肉、肉、肉!
狐付き
肉の祭りは2回戦が本命
東京食肉市場まつり。毎年2日間だけ行われる肉のイベントだ。
品川駅から徒歩5分くらいにある東京食肉市場。普段は市場だから一般人ではなく卸売で業者が訪れる場所なのだが、その日だけは一般に開放される。
ボクがそこへ行ったのは2019年。去年のことだ。
毎年どこのブランド肉を扱うかが変わり、今回はいわて牛だった。超ブランド肉だ。とはいえ市場で行われるのだからきっとお安い。それでも少し財布に余裕をもって向かった。
ネットである程度の情報は得ていたのだが、実際行くとそれは大して役に立たなかった。
まず、人気店は行列。大抵の店は並んでいるのだが、角にある店なんかはロープで仕切られ制限されている。他の店は5人くらい1列で並び、他の客が店から出たら入れるシステムだ。
制限されているなら戦場というほどでもないじゃんと思われるだろうけど、狭い店舗の中に30人くらいいるんだ。これ以上いたら収拾がつかなくなるところで止められているだけだ。ゆっくり肉を見ている暇なんてない。
後ろからかかるプレッシャーは相当なもの。満員電車状態だ。電車のように揺れてないだけマシレベル。少しでも隙間ができたら入り込まれるし、前に隙間ができたら入らないと進めない。力に頼るのはだめだ。それはひととして問題ある。
買った人間が出て行っても次がすぐ補充されるから人口密度は変わらない。がんばろう。
そして肉が並ぶ冷蔵ショーケースの前にたどり着いたお客様はキングだ。やっと肉を見ることができる。
……高い。高いよ!
いや、いわて牛なんだから当然高いのはわかっている。そしてここに並んでいるものが普通に買うよりも安いのもわかっている。だがちょっと予算的にぎりぎりだ。
でも親からも頼まれているし、せっかくだからいいものを。ボクは店員にヒレ1キロを注文した。
「1キロはちょっとないなぁ」
「4人で食べるから4等分でいいです。あと少ないよりも多いほうがいいです」
「わかった。ちょっと待ってて」
そして持ってこられたのが1つ3200~3600円くらいのヒレ肉4枚。
店売りなら全部で2万以上はするから安いけど、それでも高い。
「これでいい?」
「いいですよ」
「じゃあこれが2500円で、これも2500円で……これも2500円でいいや。全部で1万円」
そういうシステム!?
そうか、ここは値引き合戦を繰り広げる場なのか! てか1万円って安いな!
あのいわて牛のヒレが100グラム1000円以下。マジかよ。もうこれ以上値引きしてもらう必要ないじゃん。この店員様の言いなりで支払おう。
買った肉を家から持ってきた保冷剤入りクーラーバッグへ入れ、離脱。あれだけ苦労してたどり着いたというのに、出るときはみんなササっとどいてくれる。
欲しいものが手に入ったらこの祭りの次の楽しみを行う。
『無料試食会』
無料の! 試食会である!
いわて牛を! 無料で! 食べられる!
いやこれは無理。朝一番で行って並んで食べないと終了している。ボクが来たときもう既に終わってた。次回開始まで2時間以上ある。クーラーバッグ持って2時間待つのは流石に嫌だ。
えっ、もつ煮ならまだ残ってるの!? 並ぶ並ぶ!
いわて牛のしゃぶしゃぶはもう終わっていたが、もつ煮は在庫あり。そりゃ並びますよ。今回もつは買ってないし、タダだし。
もつはいわて牛だからといって特別美味いってものではなかった。普通のもつ煮。とはいえ普通に美味いんだけどね。もつ煮ラブ。
あとは牛革製品の店が並んでたり、豚肉をメインで扱っているブースもありで、なかなか楽しかった。しかし予算とクーラーバッグの容積が厳しい。すまん、豚肉。
そして家に帰ったら食肉まつり2次会、いやさメインともいえるステーキ祭り!
1枚250グラム強のヒレ肉! 食べ応えあるぞ!
厚い肉だけどいい肉はレア気味がいい。片側強火で1分半、それを両面。
焼き終わったらアルミホイルで軽く包む。余熱で中まで熱を通そう。
その間にフライパンからうまいこと脂を取り、肉汁にしょうゆとみりんを加えて軽く火を通して和風たれを作る。
たれ作りが終わったらアルミから肉を出し、切る。そして皿に乗せてたれをかけ完成。あとはごはんとわさびを用意して食べるだけだ。
肉! 美味い! 幸せ!
和牛の甘みと旨味が同時に口内を占めてくる。
わさび効かないよ! 倍付け! 効かない! 3倍増し! 効かない!
いい肉だからといってわさびも本わさびというわけではない。本わさびは香りがいいだけで辛味で言えばチューブのわさびのほうが強い。だからボクはチューブのわさびを好む。だというのに全てのわさびを寄せ付けない脂の旨味。素晴らしい。
これだけいい肉なんだからさぞかし家族も喜んでいるだろうと思って聞いてみたら姉がひとこと。
「私、もっと肉っぽい肉のほうが好きだな」
がんばって買ってきたのに!
肉、肉、肉! 狐付き @kitsunetsuki
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