見えない君と、最高の夏祭りを

和泉秋水

夏祭り

 俺の幼馴染みであり彼女でもあった西野瀬奈。

 今年の2月29日に一度会うことができた。


 その時に聞いたがいつもは俺の周りをフヨフヨしているらしい。

 だから今年の盆に開かれる夏祭りも一緒に楽しむことができるだろう。


「海斗お兄ちゃん、じゃあ行こっか」

「ああ」


 瀬奈の妹の理奈が浴衣を着て俺の腕を引っ張る。

 理奈は高二。女子としていろいろと成長しているのだから胸をわざと押しつけるのはよしてほしい。


 俺と理奈は家の近くの河川敷に歩いて向かう。

 毎年、盆の日に河川敷で夏祭りをやっている。様々な屋台が立ち並び多くの人でごった返し、花火も上がる。そんな夏祭りだ。


 今はもういない瀬奈も隣にいることだろう。実際に見ることはできないがそこにいると感じることができる。


「瀬奈また三人で夏祭り楽しもうな」


 いるであろうその場所に声をかける。


 さて河川敷に到着した。時刻は午後六時。

 花火が始まるのが七時半なので十分に早い時間に来たのだが、それでもなお多くの人が来ていた。


「すごいな」


 俺はあまりの人の多さに引いてしまう。


「お兄ちゃん、手繋ご?」

「あ、ああ。この人混みだと逸れてしまいそうだからな」


 俺は理奈と手を繋ぐ。


「まずは何から見る?」

「うーん、じゃあ一通り見てみてその後何か食べよう」

「そうだな」


 俺たちは流れに乗って屋台を見ていく。

 金魚すくい、射的、くじ引き、ベビーカステラ、たこ焼き、お好み焼き、ヨーヨーすくい、焼きそば、わたあめ、りんご飴……。

 やはりどれも楽しそうで美味しそうだった。


 数十分ほどかけてなんとかほぼ全ての屋台を見て回った。こいう時は瀬奈が羨ましい。


 そしてまた流れに乗って、めぼしいものを買っていった。

 結果、焼きそばやお好み焼き、たこ焼きといったものから、ベビーカステラ、りんご飴を買い、人混みから離れて比較的人が少ないところに座り、食べながら花火を待つ。

 花火まであと十数分といったところか。


「お姉ちゃんも楽しんでるかな」

「楽しんでるだろ」


 俺はお好み焼きを口に入れつつ、瀬奈のことを思う。

 もしまだ生きていたなら三人並んで座って楽しんでいただろう。

 だけれど瀬奈はいない。今は二人。


 だが人の秘密を暴露するあいつのことだ、今は俺たちの心配をよそにどこにでも好きなようにしているだろう。見えないからって友達をからかったり、何か変なことをしているに違いない。


「あっ、お兄ちゃん、花火が上がったよ」

「おっ、そうか」


 空を見上げる。

 すると大きな花火が咲く。

 続けるようにして次々と花火が上がり夜空を花火で染めていく。

 瀬奈と三人で花火を見にきた日を思い出す。

 小さい時は家族総出で場所を取り、楽しんだものだ。あいつがわたあめを食べると顔にべったりとわたあめをつけていた。

 去年の夏も三人でこうして来ていたのだが、まさか一年後にはもう三人でみることはできないと思うはずもない。

 俺はいつのまにか涙を流していた。


「お兄ちゃん、私はいなくなったりしないから」

「ああ、ありがとう」


 理奈に慰めてもらった。

 大人が高校生に慰められるとは、少々恥ずかしい。


 花火が上がって咲いては瀬奈との思い出を思い出し、消えると思い出も消えていく。

 そんな感じで花火を見つめていた。


(瀬奈、見てるか。やっぱりお前がいねえとつまらねえよ)

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見えない君と、最高の夏祭りを 和泉秋水 @ShutaCarina

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