第一話 『薙原ハルトの受難』 その4


「うう。そうだな。金属探知機の精度を上げすぎて設定していたり、お前に遅れを取ったり、少し、私は冷静さを欠いているのかもしれん……結果として、お前を傷物にしてしまったしな」


「キズモノって、言い方、ちがくね……?」


「そうだな。ちょっと違ったかもな。だが、私は隊長なのだから、もっとしっかりするべきだ。場合によっては、君たち隊員の命を預かることになるのだから」


「後方支援じゃないってこと?」


「……分からん。民間人以上には危険なマネをすることになる」


「そうか……」


「……安心を与えてやれてないな、隊員である君に」


「しょうがないよ。誰にも、この状況で完全な安心を得ることなんて出来やしない。『黎明機兵団』の首領どもの残り8人、そいつら全員を斬らないと、終わらない」


「……斬る、か」


「どうかした?」


「いいや。頼もしく思えたぞ。斬る……『改造人間』を単独で倒せた者は、数少ない。お前は、その一人だ。お前は、斬ることで『改造人間』を倒した」


「……おかげで、片腕は作り物になったけど」


「そうか。まだ、痛むのか?」


「幻肢痛ってのは、来るよ。痛み止めはもらってるけど……あまり効果ない」


「動かせているか?」


「動きは十分だ。でも、力加減がおかしい」


「……拳銃を、握って壊していたな……」


「……ヒトの体を、何だと思っているんだろうな、自衛隊のマッドな科学者は」


「不便か」


「戦闘用の腕なんて、マンガやアニメじゃあるまいし……邪魔なことも多い。端末だって握りつぶしちまいそうだから、最近、ろくに触れてねえし……」


「……ん。だから、お前、ここに来てしまったのか」


「……え?」


「いや。今日は……というか、『今日も』なんだが、臨時休校日だぞ」


「初耳なんだけど」


「端末にメッセージは届いているはずだぞ?」


「……そうなのか」


「確認しないのか?」


「七瀬川の言葉の方が安心できる」


「そ、そうか。いい言葉だぞ、ハル!今、私は自尊心を満たされた!もっと、軽率に私を褒めると良いぞ!」


「……前向きすぎだ。ていうか、ハルって?」


「ダメか?」


「いや……」


 可愛い女子に愛称で呼ばれるのって、何か、いいんだな。スコットランド人の友人に心でメッセージを送りつつ、オレは首を縦に振った。


「いいよ。ハルでいい」


「そうか。良かった。お前のことを副隊長に任命してやろうと思っていたのでな、仲良くなれて良かった!」


「……副隊長?」


「いやか?お給料、ちょっとだけ上がるらしいぞ?」


「パスしたい」


「な、なんでだ!?私の右腕になるのが不満か!?」


「どうしてオレなんだ?」


「な、仲良いの、現状ではお前だけだしな……他、初対面だし」


「そんな理由?」


「あ、あとは……私は、基本的に容姿端麗で才色兼備な文武両道なのだが」


「自尊心を満たす言葉は必要ないんじゃないか?」


「ときどき、おっちょこちょいなところがある!先ほどのよーにな!」


「……ああ。なんか、分かるかも」


「そこで!……私のごくたまに稀にあるレアな残念シーンを知っているお前に、副隊長を任せたい。私の残念な癖を見てしまっても、知っていればフォローしてくれるだろ?」


「オレが七瀬川がドジさらす度に、フォローするの?」


「当然だ。断る権利など、お前にはないのだからな」


「どうして?くじ引きとかジャンケンで決めればいいじゃないか」


「生け贄を選ぶ方法じゃないか!?私の副隊長役は、そこまで人気がないのか!?」


「面倒なこと、みんなイヤがるんじゃないか?」


「むう。そーだとしてもだ!……お前は、断れんぞ」


 眼鏡の下にある七瀬川シャーロットの瞳が、オレを鋭く見つめてくる。


「どうして?」


「お前、私のおっぱいに、顔面をうずめてクンクンしていたからだぞ」


「う、うずめたけど、クンクンとかはしていないし……っ」


「だが、私をキズモノにしてしまったことは真実だからな。報いとして、私につくすべきなのだ。でなければ、訴訟モノだぞ」


「そ、訴訟!?」


「うむ。で。どうだ?もう一度だけ聞くが、副隊長、引き受けてくれるよな?」


「……わ、分かったよ。七瀬川の胸に顔をうずめたのは、事実だしな」


「そうだ。責任を取るがいい!」


「ああ」


「フフフ!『主従の契り』は成ったな!!」


「そんな大げさな―――」


 ―――ガラガラガラ!!保健室のドアが勢いよく開かれる。そして、オレは三十三番高校にまつわる人物と出会うことになった。



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