第3話
*
「じゃあ、俺はもうこれで」
「うん、まぁ……色々あるだろうけど頑張って」
「あぁ、ありがとう」
「そういえば、紗弥は何してるの?」
「あぁ、今日は多分家に居るかな? それかチャコと遊んでる」
「そう……大事にしてあげなさいよ、あの子一途だから……」
「……知ってるよ」
俺は二人にそう言うと、お金を置いて喫茶店を後にした。
「……高志も大変だね」
「あれだけの事をやったんだから、当たり前よ」
「ははは、御門さんは厳しいね」
「……ねぇ、聞きたかったんだけどさ」
「え? 何?」
「泉君は私の事をいつまで苗字で呼ぶの?」
「え!? いや、だって……他の人から誤解されるし……」
「私の事を好きなんじゃないの? なら、名前で呼んでよ、昨日映画に行ったときもずっと苗字で呼ぶし……」
「ご、ごめん……」
「距離を縮めたなら、呼び方から変えてよね」
「じゃ、じゃぁ……由美華……さん?」
「なんでさんなんてつけるのよ、同級生でしょ?」
「いや、なんか恥ずかしくて……」
「もう、早く慣れてよね、陽大」
「え? あ……はい」
微笑みながら自分の名前を呼ぶ由美華に泉は思わず頬を赤らめる。
「さぁ! じゃあこの後暇だし、カラオケでも行きましょうか!」
「え!? ふ、二人で?」
「他に誰がいるのよ? さぁ! 行きましょう!」
「あ、ちょっとまって!!」
*
高志は泉と由美華と会った後、次に土井と繁村の居るファミレスに向かった。
「待たせたな」
「いや、全然」
「全く、俺たちは忙しいんだぞ!」
「繁村、お前さっきまで暇だって言ってただろ……」
「そ、そういうことは言わなくて良いんだよ!!」
「お前ら二人にも色々迷惑を掛けたからな……これ、お詫びだ」
「なんだよこれ?」
「お前ら好みのエロ本」
「「流石は友だ」」
そう言って二人は高志から本を受け取り、大事そうにバックにしまっていた。
高志は男は分かりやすいなと思いながら、水を飲む。
「まったく、もう二度とあんなのごめんだぞ! まぁ、あのお嬢様は可愛かったが……」
「あぁ、瑞樹のことか?」
「なんでお前だけがモテんだよ……」
「別にモテねーよ……まぁ、でも……今回は瑞樹にも悪い事をした……」
「くそっ……俺もそんな事を言ってみたい……」
「いつか繁村にも彼女が出来るさ」
「土井……俺達モテな同盟も頑張ろうな」
「え? 一緒にしないでもらえる?」
「んだとぉ!!」
二人の言い争いをはじめ、高志はそんな二人を見ながら、スマホを取り出す。
「すまん、もう行かないと……」
「ん? なんだよ、宮岡からの呼び出しか?」
「まぁ、そんなところ……じゃあ、二人ともまたな」
「おう」
「頑張れー高志ー」
「ありがとう」
高志はそう言って、席を立ちファミレスを後にした。
「さて、急いで帰らないとな……」
高志はそんな事を考えながら、再びスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。
メッセージを送るのはもちろん紗弥だ。
【今から帰るね】
高志はそう打つと、スマホをポケットに入れ、自宅への道を歩き始めた。
高志は帰る間も紗弥の事を考えていた。
「紗弥と出会って、もう半年が過ぎたのか……」
告白された日の事を高志は昨日の事のように覚えていた。
クラスで一番の美人と噂だった紗弥が、まさか自分に告白してくるなんて夢にも思わなかった。
「もう、紗弥を泣かせたくはないな……」
紗弥を振った時、高志は心臓を握りつぶされるような感覚だった。
もうこんな気持ちはごめんだと、高志はそう思った。
でも、自分よりもつらかったのは紗弥なのだろうと思うと、高志は紗弥への罪悪感で押しつぶされそうだった。
「はぁ……早く帰ろう」
高志は何となくそう思い、足早に家に向かって歩いていく。
ファミレスから十数分後、高志は自宅に到着した。
「ただいまぁ~」
自宅の鍵を開け、高志は玄関のドアを開ける。
「にゃ~」
一番に高志を出迎えたのは高志の家の飼い猫のチャコだった。
長い尻尾をピーンと立てて、高志の足に顔をこすりつけている。
「ただいま、チャコ」
「んにゅ……」
チャコの頭を撫で、高志は二階にある自分の部屋に向かうために階段を上り始める。
チャコは高志の後について階段を上り始めた。
「ただいま」
「……おかえり」
高志が自分の部屋のドアを開けると、ベッドで枕を抱きかかえて座っていた紗弥がいた。
「………」
「おっ……どうした?」
「……別になんでもない、こうして無いと高志が逃げるかと思っただけ……」
紗弥はそんな事を言いながら、高志の背中にしがみつく。
クリスマスの翌日から紗弥は少しおかしかった。
高志への甘えがいつも以上に激しくなり、そしてかなり焼きもちを焼くことが多くなった。
「逃げないよ……ほら、座るから一旦離して」
「ん……」
紗弥はしぶしぶ背中から離れ、高志の腕にしがみついた。
頬を膨らまし、不機嫌そうな顔で紗弥は高志の腕から離れず、ずっとしがみついていた。
そんな紗弥に高志は何も言わずにいた。
「みんなに会ってきたよ」
「そう……何か言ってた?」
「紗弥と仲直り出来て良かったなって……それと大事にしろって」
「そうだよ……もうどこにも行かないでよ……」
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