あらやだ!?改変、桃太郎!!

さとうたいち

あらやだ!?改変、桃太郎!!

昔々、四丁目と三丁目の間にある公園があるじゃんか。中学生がよく溜まってるところ。あそこにおじいさんとおばあさんが住んでいました。すべり台の下で。


毎日、同じ服を着ているおじいさんとおばあさんは、さすがに洗濯したいわってなったのでジャンケンをしました。勝ったのはおじいさん。


おばあさんは拾った50円を手にコインランドリーへ向かいました。


おじいさんはやることがなくなったので公園で草むしりをし始めました。すると、町内会のおば様たちが「あらぁ、ありがとうございます〜。いつも。」と言ってきました。

おじいさんは、チャンス逃さねぇぞと思い「褒めてくれるなら、お金ください!」と言いました。


おば様たちが引きました。


おじいさんは怒りました。「同情するなら金をくれぇ!」


おば様たちは「いや同情はしてねーよ」っていう顔で去っていきました。


一方その頃、おばあさんは最寄りのコインランドリーについた模様。しかし、おばあさんは気づきました。「300円!?」そう。コインランドリーは50円ではできません。


あらどうしようかとおばあさんが悩みつつ外を見ると、真ん前に川が流れていることに気づきました。これしかないと決めつけ、おばあさんは川へ洗濯に。


しかもこの川、河原があるタイプではなく、ガードレールがあってそのガードレールの向こうからは断崖絶壁タイプの川なのです。


おばあさんはさっき拾った業務用のホースを自分の体とガードレールにくくりつけ、洗濯を始めました。その姿はまるでトム・クルーズ。洗濯インポッシブルです。


いかにも美しいそれを写真に残そうと、偶然そこに居合わせた写真家の桃太郎がおばあさんに言いました。


「写真家の桃太郎です。写真撮ってもよろしいでしょうか?」


おばあさんは思いました。「ここで?」って。「実写化とかでよくある無理クリな改変じゃんダサ」って。おばあさんは昔話大好きっ子なので、写真を断り、桃太郎はトボトボ帰っていきました。


おばあさんがインポッシブルを続けていると、川上からどんぶらこどんぶらこと写真家の桃太郎が泳いできました。


「写真家の桃太郎です。先程は失礼しました。接写してもいいでしょうか?」


おばあさんはめちゃくちゃにシカトをしました。「あとは靴下だけねぇ」なんて言いながら。


「おばあさん!!接写よろしいでしょうか!!」


それでも桃太郎は諦めません。


「おばあさん!!!接写!よろしいでしょうか!!!」


「おばあさぁぁあん!!!!接写ぁあ!!よろしいでしょうかぁぁあ!!!!」


どんなにビックリマークをつけようがおばあさんはめちゃくちゃにシカトします。そして、おばあさんは気づきました。こんなにしつこく言ってくるということはこいつはただのキラキラネームではなく、本当に本物の桃太郎ななのだと。「まじか」おばあさんの口から気持ちが漏れました。


「おばあさぁぁぁああん!!!!接写ぁぁぁぁあ!!!!よろ」


「そんなことしてる場合ですかぁああ!!」


おばあさんが桃太郎物語を諦めかけたその瞬間。ちびまる子ちゃんに出てくる花輪くんの執事みたいな人が川上からどんぶらこしてきました。そう、ゲームマスターです。桃太郎のゲームマスター、桃田賢斗さん。いかにもバドミントンが強そうな名前ですが、生涯やることはないだろうと、そう語っていました。


ゲームマスター桃田さんがやることはただ一つ。昔話「桃太郎」を成功させること。なんかよくわからない桃太郎を見て、並々ならぬ思いでどんぶらこしてきました。


「あなた、桃太郎でしょ!?わかってます!?ねぇ!なにしてるんですか!?主人公なんですよ!まだ序盤なんですよ!」


桃太郎は真面目な顔で言いました。


「おばあさんを接写しようとしています。がしかし、中々許可をもらえなくて、、」


桃田さんは呆れ顔。おばあさんも呆れ顔。桃太郎はマジな顔。それでも桃太郎はそういうのに気づかないタイプなのでおばあさんに接写を迫ります。


「おばあさん!接写!よろしいですか!!」


しびれを切らしたおばあさんは言いました。


「よくないから!ババァの肌は接写しちゃだめだし!あなた、桃太郎なのよね!?まず桃の中入ってなきゃだめじゃない!?」


すごく嫌そうな顔をして桃太郎は言います。


「いや、あの一回入ったんですけど、すっごいヌメヌメするんです。あの中。あと狭いし。何もすることないし。」


ゲームマスターとおばあさんは桃太郎がゆとりであることを悟りました。


「ゲームマスターがなんとか変えることはできないの?」


おばあさんがゲームマスターに問いかけます。すると、ゲームマスターは手術失敗しましたみたいな顔で答えます。


「本人の意思がないと、ダメ、なんですよね…」


ゲームマスターとおばあさんが肩を落とし、途方に暮れていると、拾ったバスタオルを腰に巻いた、まるでメロスのようなおじいさんが遠くからやってきました。


「おーい!まだーー?全然来ないから公園の草全部抜いちゃったよ。公園の草全部抜く。なんちって!」


おじいさんは冗談を言ったあとに、現場の空気に気づくタイプ。


「え?どうしたの?」


GMがおじいさんに事細かに説明をしました。


「えー。しっかりしてよー。桃太郎くーん。」


桃太郎は驚いた顔で


「え?これ僕が悪いんですか?」


とかぬかします。温厚なおばあさんもめちゃこわい顔してます。


「いやこれほんとにどうすんの?わし、草むしりしてただけになっちゃうよ?てか、鬼側ももう、キャスティングしてあるんだよね?」


おじいさんがGMに問いかけます。


「そうなんですよねぇー。鬼さん、メイクの時間とかあるから、それでこう、中止ですみたいなことになるとー、怒るよなーと思って、なにか解決策はないかと考えてはいますが…」


「じゃあ、みんなでラウンドワン行き」


空気の読めないゆとり桃太郎が元気な声でなにかを発言しようとしたので、おばあさんが桃太郎の口を封じました。


その時でした。


ドスン!ドスン!ドスン!とiPhone8からフリー素材「鳴り響く足音」を流しながら鬼がやってきました。


「え、まって?まだここ?1日でやろう言うてたじゃーん。桃っち。」


鬼役は意外にも可愛げのある奴で、俳優でいうところの千葉雄大です。


「鬼さん、すいません。」


「まー多分、桃っち悪くないだろうから謝んないでー」


「鬼さん、意外に優しいですね」


「敬語やめよー桃っち。」


そんなやり取りを見ていたおじいさんが言いました。


「ここ、原宿?若さすごいんだけど」


おばあさんが拾ってきた拡声器を使い呼びかけます。


「ここからどうするんですかぁーー!」


「うぁっ!耳ぶっ壊れますよ!」


ゆとり桃太郎は耳だけ正常です。

GMが冷静かつ的確な一言を言います。


「皆さん個性豊かすぎて収集つかなくなってますから!電車が海走ってるようなもんですから!真面目にやりましょう!」


ぐうの音も出ないこの一言によってみんなの意志は固まり、まじめにやることになりました。


さあ、改めまして。昔々、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。


ある日、おばあさんは川へ洗濯に、おじいさんは山へ芝刈りに行きました。


「山に芝刈り行く必要ある!?」


おじいさんの声は聞こえません。おばあさんが川で洗濯をしていると、川上からどんぶらこどんぶらことガッチガチなボートに大きな桃を乗せた桃太郎が来ました。


おばあさんはすぐさま桃太郎を拾ったハリセンでツッコみ、桃太郎を桃の中へ入れました。


「桃の中入ったことあんのかぁー!牛乳こぼした時くらい後悔すんだぞ!」


桃太郎が桃の中でなんか言ってますが、おばあさんには聞こえません。


そして、おばあさんが桃を流し直し、急いで定位置につくと、川上からどんぶらこどんぶらこと大きな大きな桃が流れてきました。


おばあさんは「いやぁぁぁあ!」と驚きましたが(※おばあさんは昔話大好きっ子です。)大きな桃をおじいさんに見せようと桃を持ち帰りました。


おじいさんが芝刈りから帰ると、あることに驚きました。


「家だ!家がある!自分ちじゃん!すべり台の下だったのに!」


おばあさんが拾ったハリセンで「そっちじゃないよ!」とツッコむと、おじいさんは大きな桃に気づきました。


「お、大きな桃じゃのう。早速切って食べてみよう!」


そう言っておじいさんは斧を持ってきました。


おばあさんは不敵な笑みで「中身まで全部切っておくれよ」と言います。「わかりました」おじいさんはいい声でそう言い、斧を振り下ろしました。


ドゥクシ!


パッカーン!


すると中には人間が入っていたのです!運良くその人間は何かを察し、全力で体を縮こめ、全力で左端へ寄っていました。それにより斬られずにすんだのです。


おじいさんとおばあさんは仲良しみたいに声を合わせ、「ちくしょうが!」と言いました。


桃から出てきた人間にまだ発言権はありませんが、桃人間は言葉を発しました。


「ちょ、ホラーすぎません?桃太郎ですよ?おばあさん」


ちょっと納得してしまったおじいさんが言います。


「うん。それは確かに思った。昔話大好きっ子なんだよね?」


「はいはいはい。わっかりました。やりましょう。やりましょう。」


我に返ったおばあさんは仕方ない感じで続きをやることにしました。


「赤子が出てくるかと思ったが、すっかり大人が出てきたわ。23くらいじゃのう。」


「そうですねぇ。おじいさん。私も赤子だと思ってましたわ。さて、この子の名前どうしますかねぇ?名前はなんでも構わないんですよねぇ?なんでもいいんですよねぇ?」


「桃から生まれたから桃太郎なんてどうじゃ?」


「普通過ぎますよおじいさん。もっと奇抜な名前がいいです。トゥルッピョコ日暮里とかどうですかね?」


「え?いや、え?」


おばあさんは力強い目でおじいさんを見つめます。


「あ、え、おおお。いい名前じゃのう。この子もきっと気に入ってくれるじゃろう。」


「そうですよねぇ」


「え!?いやですよ!そんな変なマンションみたいな名前!桃太郎でいいですってば!」


トゥルッピョコ日暮里が口を開きましたが、おじいさんとおばあさんの意志は変わりません。


「なんだい。トゥルッピョコ日暮里。元気だねぇ。」


「はぁーやるしかないのか…」


抵抗するのがめんどくさい日暮里はしかたなーくトゥルッピョコ日暮里を承諾しました。


さて、おじいさんとおばあさんはトゥルッピョコ日暮里を大事に大事に育て、トゥルッピョコ日暮里は大きな大きな日暮里に育ちました。


「誤解されないこれ?」


「大丈夫じゃよ。日暮里。」


とか言いながら、心も大きくなった日暮里は人々を苦しめているらしい鬼をこらしめるため、鬼退治に行くと決意しました。


「行ってきます!鬼、倒してきます!」


元気よく日暮里は旅立ちました。


「いってらー。夜ご飯はいらない感じでいい?」


おばあさんの返事は軽いですが、涙が見えたような、気がしなくもないです。


「あ!」


おじいさんが何かを思い出したようです。


「きびだんご!どうしよ!つくってないじゃろ?」


おばあさんは焦りました。おばあさんにとって一番の見せ場だからです。


「わすれてたー」


「どうするんじゃ!」


「どうしましょう。あ!タピオカあったわよね?さっきおじいさん飲んでたじゃない!」


「ああ。まさか!いやそれは無理があるじゃろう」


「しょうがないのよ。これしかないのよ!」


おばあさんはまるで野球選手のようなフォームで、飲みかけのタピオカミルクティーをトゥルッピョコ日暮里に向かって投げました。


「日暮里ぃー!受け取れぇー!」


少年漫画みたいな声を出しながら。

おばあさんのコントロールは素晴らしく良く、日暮里の後頭部へ直撃しました。


「痛っ!!いった!なにこれ!?タピオカミルクティー!?どういうこと!?おじいさんとおばあさんから!?どういうこと!?」


日暮里は察しが悪いです。

日暮里はタピオカミルクティーを飲み干し、鬼ヶ島に向かいました。


歩いていると、柴犬と猿とキジが現れ、すっごい懐いてきましたが「きびだんごないんかい」ってなり一瞬で引き下がりました。


ということでトゥルッピョコ日暮里は一人で鬼ヶ島に乗り込みます。


「え?これ一人で行くやつだっけ?」


日暮里は察しが悪いです。

そんなことを言っていたら鬼ヶ島についてしまいました。


2メートル超えのチェホンマンみたいな鬼。


「おぉぉーー!やっと来たーー!桃太郎ぉぉーー!」


めちゃくちゃ歓迎ムード。


「いや、トゥルッピョコ日暮里です。」


冷静な日暮里。


「桃太郎来ました記念パーティーしよーぜ!!」


一番のミスキャストは鬼だったのかもしれません。


「いや、トゥルッピョコ日暮里です。」


それでも冷静な日暮里。


「なんだよ!のりわりーな!宝上げるから飲もーぜ!桃太郎!」


もう何しに来たのかわからない鬼。


「いや、だからトゥルッピョコ日暮里です。」


冷静な日暮里。そしてめんどくさくなった日暮里。


「じゃあ、宝もらったら帰ります。」


「いやおい!そりゃねーぜ!俺も行かせてくれや!」


どこまでもめんどくさい鬼。最強にめんどくさくなった日暮里はしかたなく承諾します。


「じゃあそれで。行きましょう。」


トゥルッピョコ日暮里は宝と鬼を連れ、帰ってきました。


「え?鬼連れてない?え?どういうことじゃ?見せしめ?見せしめか?」


おじいさんは困惑しました。


「西新宿。どういうことなのよ?」


おばあさんは困惑のあまり名前を間違えました。


「いや、おばあさん。日暮里です。あなたがつけたんでしょ。あ、えっとーまあこれは、なんかいろいろあって鬼も連れてきました。」


「すいやせん」みたいな顔で首お辞儀をする鬼。


物分りが早いおじいさんとおばあさんは鬼と日暮里と宝を家へあげました。


「さあ、あがってくださんな。」


鬼も嬉しそうな顔で玄関に入ろうとしたその時!2メートル超えのチェホンマンには小さすぎたのか、チェは頭をぶつけました!


ゴッツーン!


すると、その頭をぶつけたところからピキピキピキ!と亀裂が入り、このやすい予算で作った家はあっという間にどっしゃーん!と崩れ去り、宝も下敷きになりました。


犯行意識のあった鬼はすぐ逃げ、日暮里は爆笑し、おじいさんとおばあさんは「またすべり台の下生活か」と絶望しましたとさ。


おしまい。

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