remember

あゆう

memory2 after

 ここはとても暗い所。


 歩いても歩いてもぶつかることはないの。

 もう自分がどれだけ歩いたのかもわからない。


 彼はちゃんとあの山を降りれたのかな?

 また四年後にって言っていたけどホントに行くのかな?

 危険な事はして欲しくはない。けどホントは、私の事をまた思い出して欲しい気持ちもある。

 けれど私にはもうそれを確認することも叶わない。

 ここでは疲れることもない。なのになんだか疲れた様な気がして足が止まってしまう。

 下を向いても何も見えない。

 自分の足は見えるのに。

 下を向くと、彼が褒めてくれた長い白銀の髪が垂れてくる……。


 え?垂れてくる?どうして?

 私の髪は彼がくれたリボンで結んでいたのに!

 どこかで落とした?そんな!探さなきゃ!


 後ろを振り向いて走り出す。ホントに後ろなのかもわからないけど、走らずにはいられなかった。


 どこ?どこに落としたの?アレだけが私と彼の思い出の物なのに──。


 ずっと下を見ながら走っても走ってもリボンは見つからない。

 なにかを感じてふっと顔をあげる。


 あれはなに?


 私の視線の先には橙に光る何かが見える。

 穴?渦?歪み?

 なんて言ったらいいのかわからないけど、きっとあそこに行けば何かがわかるかもしれない。

 私はまた走り出した。

 走って走ってその光に手を伸ばした。

 瞬間──


 そこは音楽と光と……たくさんの人が溢れる場所だった。空が黒いから時間は夜みたいね。


 え?なにここ?どこ?


「あれ?お姉さん初めて見る顔じゃん!ははぁん。もしかして光る渦を追いかけてこなかった?」


 だ、だれ?黒い髪に黒い目?あまりみたことないわ。それにペラペラで派手で変な服ね!


「え、はい。そうですけど……」


「やっぱりな!新入りじゃん!まぁ楽しんでよ。ここは毎日がお祭りだかさ!とりあえずはい、チーズ」


 カシャ


「ひっ!なんですかその板は!光りましたよ!チーズなんてどこにあるんですか!それに板の中に私の顔が!まさか呪い!?」


「あはははは!呪いって!食べるチーズじゃないし!これスマホだし。ジョーシキっしょ?あぁ!世界が違うならわかんないか。俺も死んでまで持ってこれるなんて思わなかったけどねぇ。まぁここじゃWi-Fi飛んでないけど!あはー!じゃ、まったねぇ~」


 すまほ?わいはい?なによそれ!知らないわよ!てかあなたも死んでるって?どういうことなの?


 改めて回りを見渡すと知らない物や人ばっかり。それに知らない文字なのに何故か読める……。

 あれは、たこやき?くれいぷ?

 なんだかとてもそそられるわね!


「すいません。そちらのお値段は?」


 あっ、聞いてから思い出した。私お金もってないじゃない!


「は?金?そんなもんいらねーよ!食いたいの持っていきな!ジャンジャン作るからよ!」


 お金がいらない!?配給とかなの?

 でも、それなら……


「では1つずついただけますか?」


「あいよ!どっちもまだ熱いから気をつけな!」


 今私の手のなかには【たこやき】と【くれいぷ】って物がある。


 まずはたこやきから──


 あふっ!はふっ!あつーい!けど美味しい!この中のコリコリしたのがとてもいいわ!なにかしら?


 こっそりさっきの店を覗きにいってみると……。

 ひいぃぃっ!海の悪魔じゃない!そんな物を食べる(はふっ!)なんて!(あふっ!)信じられないわ!(はふっはふっ)

 あれ?いつの間にか無くなってるわね?

 まぁ、美味しいものには罪はないわね!次はくれいぷよ!


 あ、あまぁぁぁぁい!

 なんて甘いの!こんなの貴族のお茶会じゃないと出ないんじゃないの!?

 あ、後二個ください。


「あっいたいた!そこの銀髪お姉さん!」


 え?あ、さっきのすまほ男だわ。


「はい、なんですか?」


「今から花火あるんだけどさ、スゲー良く見える場所あるから教えてあげるよ!ちょっときて!」


「え?あ、ちょっと」


 返事も聞かずに私の手の手を引っ張ってつれていく。たどり着いたのは少し離れた高台だった。


「じゃ、ここから見てな。じゃあね~」


 ホントに連れてきただけなのね。


 それにしても【はなび】ってなに?

 そう思っていると黒かった空が明るくなった。


「空に花が咲いてる……キレイ」




「そうだね」


 え?この声。そんな……


 振り返るとそこには最愛の彼がいた。


「なんで?どうして?」


「君に会いに来たんだ。入口でペラペラの服の男にきいたら知ってるって言うから、お願いして連れてきてもらったのさ」


 そこで気付いた。


「記憶がある……の?」


 ということはまさか!


「どうやらここは死語の世界みたいだね。ここに着いた瞬間に全てを思い出したよ」


「あぁ!そんな!こんなに早く!きっと山を降りるときに!」


「何を言ってるんだい?僕は80まで生きたよ。もちろん生涯独身さ」


 私が暗闇を歩いてる間にそんなに時間がたっていたの?


「あれから四年毎にあの花を取りに行ったんだ。そうしたら少しずつだけど記憶が戻ってきたんだ。花の光が消えてもね。そして死ぬ瞬間に死神に会って全てを聞いたよ。僕が記憶を失ってた理由もね。君のお願いだからだったんだね?僕が悲しまないようにそう願ってくれたんだ。そしてわかった。初めてあの花を取りに行った時、君はずっと僕のそばにいてくれたんだ。だからほら……」


 彼がポケットから私の青いリボンを取り出した。すっかり色は褪せてしまい、所々ほつれてボロボロになってはいるけど、確かに私が失くしたと思っていた、彼に貰ったリボンだった。


「初めて行った時に拾ったんだ。理由はわからないけど、大事にしなきゃいけないと思ってあれからずっと持っていたんだ。それは正解だったね。ほらおいで」


 言われるがままに彼の近くにいくと、彼がそのリボンで私の髪をむすんでくれた。


「うん、やっぱり君にはこの色が似合ってる。それに──やっと君に手が届いたね」


 あぁ!こんな、こんなことって……


 その時、また空に光の花が咲いた。


「ホントにキレイだ。どうやらここは毎日お祭りみたいだよ。みんなとても楽しそうだ。それに、これからはずっと一緒にいられるね」


「えぇ、そうね。でもアナタに会えた今日が、一番の最高のお祭りだわ」


 花火の光を受けて輝く白銀の髪にはボロボロになったリボンが揺れていた。

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