レヴィン革命記念日
耀
レヴィン革命記念日
レヴィンの夏は短い。それは北にあるレヴィン山から吹いてくる風が季節を冬の方へと持っていくからだと言われている。
そしてその短い夏の到来を告げるとされているのが今日、レヴィン革命記念日である。
この日はレヴィン中がお祭り状態になり王都では盛大な催しが何日にもわたって開かれる。さらに今回は革命100周年ということもあり人々の高揚感もとても高まっている。この革命の成功に深くかかわったレヴィン王家への支持率は今や9割を超え、今も王宮広場の前には国王夫妻の登場を今か今かと待ちわびる人々であふれかえっている。
あの時流れた血や無念さなどもう忘れ去ったかのように。だから俺は今日、この日のために行動してきた。いよいよ実行の日である。あの日の痛みをもう一度思い出させることによってこの国は真の平和を手に入れることができるのだ。
国王夫妻が王宮のベランダから姿を見せるのが正午。パレードの開始が14時半。狙うのは動きがあまりない正午の方である。革命の血が流れたこの広場がお祭り騒ぎになるのも今日が最後である。来年からは祈りの日が新たに始まるのである。
俺はコートに忍ばせた拳銃がちゃんとあるのを確かめながら列に並んでその時を待つ。
後30分で新たな歴史が始まるのである。それにしても人が多いので中々列が進まない。
一応、飛距離が出るように改造はしているがもっと近づきたいところである。
襲撃のパターンを考えているうちにも列はのろのろと進んでいき、正午まで残り15分となった。拳銃を抜いて予行演習をしたいところであるが、そんなことをしたら警備の人間にすぐに見つかって本番どころではなくなるので我慢する。時間とともに緊張の度合いも高くなってくる。今日の計画は俺一人で立て、実行するので失敗すればこのばか騒ぎは来年も続いていくことになる。そうなったらアゼルも報われないだろう。それだけは阻止しないといけない。責任重大である。
そんなことを考えていると前の方から二人の少年が列をかき分けこちらの方に向かってきた。
おそらくトイレか何かだろう。こういう子供にこそ今日これから起こるであろう惨劇を胸に刻んで生きていってもらいたいものだが残念なことに、これからトイレに行っていてはその瞬間には立ち会うことができないだろう。
まあ、観客は大勢いるのである。俺は前向きに考えることにした。
その後も列は進んで行き、正午まで5分を切った。距離的には充分な近さになった。この距離程度からなら何回も練習したので外すことはないだろう。
その時先ほどの少年2人が後ろの方から前へと進んでくる声が聞こえた。並び直さないということは家族で来ているのかもしれない。間にあってよかった。
二人は列をかき分けながらどんどん進んでくる。
二人の足音が俺のすぐ後ろで止まった。
一人がもう一人に向かって話しかける。
「やっぱこの人だよ」
「そうか、分かった、まあ今回は二回確認したしな」
「僕だって日々進歩しているんです!」
そう言うと一人が俺の前、もう一人が俺の後ろにと囲むように立った。
まずいと思った時には、腕がねじあげられていて鋭い痛みが襲ってくる。
前に立っている少年が軽い調子で言う。
「おじさん、拳銃持って入っちゃダメでしょ」
「拳銃なんか持ってないよ」
「じゃあこれは」
そう言うと胸のポケットに入っている拳銃の銃口を俺の胸へと当ててきた。
俺は冷静になって言う。
「撃てよ」
そう、国王夫妻のインパクトには負けるが俺が死んでも、この日に影を落とすことぐらいはできるだろう。祈りの日にならないのは残念だが。
「いいの、撃っちゃって?」
俺の腕をねじあげている少年が尋ねてきた。
「ああ、いいよ」
「おじさん、もしかして自殺とかしたい感じ? 」
「いや、違うがこうなることも覚悟はしてきた」
目的のことは当然ながら言わない。
「そう、じゃあ殺さない」
「何で? 」
「だって死んでもいい人間のために働くなんてばかみたいじゃん」
「そうか、だがそっちの君も同じ意見かな? 」
俺は拳銃を持っている方に聞く。
「うん、でも僕はこの謎を解きたいかな? 」
「謎?」
そう俺が言うと同時に広場に歓声が響き渡った。王宮の鐘が正午を告げる。国王夫妻が出てきたのだ。俺の計画は失敗に終わった。これからもお祭りは続いていくのだろう。痛みを忘れて。
レヴィン革命記念日 耀 @you-kagami
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます