第19話
ゲームセンターに来た土井と繁村。
繁村は音ゲーに熱中し、土井は格ゲーコーナーで遊んでいた。
「ありゃ? うーん、やっぱりオンラインだとみんな強いなぁ……」
手元に積まれた百円玉の山から一枚をゲーム筐体に入れ、土井は再びゲームを操作し始める。
「ん? 勝負を挑まれています? 店内対戦か……」
店内対戦だと、相手は店内で同じゲームをプレイしている誰かになる。
この店は同じ筐体が四台二列向かい合って並んでいるため、合計すると筐体は八台ある。
現在プレイしているのは、土井と土井の向井に座っている人だけだ。
恐らく目の前に見知らぬ誰かが土井に勝負を挑んできたのだろう。
筐体に隠れてどんな奴なのかは確認できなかったが、土井は息抜きにと思い、その挑戦を受けた。
「さて……いつも通りで行くか~」
土井はいつも使っているキャラクターを選択し、相手のキャラの決定を待つ。
「んお、決まったか……って、ジェフコフかよ……」
相手が選んだのは、大柄な黒人男性キャラのジェフコフ、パワーが高く、一撃一撃が重たいキャラだ。
しかし、オンラインでもこのキャラはあまり使用されない。
その理由は、このキャラクターの動きの遅さだ。
いくらパワーがあると言っても、このキャラクターはスピードがものすごく遅い。
そのため、隙が生まれやすく、あまり使用している人は居ない。
「なんか楽勝な気がしてきたな」
土井は相手のキャラを見て笑いながら、バトルが始まるのを待った。
このジェフコフと土井が選んだキャラクター、レイモンドはかなり相性がいい。
パワータイプのジェフコフに対して、レイモンドはトリッキーな戦闘を得意としている。
相手のスキを狙って攻撃をするレイモンドにとって、ジェフコフは相性抜群だ。
「さて、それじゃあさっさとやっちまうか……」
バトルが始まり、土井はコントローラを動かして相手のジェフコフと戦い始める。
「おし! おら!」
出だしは土井が優勢だった。
相手のスキをついて攻撃を仕掛け、どんどんスタミナを減らしていく。
「よし!」
あと数発攻撃を当てれば勝てるくらいまで来て、土井は違和感に気が付いた。
「あれ? なんで! 技が!」
先ほどまではあんなに当たっていた土井のレイモンドの攻撃が開いてのジェフコフに当たらなくなってきていた。
それどころか、どんどん土井のキャラクターのレイモンドのスタミナが減って行った。
「くそっ! なんで!!」
しかも、スキの生まれやすいキャラクターのはずなのに、全くスキがなくなっていた。
後半にはどんどん土井のレイモンドが押されて行く、そして……。
『K・O!!』
「なっ……」
土井のレイモンドは画面上で倒れたまま動かなくなり、そのまま画面には『LOSE』の文字が表示される。
「まさか……いや、でもまだ一本取られただけだ!」
そう思っていた土井の気持ちとは裏腹に、二本目も結果は変わらなかった。
「嘘だろ!!」
土井は結構このゲームをゲームセンターでやり込んでいた。
しかも、家庭用ゲーム機の移植版も購入し、このゲームを家でもやり込んでいた。
いままで土井はレイモンドでジェフコフに負けたことは無かった。
それはオンラインでの対戦でもそうだった。
なのに、こんな店舗の対戦で土井はレイモンドでジェフコフに負けてしまった。
一体どんな人が?
土井はそう思い、思わず立ち上がって正面の筐体に座っている人物を見た。
「う、うそ……だろ……」
「あ……」
土井はその人物を見て、絶句した。
その人物は先ほど電気屋で会い、その後ファミレスでも会った、あの子だったからだ。
土井が立ち上がった事により、その子も土井を見ていた。
こんな偶然そうそうあるのだろうか?
土井はそんな事を考えながら、彼女に背を向け筐体を離れようとする。
「待ってよ!」
土井が筐体を離れようとすると、その子は土井に話かけてきた。
「えっと……何?」
「なんか、私たちよく会うね、もしかして君……私のストーカー?」
「なんでそうなるんだよ、そんなわけないだろ」
土井はそう良い、彼女の方に向き直った。
そこで土井は彼女の顔を初めてちゃんと見た。
見れば見るほどそっくりだった。
土井が今年の夏に出会った、あの幽霊の女の子に……。
「本当~? さっきファミレスにもいたでしょ?」
「いたけど偶然だ、目障りならもう俺は消えるよ」
「別にそうは言わないけど……ちょっと気になったのよ」
「何が?」
「あんた、電気屋で私の顔を見たとき……なんか泣きそうな顔してたから……」
「………」
その理由は簡単だった。
もしかしたら、またあの子に……瑞希に会えたのかもしれないと考えるだけで、土井は泣きそうになってしまった。
「別に……じゃあ、俺はもう……」
「あ、待ちなさいよ!」
「今度は何?」
「暇なら練習付き合ってよ、私ら以外、このゲームやってる人居ないし」
「はぁ? オンライン対戦でもしておけばいいだろ?」
「それだと緊張感が無いでしょ? 良いから、これも何かの縁だと思って付きあいなさいよ」
「なんでそうなるんだ」
「どうせ暇でしょ? 連れのお友達はあっちでフィーバーしてるし」
そう言って彼女が指さした先には、いつにも増して真剣に音ゲーに向き合う繁村の姿があった。
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