第3話



「じゃあ、俺はもうこれで」


「うん、まぁ……色々あるだろうけど頑張って」


「あぁ、ありがとう」


「そういえば、紗弥は何してるの?」


「あぁ、今日は多分家に居るかな? それかチャコと遊んでる」


「そう……大事にしてあげなさいよ、あの子一途だから……」


「……知ってるよ」


 俺は二人にそう言うと、お金を置いて喫茶店を後にした。


「……高志も大変だね」


「あれだけの事をやったんだから、当たり前よ」


「ははは、御門さんは厳しいね」


「……ねぇ、聞きたかったんだけどさ」


「え? 何?」


「泉君は私の事をいつまで苗字で呼ぶの?」


「え!? いや、だって……他の人から誤解されるし……」


「私の事を好きなんじゃないの? なら、名前で呼んでよ、昨日映画に行ったときもずっと苗字で呼ぶし……」


「ご、ごめん……」


「距離を縮めたなら、呼び方から変えてよね」


「じゃ、じゃぁ……由美華……さん?」


「なんでさんなんてつけるのよ、同級生でしょ?」


「いや、なんか恥ずかしくて……」


「もう、早く慣れてよね、陽大」


「え? あ……はい」


 微笑みながら自分の名前を呼ぶ由美華に泉は思わず頬を赤らめる。

 

「さぁ! じゃあこの後暇だし、カラオケでも行きましょうか!」


「え!? ふ、二人で?」


「他に誰がいるのよ? さぁ! 行きましょう!」


「あ、ちょっとまって!!」





 高志は泉と由美華と会った後、次に土井と繁村の居るファミレスに向かった。

 

「待たせたな」


「いや、全然」


「全く、俺たちは忙しいんだぞ!」


「繁村、お前さっきまで暇だって言ってただろ……」


「そ、そういうことは言わなくて良いんだよ!!」


「お前ら二人にも色々迷惑を掛けたからな……これ、お詫びだ」


「なんだよこれ?」


「お前ら好みのエロ本」


「「流石は友だ」」


 そう言って二人は高志から本を受け取り、大事そうにバックにしまっていた。

 高志は男は分かりやすいなと思いながら、水を飲む。


「まったく、もう二度とあんなのごめんだぞ! まぁ、あのお嬢様は可愛かったが……」


「あぁ、瑞樹のことか?」


「なんでお前だけがモテんだよ……」


「別にモテねーよ……まぁ、でも……今回は瑞樹にも悪い事をした……」


「くそっ……俺もそんな事を言ってみたい……」


「いつか繁村にも彼女が出来るさ」


「土井……俺達モテな同盟も頑張ろうな」


「え? 一緒にしないでもらえる?」


「んだとぉ!!」


 二人の言い争いをはじめ、高志はそんな二人を見ながら、スマホを取り出す。


「すまん、もう行かないと……」


「ん? なんだよ、宮岡からの呼び出しか?」


「まぁ、そんなところ……じゃあ、二人ともまたな」


「おう」


「頑張れー高志ー」


「ありがとう」


 高志はそう言って、席を立ちファミレスを後にした。

 

「さて、急いで帰らないとな……」


 高志はそんな事を考えながら、再びスマホを取り出し、メッセージアプリを開く。

 メッセージを送るのはもちろん紗弥だ。


【今から帰るね】


 高志はそう打つと、スマホをポケットに入れ、自宅への道を歩き始めた。

 高志は帰る間も紗弥の事を考えていた。


「紗弥と出会って、もう半年が過ぎたのか……」


 告白された日の事を高志は昨日の事のように覚えていた。

 クラスで一番の美人と噂だった紗弥が、まさか自分に告白してくるなんて夢にも思わなかった。


「もう、紗弥を泣かせたくはないな……」


 紗弥を振った時、高志は心臓を握りつぶされるような感覚だった。

 もうこんな気持ちはごめんだと、高志はそう思った。

 でも、自分よりもつらかったのは紗弥なのだろうと思うと、高志は紗弥への罪悪感で押しつぶされそうだった。


「はぁ……早く帰ろう」


 高志は何となくそう思い、足早に家に向かって歩いていく。

 ファミレスから十数分後、高志は自宅に到着した。

 

「ただいまぁ~」


 自宅の鍵を開け、高志は玄関のドアを開ける。

 

「にゃ~」


 一番に高志を出迎えたのは高志の家の飼い猫のチャコだった。

 長い尻尾をピーンと立てて、高志の足に顔をこすりつけている。


「ただいま、チャコ」


「んにゅ……」


 チャコの頭を撫で、高志は二階にある自分の部屋に向かうために階段を上り始める。

 チャコは高志の後について階段を上り始めた。


「ただいま」


「……おかえり」


 高志が自分の部屋のドアを開けると、ベッドで枕を抱きかかえて座っていた紗弥がいた。


「………」


「おっ……どうした?」


「……別になんでもない、こうして無いと高志が逃げるかと思っただけ……」


 紗弥はそんな事を言いながら、高志の背中にしがみつく。

 クリスマスの翌日から紗弥は少しおかしかった。

 高志への甘えがいつも以上に激しくなり、そしてかなり焼きもちを焼くことが多くなった。


「逃げないよ……ほら、座るから一旦離して」


「ん……」


 紗弥はしぶしぶ背中から離れ、高志の腕にしがみついた。

 頬を膨らまし、不機嫌そうな顔で紗弥は高志の腕から離れず、ずっとしがみついていた。

 そんな紗弥に高志は何も言わずにいた。


「みんなに会ってきたよ」


「そう……何か言ってた?」


「紗弥と仲直り出来て良かったなって……それと大事にしろって」


「そうだよ……もうどこにも行かないでよ……」

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