迷子と少年

小さな私にはすべてが大きく、目新しく、新世界に来た気分だった。

楽園だとワクワクしながら、あちらこちらとテクテク進んでいく。

私は男の子のような冒険や探検などのファンタジーの物語が好きだ。

ヒロインより、主人公に憧れた。

高い草を掻き分け、自分が歩けそうな場所を見つけては入っていく。

行き止まりならば引き返し、更に道を探す。

そんなことを夢中で繰り返しているうちに、チラチラ気にしていた車のことも忘れてしまっていた。

気がつくと、一面草、草、草、草。

どこから来たかわからない。

左右も前後も分からなくなってしまった。

自分から条件を出したくせに、もう帰り道を失い、迷子になってしまったことに気がつくのに時間はいらなかった。


「あ、どうしよう……」


普通の子なら泣き出していただろう。

困ったことに5歳にしておませだった私は、ミスをした平社員のように青ざめてどう言い訳しようかとかどうカバーすべきか、それに近い思考をしていた。

頭ごなしに、理不尽に怒るような両親ではない。

早くひとり立ちしなくてはと無意識に考えていたのかもしれない。

手の掛からない子どもでいたいという、少しズレた考えをしていた。

あの頃の私は何か、見えざるものにでも追い立てられていたんだろうか。

子どもらしくやんちゃをしたかと思えば、やけに体裁を気にしたりする。

今で言う自分迷子だったのだろう。

道で迷子になり、年相応に行動するのが不器用な自分迷子にまでなって、忙しい子どもだった。

だが、私の足は止まることを知らなかった。

迷子になるくらいなら、ワガママを言ってついていけばよかったんじゃないかとも思えるくらいに心臓がバクバクしていた。

冒険魂が幾分か勝ち、私の歩みは止まってはくれない。

未知を無意識に求める。

さぁ、知らないものを探しに行こう。

空を見上げれば、まだ真っ白な太陽は頭上高くに鎮座していた。

何を慌てる必要がある。

好奇心がすべての不安に打ち勝った瞬間だった。

心のどこかで、子どもの移動距離なんてたかが知れているとでも間接的にでも思ったのだろうか。


「わっ! 」


掻き分け掻き分け、人が整地したような道に飛び出した。

その道は左右に広がっている。

目の前には、そそり立つ木々。

葉っぱの隙間から木漏れ日。

大好きな光景だった。


「───キミ、迷子? 」


左右どちらに行こうか、少し首を巡らせたところで声がした。

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