第4話

 紗弥はそう言いながら、高志の腕を強く抱きしめる。


「うん、行かないよ」


 高志はそう言いながら紗弥の頭を撫でる。

 紗弥は目をつむり、気持ちよさそうな表情を浮かべる。


「明日は……あの子のところに行くの?」


「あぁ……瑞樹ともちゃんと話してこないとな……」


 瑞樹の気持ちを考えると、明日会いに行くが高志はつらかった。

 あの子の気持ちを知っているからこそ、どんな顔で瑞樹に会えば良いかわからなかった。


「………本当会いに行ってほしくないんだよ……」


「大丈夫、もう俺は紗弥からは離れないから」


「本当?」


「あぁ、あの時は酷いこと言って本当にごめんな」


「高志……」


「紗弥……」


 ガチャリ


「……ん?」


 金属が当たるような音が聞こえ、高志は音がした方に目を向ける。


「紗弥さん……」


「何?」


「これは何?」


「手錠」


「What?」


 高志は自分の腕につけられた手錠を指さしながら、紗弥に尋ねる。

 紗弥は笑顔でそう答え、もう片方の手錠を自分の腕に付けた。


「高志は直ぐどこか行っちゃうから」


「いやいや、だからってなんで? 風呂とかトイレとかどうするの?」


「一緒」


「……いやいや!! 風呂とかトイレとか一緒って! 紗弥は良いの!?」


「良いよ、むしろその方が良い」


「なんでだよ!」


 高志は紗弥にツッコミを入れながら、自分の腕をもう一度見る。

 おもちゃの手錠ではない、しっかりとした頑丈な手錠だった。

 

「こんな手錠、一体どこで……」


「芹那ちゃんに貸してもらったの」


「あの子か……」


 芹那の持ち物なら本物だろうと、高志は手錠を力づくで外すことを諦めた。

 紗弥の左手とつながれた高志の右手。

 唯一の救いは手錠の鎖の部分が長くなっているので、そこまで行動が制限されないことだった。


「……紗弥……あの外してくれる?」


「ダメ」


「今日はもう出かけないから」


「ダメ」


「さ、紗弥も鬱陶しいだろ?」


「全然」


 何を言っても頑なに手錠を外そうとしない紗弥。

 高志はそんな紗弥を見てため息を吐く。


「……はぁ……これも全部俺の自業自得か……」


 高志はそう思いながら、この状況を受け入れた。


「わかったよ、気のすむまで手錠をつけててくれ」


「うん、じゃあ早速……えい」


「うぉ!」


 紗弥は高志をベッドに押し倒し、そのまま高志の上に覆いかぶさる。


「ど、どうした紗弥?」


「……しよ」


「え!? いやいや、ついこの間……」


「しよ」


「チャコが見てるし……」


「チャコちゃんあっち行っててね」


「んにゃ~」


「ちゃこぉぉぉぉ!!」


 紗弥はチャコを部屋から追い出し、しっかりとドアを閉めた。

 現在高志の家には高志と紗弥以外に人は居ない。

 紗弥は部屋の電気を消すと、再び高志の上に覆いかぶさるように四つん這いになる。


「脱いで」


「お、親父達もそろそろ帰って来るかも……」


「今日は遅くなるから、二人でごゆっくりって」


「親父……」


 色々と根回しをされていたことに気が付いた高志。

 そんな高志に紗弥は顔を近づける。


「……私とじゃ……いや?」


「い、いや……あの……ぜ、全然いやじゃないんだけど……」


「じゃあ良いじゃん……ん」


「ん、ん!?」


 紗弥の激しい口づけに高志は困惑した。

 




「……紗弥」


「何?」


「……あの……やっぱりまだ怒ってる?」


「なんで?」


 高志は隣で横になる紗弥に恐る恐るそう尋ねる。

 紗弥は高志の腕に抱きつきながら、髪を揺らして答えた。


「……怒ってはいない」


「そっか……」


「でも……」


「でも?」


「独占欲は強くなったと思う……」


「……なるほどな」


 高志は紗弥の言葉に思わず納得してしまった。

 確かに最近の紗弥は高志にいつも以上の執着を見せていた。

 だからこそ、高志はこの紗弥の言葉に納得してしまった。


「ん……そうでないと……また高志がどっかに言っちゃう気がして……」


「紗弥……本当にごめん……」


 自分やった事が、どれだけ紗弥に影響を与えていたのかを再確認した。


「ん……だからはい」


「……これは?」


「GPS」


「……えっと……これをどうしろと?」


「持ってて」


「なんで?」


「どこに居るかすぐに分かるように」


「……これももしかして……」


「うん、芹那ちゃんに借りた」


「……やっぱりか」


 少しだけ優一の気持ちがわかった高志だった。

 

「はぁ……そうだな……まずは紗弥からの信頼を取り戻さないとな」


 高志はそう言って、紗弥からGPSの発信機を受け取った。


「ん……高志……」


「どうした?」


「……大好き」


「……俺もだよ」


 そう言って高志は紗弥の頬にキスをした。




 みんなと会った翌日、高志が目を覚ますと隣では可愛らしい寝顔でスース―と寝息を立てる、紗弥がいた。


「ん……そういえば紗弥が泊ったんだっけ……」


 がちゃり


「……手錠もやっぱりあるのか」


 高志は自分の右手にはめられた手錠を見てため息を吐く。

 顔を洗いに行きたいが、もう片方の手錠が紗弥に繋がっているため、顔を洗いに行くことが出来ない。

 高志は仕方なく紗弥を起こそうと、紗弥の肩をたたいて起こす。


「紗弥、紗弥、悪いが起きてくれないか?」


「ん……やぁ……」


(やべっ……可愛い……)


「いや、違う違う!」


 紗弥の寝顔に思わず見とれてしまった高志。

 気を取り直して、紗弥の肩を叩き、紗弥を起こそうとする。

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