったのか?」
京也が目を離したすきに、老人は通りのる店に入っていた。
悪趣味な雑貨ばかりが置いてある店ばかりだったように思う。
彼が見かけた客も、かなり個性的だった。
トレンチコートやスーツを着た人々を始め、厚底ブーツをはいた少女やサングラスをかけた男性、挙句の果てには銀色の鎧を身に着けた騎士など、店の内装もカオスならその客層もカオスと化していた。
「結局、何の店だったんだ? 客層も一致してないし、未だによく分からない」
「あそこにいたのは、その手の専門家たちじゃよ。
あの店は彼らが扱う道具を売っておってな、銃弾もそこから仕入れてきた」
いつのまに、ハンターたちとすれ違っていたのか。
小柄な少女もコスプレイヤーみたいな騎士も、バケモノ相手に戦っているらしい。
自分の想像していたものとあまりにもかけ離れすぎている。
戦えるのであれば、装備は何でもいいというのだろうか。
「ていうか、銃を使うくらいだったら、直接燃やしちゃった方が早くない?」
「それも考えたんじゃが、火事になるかもしれん。難しいところだの」
なるほど、超能力者ならではの物騒な会話だ。
火を起こす能力はパイロキネシスと呼ばれているのだったっけ。
どちらにしても、かなり目立つと思う。
住宅街に鳴り響く銃声と突然燃え上がる人体を想像する。
この前のように、退魔師に気づかれないことを祈るばかりだ。
「まあ、銃は最終手段だとして、後はそれぞれ適当に武器を持てばよかろ」
老人は箱の中を漁り始める。
「退魔師でもこんなに持ってないと思うんだよね……」
ルードラはがくりと肩を落とした。
透明な液体が入っている小さな瓶や鞘に納まっている短剣、色鮮やかな宝石など、使用用途が分からない物も多い。
ましてや、専門家たちが扱う物を素人が扱えるわけがない。
どれを持っていけばいいのか、迷ってしまう。
「確かに部下の数は多かったけどな……次からはちゃんと見張っておくよ。
まさか、ここまで買っていたとは俺も思っていなかったし」
「お願いします。それにしても、ここまでひどいとは思わなかったな」
あきれ気味にぽつりと呟いた。
ここまで買い集めているのを見ると、収集癖でもあるのかもしれない。
ごみばかりでもないのが困ったところだろうか。
「とりあえず、銃は僕たちで持つよ。
それにあの数だからな……やっぱり、燃やしちゃった方が早いかな」
「それだけ聞くと、なんか放火魔みたいだな」
「なら、聖水じゃなくて、油でも持っていこうか。なんてね」
油を撒いて、炎で一掃するということだろうか。
発想がどんどん放火魔のそれに近くなっている。
軽く笑っているが、冗談に聞こえないのが本当に怖い。
「京也も何か対策したほうがいいんじゃない?」
「前回のアレを見て、同じことをしてくるとは思えないけどな」
彼女は京也を無力化させるために、入社式の光景を幻覚で再現した。
あの能力は竜の力を目覚めさせるだけで、効果があったとは考えにくい。
結局、自力では敵わないと判断して逃走していた。
前回と同じことをするとは思えない。
ただ、何も対策をしないよりかはマシか。
「幻覚とかだったら、このへんかな。
あとは、これもいいかな。投げつけるだけだし」
京也に宝石と液体入りの瓶を手渡した。
「ガソリンじゃないよな?」
「まさか、そんなわけないじゃない。
中身は聖水だよ。これも吸血鬼とか、そういう連中によく効くんだ」
名前だけは聞いたことがある。
そう言われてみれば、ゲームや漫画でもよく見かけた気がする。
ガラス瓶を相手に向かって投げるだけなら、素人でもできる。
「それじゃ、行こうかの」
二人は銀の銃弾を装填し、ホルスターにセットした。
これで吸血鬼はいつでも倒せる。竜と向き合う覚悟もできた。大丈夫だ。
まだら髪のヴィヴィアンは、あの時と同じ公園にいた。
生気のない男たちがわらわらと彼女を中心に群がっている。
律儀なのか、あほなのか。よく分からない連中だ。
「アンタたち、こんなところで何やってるんだ?」
これでもかと飾られたドレスと羽根つき帽子は相変わらずのようだ。
隠れるつもりはこれっぽっちもないらしい。
京也が声をかけると、彼女はゆっくりと振り向いた。
「あら、誰かと思えば。ひさしぶりじゃない。
体型は縦にも横にも伸びていないみたいね~」
「アンタは俺の親戚か何かか?」
「いいじゃない。半端者同士、仲良くしましょうよ~」
そういって、部下たちが襲い掛かってきた。
仲良くする気がまるで感じられない。
やはり、ひとりひとりの戦闘能力はほとんどない。
それぞれ武装はしていても、すぐに殴られて終わる。
ただ、彼らは殴り倒されても、機械的に起き上がる人形だ。
数で押されているのは前回と変わらない。
「今回はそうはいかないよ!」
男の体から火の手が上がると、次々に発火していく。
耳を引き裂くな叫び声を上げながら、男たちは焼かれていく。
焼かれ死ぬのを見て、彼女の表情も渋くなっていく。
「あらあら、思っていた以上に強いのね~」
京也は答える代わりに、彼女に向かって瓶を投げる。
男が彼女の前に出て、盾となって受け止めた。
やはり、そう簡単にはいかないようだ。
「そんなに地獄が見たいなら、見せてあげるわよ?」
その声が聞こえた瞬間、彼女は目の前にいた。
口角を吊り上げて笑った瞬間、彼の意識は闇に落ちた。
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