第18話 のような香り
ふと気がつくと、帰ったはずの裸の玲子が慎一の傍らに横たわり、何かを訴えているようだった。
いつの間にか全裸になっている慎一は、体を起こし、玲子に近づくと、玲子は嬉しそうな顔をして、慎一の方に向かって両手を広げている。
「レイレイ」
慎一は暴発寸前の男性を、構わず玲子の女性の中に埋めて行く。
玲子は眉間に皺を寄せ、切なそうな表情をしながらも、慎一を受け入れていく。
「うぅ、レイレイ。
ダメだ」
慎一はあまりの気持ち良さに、一気に爆発し、そこで、ハッと目が覚める。
「うわぁ、まただー!」
慎一は替えのパンツを手にして、洗面所に入り、サッとシャワーを浴びてパンツとパジャマを着替える。
「夢精なんて、10代の時以来だな…」
誰もいないが、慎一は恥ずかしくなり、顔を赤らめる。
「昨日の夜、洗濯機を回したけど、さすがに、このまま夜まで置いておくのは嫌だし、もし、居ない時にレイレイが来ると大変だからな。」
時計を見ると、5時30分を回ったところで日の出には、まだ早かったが、少しずつ外が明るくなり始めていた。
「仕方ない。」
慎一は、パジャマとパンツを洗濯機に入れて、回し始める。
「ふぅ」
ため息をついて、ベッドにうつ伏せになると、まだ、玲子の残香が香っている気がした。
次の週。
平日、日課になり始めたように、ネクタイを締め、身支度を整えてから自撮りした写真を玲子にメールで送る。
玲子からは、ネクタイのチェックの他に、髪形のチェックが加わる。
しかし、慎一はそれも楽しくて仕方なかった。
そして、最後に『いってらっしゃい』のメールで気持ちよく会社に向かうことができるようになった。
当然、会社でも以前にはなかったように、皆と軽口を叩くようだなっていた。
家に帰ると作り置きの玲子のカレーが楽しみで毎日食べても飽きることはなく、作り置きの三食分は順調に消化されて行く。
週半ば、玲子が慎一のマンションを訪れ、持って来たクッキーをテーブルの上に置くと、テーブルの上には他に透明な袋に入った綺麗で色鮮やかな金平糖が置いてあり、横に『レイレイへ』と書かれたメモがあった。
「また、そう呼ぶ。
私は玲子ですってば。」
玲子は笑いながら一人事を言って、水色の金平糖を一粒袋から取り出すと口に入れる。
「あ、甘くて美味しい!
慎一さん、ご馳走さまです。」
玲子は鼻唄まじりに持って来た袋から、男性物のワイシャツを取り出すと、シワになっていないかチェックする。
「よし、大丈夫ね。」
シワになっていないことを確認すると、1枚ずつハンガーに通し、他のワイシャツの間に吊る。
玲子の持って来たワイシャツは2枚で、1枚は、白地に深緑の縦のストライプの入ったもの、もう1枚は、水色の下地に濃紺の縦のストライプたが入っていた。
どちらも若々しく、洒落た色柄だった。
「頭が堅いユーザーが多いと言っても、いつも白の無地のワイシャツだけなんて、つまらないですよ。
このくらいなら、いくら堅いと言っても、許容範囲です。
本当は、ピンクとかレモン色だとかカラフルなものにしたかったけど、いきなりじゃ、さすがの慎一さんも、目を白黒させちゃうわね。
まあ、徐々にと言うことで、うふふ。」
玲子はワイシャツを見ながら笑うと、次に冷蔵庫の中身をチェックする。
冷凍庫を見ると、冷凍カレーは、一食分を残すだけだった。
「まさか、毎日、カレーを食べているのかしら。
冷凍ご飯も減っているし。
でも、それだけだと、栄養が偏ってしまわないかしら。
う〜ん、どうしよう…」
玲子は時間とにらめっこした後、冷凍庫を開けて食材を確認すると、腕まくりをして、一心不乱に料理を始める。
ただ、その顔には、嬉しそうな笑みがこぼれていた。
その夜、慎一は逸る気持ちを抑えながら足早に帰宅する。
夕方に玲子から、夕飯の支度があるとメールを貰ったからだった。
玄関ドアを開けると、美味しそうな良い香りが漂っていた。
メールには、おかずが冷めたらレンジで温めて食べるように、ご飯は1膳ずつラップで包んであるので、食べきれない分は冷凍庫に仕舞うこと、お味噌汁は温めて食べることと書かれていた。
書かれている通り、テーブルの上には、ラップがかけてあるおかずとご飯が並んでいた。
また、ワイシャツも2着、新着したので恥ずかしがらずに着て欲しいとも書かれていた。
慎一は、着替えながら、玲子が買い揃えたワイシャツを眺める。
「うわ、柄物だ。
こっちはカラー。
だけど、このくらいなら、皆着ていたな。
…
…
着てみよう。」
玲子の買って来たワイシャツとネクタイを見ながらニヤニヤして、慎一はテーブルの前に行く。
テーブルの上には、豚肉の野菜炒め、かぼちゃの荷物、レタスとトマトのサラダが並んでいた。
慎一は玲子に言われた通り、ご飯とおかずをレンジで温め、お味噌汁を温める。
お味噌汁はキャベツのお味噌汁で、全体的には野菜が中心のメニューになっていた。
味付けは、どちらかと言うと、上品な味付けで、美味しく、また、身体中に不足していた野菜が行き届く気がした。
「美味いなあ。
こんな美味い料理を毎日食べられたらいいなぁ。」
感激からつい、慎一は本音を漏らす。
食べ終わると、慎一は『ありがとう』のメールを玲子に送る。
すぐに玲子から返信が届く。
メールには、明日からも出かける格好の写メを送って欲しいと書かれていた。
慎一は、玲子が選んだネクタイを一通り付けたので、明日から写メをどうしようかと考えていた。
写メを送って、『いってらっしゃい』の返信を受け取る。
まるで、新婚夫婦が毎朝、旦那さんの身繕いをチェックし、送り出すのを遠隔でやって貰っているような気がして、いつの間にか楽しみになっていた矢先だったので、ほっとした。
その夜、いきなり玲子が慎一のマンションにやって来る。
「レイレイ、どうしたの?」
「ううん、慎一さんがちゃんとご飯を食べたかなって心配になって、見に来ちゃった。」
「こんな夜中に?」
「うん。
何か寒い。」
「それはそうだろう。
まだ、時期的に朝晩は冷えるよ。」
玲子は、ノースリーブの白いワンピースを着ていた。
慎一は、掛け布団を持ち上げ、玲子を誘う。
玲子は嬉しそうな笑みを浮かべて、慎一の布団の中に入り込む。
布団の中は、途端に甘いような玲子の良い香りでいっぱいになった。
「レイレイ…」
「慎一さん」
2人は、いつのまにか洋服を脱いで、全裸で抱き合う。
玲子の柔らかな手が慎一のいきり立った男性をそっと握る。
その手は、握ったり、緩めたり、そっと撫でるように動かし、慎一の男性を刺激する。
「レイレイ!」
慎一は、玲子の女性に触れると、十分過ぎるほど、玲子の女性は慎一の訪れを待っているようだった。
慎一は、指で玲子の女性をかき乱すと、女性の中に指を入れて行く。
玲子の女性の中は、とても柔らかく、温かく、気持ち良かった。
耳元では、玲子がハァハァと喘ぎ声を上げている。
玲子の体からは、甘美な香りが漂う。
慎一は我慢出来ずに、玲子に馬乗りになると、腰を突き上げる。
玲子は、慎一の男性を持ったまま、女性の中に慎一を誘った。
「レ、レイレイ!」
あまりの気持ち良さに、慎一は一気に大噴火を起こし、目が覚める。
「あ、またやっちまった。
俺、溜まっているのかなぁ」
慎一は、そそくさとパンツの替えを持って、洗面所で着替える。
「早くレイレイに会いたいな。」
慎一は着替え終わるとベッドにうつ伏せになって悶えていたまま眠りについた。
翌日、玲子が選んだワイシャツとネクタイをして、写メを玲子に送る。
玲子か、は、すぐに返信があり、ニコニコ顔のスタンプが送られてきた。
ワイシャツとネクタイの組み合わせは玲子が思った通りの組み合わせだったのと、よく似合っていたからだった。
そして、いつもの『いってらっしゃい』のメールに添付されている笑顔の玲子の写メを見ながら、ふと、玲子の香りを思い出し、慎一は機嫌良く会社に向かった。
その週の週末の金曜日。
玲子のもとに華子から電話がある。
「お姉様?」
「玲子、どうなの?
そろそろタイムリミットよ。
良い人は見つかったの?」
「え?
ええ。」
「じゃあ、良かった。
あとは、タイミングを見計らってだわね。
一応、再来月に旦那のあれを提出したもらう手筈だから、それに合わせてね。」
「はい。
わかっています。
お姉様。」
「本当、聡明な妹を持つと、すごく助かるわ。
玲子は私の自慢の妹だわ。」
「お姉様。」
玲子は華子に褒められて嬉しそうな声を出す。
「もう、その彼氏に、破瓜してもらったの?」
「え?」
「その声じゃ、未だみたいね。
早くした方がいいわよ。
最初は痛いだけだから、気持ち良いと思えるようになってからにしなさいよ。
あ、違う電話が。
じゃあね、また、掛けるね。」
「お、お姉様?!」
しかし、電話は既に切れていた。
「もう、お姉様ったら。
…
でも、決めたら早い方がいいのかな。
慎一さんか。」
玲子は一人で頷き、何かを決めたようだった。
そして、そのままメールをする。
メールの相手は慎一。
「え?
なに?
明日の午後、空いているか?
当然、空いているけど、日曜日じゃないんだ。
取り敢えず、空いているよと。」
慎一が返信を送ると、すぐに玲子からメールが届く。
「明日、午後の3時頃におじやまします?
ここにか?
やばい、洗濯と掃除をしなくちゃ。
え?
日曜日も予定通りだって?
もしかして、泊まるとか?
まあ、それはないか。
でも、一応、布団乾燥機を掛けておくか。
二日続けてレイレイに会えるのか。
うほほ〜いだな」
浮かれまくる慎一だった。
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