土井と偶然と

第18話


「どうする……いや……しかし……」


「なぁ……」


「でもなぁ……」


「おいって!」


「いま忙しいんだよ……」


 土井と繁村は近所の電気屋に買い物に来ていた。

 土井は何を買うかで悩む繁村にいい加減何を買うかを決めてほしかった。


「あのさぁ、そろそろ決めてくれない?」


「もう少しまってくれ! あと一時間!」


「長いよ」


「ウーンやはり限定版の方が……」


「どっちも一緒でしょ? ギャルゲーなんて」


「貴様ぁ! 今なんて言った!! ギャルゲーにはすべて心が宿っているんだぞ!!」


「宿るかよ……」


 土井は突然繁村に呼び出され、買い物に付き合わされていた。

 なんで俺がこんな事を……。

 土井はそんな事を考えながら、繁村を放って自分の買い物をし始めた。


「そういえば、モバイルバッテリーとか売ってないかな?」


 最近スマホの電池の持ちが悪くなり、モバイルバッテリーの購入を検討していた土井は、スマホコーナーの脇にある、スマホアクセサリー類のコーナーに来た。


「えっと……うわ、やっぱり結構するなぁ……」


 高校生には3~4千円でも大金だ。

 土井はモバイルバッテリーの値段を見て、眉をひそめた。


「はぁ……これはお年玉に期待するしかないか?」


 土井はそんな事を考えながら、スマホのアクセサリーを色々と覗き始めた。

 

「自撮り棒なんて買うやつ居るのか?」


 暇つぶしに色々と見ていると、土井の視界の端にちらりと人影が映り込んだ。

 土井は何となくその女性の方を見てみる。


「ん? ……っ!!」


 土井は驚いた。

 そこに居たのは今年の夏、土井が出会った少女にそっくりだったからだ。

 

「……まさか……そんなわけ……」


 土井は思わず彼女の顔を凝視してしまった。

 すると、土井の視線に気が付いたのか女の子は土井の方を見た。


「あの……私に何か?」


「あ……いや、その……」


 土井は彼女にそう言われ少し焦ってしまった。


「な、なんでもないんです、すみません……」


「そ、そうですか」


 不思議そうな顔をしながら、彼女はその場を後にしていった。


「似てたなぁ……」


 分かっているつもりではいた。

 夏に出会ったあの子は人間ではないという事。

 もうこの世に居ないという事。

 それでも土井は彼女に少しでも会えたようで、うれしかった。


「はぁ……俺もなんか……女々しいなぁ……」


 そんな事を考えながら、土井は繁村のところに戻りはじめた。

 

「そういえば、あの屋敷のお嬢様の名前も瑞樹だったなぁ……漢字は違ったけど……」


 そんな偶然もあるんだから、そっくりな顔の人間だっているのだろう。

 土井はそんな事を考えながら、繁村の元に向かう。


「土井! この『隣の先生はビッチ』と『同じクラス変態さん』どっちが良いと思う!?」


「それって、本当に全年齢版?」


 目をキラキラさせながら尋ねてくる繁村に繁村は呆れていた。


「はぁ……なんて能天気な……」


「おい! 今俺の事を馬鹿にしたな! 高2にもなって彼女の一人も出来づエロゲーばっかりやってるって!!」


「やっぱりエロゲーかよ、買えねぇだろ……」


「つっこむところそこ!? 他は!?」


「いや、別に当たってたし」


「なんか俺悲しくなってきたよ……」


「良いから、さっさと買い物済ませていこうぜ」


「うぅ……俺にも彼女さえ居ればなぁ……」


「居ないもんは居ないんだよ」


「そうだよなぁ……じゃあこれ二本買って帰るか……」


「結局二本買うのかよ……」


 繁村の買い物を済ませ、土井たちは電気屋を後にした。

 

「いやぁ~良い買い物をしたなぁ~」


「よくそんな金あったな」


「バイトしたからな、朝の新聞配達」


「エロゲーの為ならなんでもするんだな」


「おう! 今の俺の生きがいはそれだけだからな!」


「それは良い人生だな、なんか飯でも食って帰るか?」


「そうだな! 家に帰っても両親が寝た深夜にしかこのゲームはプレイできないからな!」


「なら、どこ行く? ファミレスか?」


「そうだな、付き合ってくれたお礼に奢ってやるよ」


「マジか、良いのか?」


「あぁ、ドリンクバーくらいどうって事ないぜ!」


「ドリンクバーだけかよ……」


 そんな話をしながら土井と繁村はファミレスに向かう。

 すると、そこで座った席で土井は思わず目を疑った。

 

「な!?」


「ん? あ……」


 座った席の隣に居たのは、先ほど電気屋で出会った。

 あの幽霊の女の子そっくりの子だったからだ。

 まさか、こんな偶然があるなんて……。

 土井がそんな事を思っていると、女の子は土井の方から顔をそらした。


(見るなってことか……まぁ、そうだよな……)


 土井はそんな事を思いながら、なるべく隣を見ないようにしてメニューを見始めた。


「ふぅー食った食った!」


「これからどうする? まだ12時を少し回ったとこだけど」


「あぁ家に帰っても暇だしなぁ……そうだ! 今からカップルたちを棒で叩きに行こうぜ」


「なんだそのいかれた儀式は……絶対やんない」


「じゃああれはこれはどうだ? カップルの顔面に向かってパイを投げる遊び!」


「それ、もう遊びじゃなくて罪に問われる案件だと思うけど……」


 繁村のアホな提案にため息を吐く土井。

 結局二人はゲームセンターに行くことにした。

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