横浜スロー・ラバーズ２

第22話 その気にさせないで

マンションに帰ると、玲子は早速昼ごはんの支度に取り掛かる。

「レイレイ、アイス食べないの？」

「ええ、ご飯の下ごしらえをしてから食べます。」

玲子は料理が好きなのか、楽しそうに調理をしている。

慎一は興味津々で玲子の作っている料理を覗き込む。

手羽元を煮込んでラーメンのベースとなるスープ、醤油に香味野菜、豚肉の小さいブロックを合わせ煮込み、チャーシューと醤油ダレを作っているようだった。

「さて、仕込みは終わったので、少し煮込むのに時間がかかります。

　慎一さん、お腹すいたでしょう。

　ごめんなさい。

　アイスを食べて、少し待っていてください。」

「ああ、わかった。」

いつもは、即席の袋麺を茹で、生卵をトッピングし、何も感動することなく食べ始めるのだが、本格的な良い香りがして来て、慎一の食欲を唆る。

その慎一の目の前で、玲子は買って来たアイスのジャイアントコーンを食べる。

「あは、これも美味しい！

　これ、コーンの部分を持って食べるのですよね。」

「ああ、こうやって。」

慎一は、初めて食べる幼稚園児を相手にするように、食べて見せる。

「でもね。

　中には、コーンの尻尾までアイスが詰まっていないのもあるから気をつけないと、最後はコーンだけ食べることになるからね。

　だから、上のアイスを食べながら、コーンの中に押し込むように食べるのがコツ。」

「え〜、難しいのですね。」

そう言いながら、玲子は楽しそうだった。

（この子は、何でもポジティブにとらえるんだな）

嬉しそうに食べている玲子の顔を見て、そう思う。

アイスを食べて満足すると、玲子はキッチンでお昼ご飯の続きを作り始める。

「すごいなぁ」

料理を作る玲子の手際良さに、見ている慎一は感嘆の言葉しか出てこない。

「茹でたお湯を捨てるんだ。

　スープも使わないのか。」

「はい。

　茹でたお湯は流します。

　ラーメンのスープは、別に作りましたので、袋に入った粉末スープは使いません。

　いつもと味が違うと思いますが、勘弁してくださいね。」

「いや、それは良いのだけど。」

慎一は内心、不安だった。

本格的なラーメンの麺だけがインスタント麺でせっかくの美味しさをぶち壊すのではないか、インスタント麺が自分に例えると、それ以外は玲子の住む世界。

玲子の世界に自分が入ると壊してしまうのではないか、どんなに頑張っても釣り合うことなどないのではと。

「さあ、出来ました。

　慎一さん、お待たせしました。

　慎一さん？」

黙り込んでいる慎一の香りを玲子は心配そうに覗き込む。

「慎一さん？」

「え？

　ああ、ごめん。

　ちょっと考えごとしてしまって。

　仕事のことだけどね。」

「あまり、こんをつめると身体に良くないですよ。

　休日くらいは、お仕事のことを忘れてリラックスしないと、ダメですよ。」

「そうだね。

　レイレイの言う通りだ。」

「また、そう呼ぶ。

　さあ、冷めないうちに食べましょう。」

「そうしよう。」

慎一は玲子に心配を掛けないように、笑顔で答え、テーブルに用意されたラーメンをすする。

スープは、まるで魔法で使ったように野菜の甘みと鶏手羽元のだしがマッチして、それに醤油ダレが加わり、ラーメン店で出してもお金が取れるほど美味しいものだった。

それにチャーシューが細長く切られ、これでもかと言わんばかりのキャベツ、人参、もやし、ニラ等が入ったカット野菜を混ぜて炒め味付けした具がのっていて野菜不足を補おうと言う玲子の気持ちもまじり、食べやすい味付けになっていた。

（う、美味い、美味すぎる。

　大して高価な材料を使っている訳ではないのに、何でこんなに美味いんだ。

　でも、きっと麺はダメだろうな）

期待の目で慎一を見つめている玲子の視線に気が付かず、慎一は、恐る恐る麺を箸でつまみ、口に入る。

「え？

　ええー？！

　これがあのインスタント麺なのか！」

麺は確かに生麺にはおとるが、味が染み込み、腰もあり、信じられないくらいにスープや具にマッチしていた。

「美味い！

　美味すぎる！！」

独り言のように＂美味い＂、＂美味い"を連呼して慎一は箸を止めずに食べ続ける。

「あらあら。」

玲子は慎一の夢中な食べっぷりを見て、嬉しそうに微笑み、慎一が食べるのがひと段落した頃に声を掛ける。

「どうですか？

　美味しい？」

「ああ、すごく美味い。

　まさか、インスタントラーメンがここまで美味くなるとは思わなかった。

　不思議だよなぁ。」

「え？」

「いや、インスタントラーメンは書かれている通りに作るのが一番美味い食べ方だと思っていた。

　特にインスタント麺を本格的なスープに入れても味なんて美味い訳ないと思っていたのに。」

くすっと玲子は笑う。

「不思議じゃないですよ。

　そのものの特性を見極め、出来上がったものを想像すれば良いのです。

　あとは、チャレンジあるのみです。

　失敗しても笑い飛ばして、次に活かせば良いのですよ。

　チャレンジ、チャレンジ。」

「レイレイ…」

慎一は、目の前で笑う玲子を見ているうちに、何か目が覚めてきた気がした。

「また、その呼び方をする。」

「君は不思議な子だよ。

　僕をその気にさせる。」

「え？」

玲子は何を思ったのか、顔を赤らめ、上目使いで慎一を見つめる。

「え？」

慎一は、玲子の顔を見て、玲子が自分の言ったこと、＂その気にさせる＂と言う言葉が玲子を求めていると誤解されたことに気がついた。

「あ、いや、その。

　さっき言ったこと、レイレイが言ったこと、ちゃんと覚えているよ。」

「いいですよ。」

「え？」

「いいですよ。

　その代わり、痛かったらやめてくださいね。」

「え？

　いいの？」

慎一は思わぬ展開に、胸の鼓動が高まる。

「え？

　違うの？」

玲子は自分が勘違いをしたことに、薄々気がついたが、慎一が既にその気になっているのを見て、苦笑いするしかなかった。

「掃除や買い物に行って汗をかいているので、シャワーを浴びてから…ね。

　食べた食器を下げるので、慎一さん、先にシャワーを浴びてくださいね。」

「うん、わかった。」

慎一は満遍の笑みを浮かべ、席を立つ。

「食べたもの運ぶのは、手伝うよ。」

そう言って、食べ終えて食器をキッチンに運ぶ。

「もう（現金なんだから）」

玲子は笑うしかなかったが、自分を求めている慎一をまんざらではない顔で眺めていた。

「さあ、慎一さんはシャワーを浴びてくださいね。」

片付けも終盤にかかってきた頃、玲子は慎一を促す。

「わかった。」

慎一は頷くとバスルームに入ってシャワーを浴び始める。

（でも、大丈夫なのかな。

　昨日の今日で、痛まないかな。

　まぁ、痛むようならやめていいんだし。

　これから、先は長いのだし。

　…

　先は長い？

　本当か？

　下心丸出しで直ぐ契約解消されたりして。

　もう、レイレイが居ない土日なんて考えられないし、毎日でもそばに居て欲しい。

　頑張れば願いは叶うかな。

　ずっと一緒に居てくれるという願いは。

　でも、もし、シャワーから出て、部屋に玲子がいなかったらどうする？

　どうしよう…。）

慎一は、心配になり、急いでシャワーを浴びて出てくる。

「きゃっ！」

腰の周りにバスタオルを巻いただけの慎一を見て、玲子は一瞬驚いて声を漏らしたが、直ぐにこれからしようとしていることを思い出し、当たり前だと思い直す。

「今度は私が浴びて来ますね。

　バスタオルがあれば、貸してくださいね。」

慎一は慌てて旅行やスポーツで使うバスタオルの中から一番綺麗なものを渡す。

「ありがとうございます。

　あの…」

何か言いたそうな玲子を見て、声を掛ける。

「どうしたの？」

「慎一さん。

　どこにも行かないでくださいね。

　シャワーから出て来て、慎一さんがいなかったら、泣いちゃいます。」

儚げな声と仕草を見て、慎一の胸は熱くなる。

「い、行くわけないだろ！

　俺は、ここでちゃんと待っているか。

　安心してシャワーを浴びて来て。」

「はい。」

嬉しそうな声を出す玲子に、慎一の男性は猛り狂い出す。

「あと、慎一さん。

　恥ずかしいので、カーテンを閉めていただけますか？」

「お、おう。」

慎一は、玲子に言われた通り、腰掛けていたベッドから勢いよく立ち上がる。

その刹那、はらりと腰に巻いていたバスタオルが外れ、節操の無い程猛り狂った慎一の男性が白日の下に露わになる。

「…」

「…」

玲子は、目を見開き、慎一の男性を注視し、慎一もバスタオルが外れ顕になった自分の男性を注視し、二人の時は止まったようにしばらく身動き一つしなった。

「わ！」

慎一が慌ててバスタオルで男性を隠すと、玲子は金縛りから解けたように真っ赤になった顔をバスタオルで隠すようにしてバスルームに逃げ込む。

「か、可愛いなぁ」

慎一は玲子の後ろ姿を見送り、言われた通りにカーテンを閉めてベッドに腰掛け、玲子が出てくるのを待つ。

玲子は、シャワーを浴びながら、先ほど目撃した慎一の男性を思い出していた。

（この前よりも、大きいのでは…）

前回、目撃した時はフォースが尽きた状態で、今回は始まる前、フォースがマックスになった状態だったので、玲子の感想は当たっていた。

（あれが私の中に入ってきて、暴れまわった？

　すごく中まで入って来たと思ったけど、当然よね…）

玲子は息を小さく吐き出すが、顔は上気していた。

（痛かったけど、出血はほとんど無かったな。

　今日も無いといいのだけれど。

　痛いかな？

　少しは気持ち良くなるかなぁ）

考えていると女性の中が熱くなったような微妙な変化を感じた。