感動をもう一度
姫宮未調
自然に魅せられて
あの日、私は両親と隣の県まで遠出していた。
まるでジブリ映画のような、青々とした背の高い草が、砂利道の両脇に聳え並ぶ姿は圧巻だった。
子どもだったからなんでも大きく見えるのもあったけれど、車の車高の3倍はあったように思う。
その隙間から覗く太陽がキラキラしてきれいだった。
そう、あの日は8月の、真夏の真っ只中だった。
閉め切った車内の冷風を浴びながら、プラスチックの日除けブラインドを閉め、指で覗く背徳感。
すべてがキラキラと輝いて見えた。
真っ青な空と透ける雲、真白くキラキラ草から見え隠れする太陽。
天然の蓋のない宝石箱のよう。
胸いっぱいになっていると、遠くにカラフルな屋根が見えてくる。
きっと今晩泊まるお宿はあの中にあるんだと、胸ときめかせたときだった。
車の速度が急に落ちてゆっくりになった。
「お父さん、どうしたの? 」
街までまだ距離がある。
不思議になって聞いたのだ。
「ちょっと待ってな」
背の高い草が切れ、広場が右側に広がっている。
そこに慎重に父が車を入れていく。
あの頃の砂利道はまだ粗いので、タイヤに気を使ったのだろう。
寄せる頃にはガタンと止まった。
「え? ヨシくん、エンスト? 」
「そうみたいだ。困ったな、あと少しなのに」
暑さで車がエンストしてしまったらしく、父が車を降り、調べていたのを覚えている。
「
お父さんがシートに座る私の目線に合わせてしゃがみ、目を見ながら申し訳なさそうな顔をしていた。
まだ小さかった私に配慮してくれたのと、子どもの足では時間が掛かるし、私を抱えては移動に負担になる。
あの時は景色を堪能したい気持ちが勝っていて、ついて行きたいとワガママを言わずに済んだことをよかったと思う。
「うん! お父さん、お母さん気をつけてね! 」
「いい子だ」
「まだ明るいけど急いで行ってくるね」
2人に交互に撫でられた。
「遠くに行かないから、車が見えるとこまででいいからタンケンしていい? 」
「いいよ、迷子にならないようにね」
「やったぁ! 」
車から降りると、ムワッと熱気が押し寄せた。
でも、私はあの匂いが好きだったんだ。
手を振って2人を見送ると、視界いっぱいの自然に目を輝かせた。
さぁ、冒険のはじまりだ!
胸躍らせ、草むらに一歩踏み出した───。
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