ラスト・フェスティバル

赤城ハル

ラスト・フェスティバル

「みなさん、すでに知っているとは思いますがショピングセンターサンフレアが冬に閉店いたしますので今年が最後の夏祭となります」


 町内会会長が悲しむそぶりもなく淡々と告げた。

 周りのみなもまた前から知っていたので誰も悲しむものはいなかった。

 地元の祭はショピングセンターサンフレアが駐車場を提供してくれていて、そのおかげで毎年祭を開催していた。だが、そのサンフレアが冬に閉店となり、サンフレアと駐車場跡地にはマンションが建つと言われている。


「えー今年は最後ということでサンフレア及び周辺の協賛店から例年以上のお花を頂きました」


 お花というのは寄付金のことである。協賛店にはお店だけでなく地元の病院や美容院、葬儀屋も含まれている。


「いくらだい?」


 年配の羽田さんが尋ねる。


「45万です。例年の2倍ほどですね」


 それに予算を入れると結構な額になる。


「皆、祭がなくなって悲しいんだろうね」


 羽田さんが寄付金から推測して言う。


「いや、本当はせいせいしているんだろ。だから最後は景気よく2倍出したんだろ」


 と、山口さんが皮肉をこめて言う。彼は祭の寄付金の集金を担当していたこともある。そんな彼が言うのだから誰もすぐには否定はできない。さらに山口さんは続けて、


「それで、今回はどうするんだい? 寄付金もあるんだろ? 最後はどでかく何かやるのかい?」

「その件なんですが。みなさんは何か面白い案はありますか?」

「と、言われてもねえ」

「著名人を呼んだらどうだい。力士の剛良乃関ごらのせきは? あいつ出身ここだろ?」

瓶鳥びんとりは? ほら衆議院の?」

「つまんねえもん呼ぶなよ」

「芸人ザッツ・ア・ブイの綾瀬は?」

「人を呼ぶんじゃなくて、打ち上げ花火を飛ばそうや」

「アホ! どこで打ち上げるんだよ」

「上田くんは何かあるかい?」


 と、会長は私に話を振る。


「えっと、その……屋台を増やすとか」




 家に帰って妻に町内会のことを話すと、


「婦人会でもそうだったわ。最後に何かしようと考えるも纏まらなくてね」

「何か良い案はないのかって問われて困ったよ」


 妻は肩を竦め、溜め息混じりに、


「案なんてタレントを呼ぶか、花火でしょう?」

「う~ん、小さな町にタレントは無理だろ。地元出身でも厳しいだろうし。花火は打ち上げ場所が必要だろ」

「そういえば武田くんは来てたの?」

「ん? ああ!? 彼は休みだったよ」


 彼は私と年齢が近いので仲が良い。その武田くんは今日になって奥さんが破水したので産婦人科に奥さんを送ることになったので今日は欠席した。


「もう、生まれたのかしら?」

「よし連絡してみよう」


 メールを送ってみるとすぐに赤ん坊の写真付きの返信メールが届いた。予定日より早かったけど無事出産したらしい。


「いやー、すごくかわいいー」


 妻は俺のスマホぶん取り、赤ん坊の写真を見て黄色い悲鳴を上げた。




 次の休みに見舞いに行き、奥さんの相手は妻に任せ、俺は武田くんと外のベンチで話をした。


「この前の町内会は祭の件だったよ」

「ああ、今年で終わりなんですってねえ。なんか残念ですね」

「それで寄付がたくさん貯まったので最後に何かしようってことになったんだよ」

「それで何に?」

「いや、それが決まらなくてね。次の町内会で互いが考えた案を発表することになったんだよ。別になければないで構わないだって」

「自分は子供たちの思い出に残ってもらうようなのがいいですね」

「ほう」


 私が感心すると彼は照れながら、


「あ、すみません。なんか子供ができるとつい」

「いやいや、いいんじゃないか。今度発表してみてはどうかな」




 そして次の町内会で武田くんは、


「ご当地キャラを呼ぶなんてどうでしょうか?」

「この町にご当地キャラはいなかったと思うが」


 羽田さんが首を傾げて答える。会長も頷く。


「はい。でも、この町でなく市のご当地キャラや県外からご当地キャラを呼ぶというのはどうでしょうか?」


 そして武田くんはプリントを配り始める。


「上は地元のゆるキャラです。県外の文字から下は県外のゆるキャラ一覧です。一応予算と寄付を考慮したうえで来ていただけるゆるキャラ一覧表です」

「なんか知らねえやつばっかだな」

「俺もだよ」

「これが市のご当地キャラか? 変な名前だな」

「ご当地キャラとゆるキャラの違いってなんだ?」


 山口さんが疑問を投げる。


「ご当地キャラは市のマスコットで、ええと、ゆるキャラも似たようなものですので深く考えないでください」

「ふーん」


 反応は薄かった。残念だがどうやらあまり受け入れられなかったようだ。


「では次に……」




 その日の夜、会長から電話がきた。


「武田さんとこの電話番号知ってるかな?」

「どうしたんです?」

「ん、ちょっとご当地キャラについて知りたくてね」


 会長の次に羽田さんから電話が。


「もしもし」

「夜分すまないが君、武田さんの電話番号教えてくれる?」


 その後も町内会の面々から武田くんの電話番号を教えてくれと電話が掛かってくる。




「いやーびっくりですよ。次から次へと」


 と、武田くんは笑った。

 どうやらゆるキャラというものが会長や羽田さんたちの孫たちに相当受けたらしい。渋っていた人たちも孫が喜ぶならと賛成側に回った。しかも足りなければ出すとまで言ってきたとか。




 こうして最後の祭は子供たちに喜んでもらうためにゆるキャラを呼ぶことになった。

 夏祭は大盛況とはいかないが例年以上の集客で今までの中で最高の夏祭となった。




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ラスト・フェスティバル 赤城ハル @akagi-haru

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