あの感動をもう一度
あのあと目を開くと、車の前にいて、丁度見知らぬ男性と一緒に両親が戻ってくるところだった。
あれから4時間は経過していたらしい。
褒められていたが、心ここに在らずだった。
日が傾き、真っ白な太陽が薄ら橙色になっていたのを覚えている。
……夢だったのだろうか。
幼かったのに、未だに鮮明に瞳の裏に焼きついる光景。
私はもう一度見たい。
今なら分かる。忘れられなかったのだ。
20年経った今、強く願っていた。
両親に不思議がられたが、私はあの場所を聞き出した。
ナビを見ながら思い出を必死に車で辿っていく。
20年も経つと朧気だが、何とか照合を重ね、似た道を探し当てた。
背の高い草たちは刈られ、田んぼになっていた。
しかし、父が止めた砂利の広場らしき場所を見つけた。
車を止めたが、目線と視界が違いすぎた。
本能のままに動いていたあの頃が恨めしい。
低くなった草を掻き分けて掻き分けて、道らしい道、子どもが入り込み易い道を探すも、見当たらない。
何か手がかりはないかと、宿を取った街まで向かうことにした。
カラフルな屋根たちが懐かしい。
入口の駐車場に車を停めると、街中の散策を始めた。
私は一軒、見覚えのないお店を見つけた。
今流行りの、手作りのバーバリウムやガラスドームのお店らしい。
ガラガラとガラス張りの木戸を開けて店内へ。
「いらっしゃいませ」
優しい面差しの女性が出迎えてくれた。
「こんにちは。あの、これってあなたが? 」
「ええ、私と……」
彼女が後ろを見やる。
背後に男性が見えた。
「息子の流生と作っているものですよ」
優しく微笑む。
「え? ルキ? 」
「母さんでき、た……あれ? 」
「……!! それ!! 」
完成したと振り向いた青年、手に持ったガラスドーム。
朧気ながら覚えている。
あの時の少年とおなじ名前、面差しを持つ青年。
羽と折り紙のようなキラキラした金星が舞う、歯車を土台とし、飛び立ちそうな鳥のオブジェで蓋をしたガラスドーム。
もう一度見たかったものがそこにあった。
もう一度会いたかった人がそこにいた。
「だ、大丈夫? 」
彼が戸惑っているのは何故だろう?
私は知らず知らず涙を流していた。
あの時は流せなかった涙を。
「あ、あの、どこかで……」
「はい、私もあなたに会ったことあると思います」
夢でも構わない。
小さな大冒険が、運命を運んでくれたのだ。
Fin
感動をもう一度 姫宮未調 @idumi34
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